R20
悪の華
XS

遠い明日の誓い
Xanxus34-Squalo32
X×S ほか S受


誓い



1




スクアーロは、ザンザスの変化に気づき始めていた。
からかったり、物を投げつけられるのは相変わらずだが、
エロいことをする時に、殴られることがなくなった。
しかも、本当に時たまだが、意識を失いかけた時、そっと撫でられる時がある。
ザンザスの大きくて熱い手のひらが、そっと髪を撫でる。頬を撫でる。
スクアーロは息を殺して気づかないふりをする。
気づかれたら、きっと離れてしまう。
憤怒の固まりのようなボスが、信じられないくらいやさしくスクアーロに触れる。
そのたびにスクアーロは泣きそうになる。
ボスが欲しいものは何だって差し出してやりたい。
差し出せるものは全部差し出したはずだ。
それがどんな望みでも、ついて行く。
その思いは、ずっと変わらない。
初めて出会った時から、ずっと。
側でいられるだけでいい。
それ以上、何を望む。
過ぎた願いなど、はじめから持たなければいい。
望まなければ、得られなくても失うものはない。

ヴァリアーはそれなりに忙しく、
任務は次々と舞い込んだ。
「今度の任務は、かなり大掛かりになる。
オレが真ん中から突破して、中心戦力をひきつけるから、
レヴィは西、ルッスとベルは東から入れ」
スクアーロはいつものように作戦を立てた。
敵はかなり多く、なかなかの使い手も混ざっていると見たが、
ヴァリアーの戦力の方が上回っているはずだ。
ザンザスは最近はスクアーロまかせで、
今回も側で聞いているだけで、
何も言わなかった。
「スク、もし敵に協力者があらわれたら、
ちょっと危険じゃないかしら。
もう少し、戦力を連れて行った方がいいんじゃないかしら」
ルッスーリアは漠然とした不安を感じていた。
ひとすじ縄ではいかないマフィアで、のらりくらりと逃げられてきた。
やっと攻撃できそうなところまで持って来たのだ。
「大丈夫だぁ。どいつもこいつもたたっ斬って、
三枚におろしてやるぜぇ!!」
「ぬおう。ぬかしたな!! 貴様の援軍になぞいかんぞ!!」
「いるかぁ!!」
レヴィとスクアーロが言い争いを始めたが、
誰も相手にする者はいない。
いつもと変わらない作戦風景だった。
作戦遂行は1時間で行われるはずだった。

スクアーロは、建物の影に身を潜めていた。
作戦開始から2時間が経過しているのに、
敵の本部にまだたどりつけていない。
スクアーロの引き連れてきたペーペー隊員たちはほとんど倒された。
くそっ!!
奴らは、予想していたのの倍の兵士をこのエリアに配置していた。
斬っても斬っても敵は沸いて出て、
いっこうに前に進めない。
敵には、名だたる剣士が数名いる。
3人ほど倒したが、まだいるはずだ。
どうでもいい時なら、戦いを楽しむのだが、今はそんな場合ではなかった。
剣士を倒すより、敵のボスを倒さねばならない。
敵のボスがこの建物の奥にいるのは分かっている。
要塞のように改造された建物は、迷路のようになっていて、まっすぐ進む事ができない。
あちこちにトラップがあり、至る所で爆発が起きている。
敵味方関係なく、やつらは爆発を起こしている。
敵を捕まえても、情報を持っていない。
使い捨てられているのに、それでも敵はこちらにかかってくる。
時間だけが無駄に過ぎていた。
それでも最後の扉を破壊し、
スクアーロは内部に飛び込んだ。
「遅かったですね。いや、早かったというべきか。
さすが、ボンゴレの誇る精鋭部隊ヴァリアーですね。
ここまでたどりつけたとは驚きです」
偉そうに一段高い椅子に座っていたターゲットが余裕たっぷりに言った。
壁のところには、そのファミリー自慢の剣士や、
裏切り者のファミリーのボスや、
金に任せて集めた傭兵たちがスクアーロに焦点を当てて立っていた。
スクアーロは素早く状況を分析した。
ざっと20人はいやがる。
一人ずつなら切り伏せられるが、
明らかに不利な状況だった。
退路を立たれると、この場から去ることもできない。
「ボンゴレ二大剣帝の一人、スベルビ・スクアーロ。
そしてヴァリアーの作戦隊長。
お噂はかねがね耳にしていますよ。
血に飢えた貪欲な鮫のような男だと。
確かに、うちの雑兵はかなりやられたようですね。
だが、貴男の活躍もこれまでです。
ボンゴレは私によい地位を与えなかった!!!
私はボンゴレを継げるぐらいの力を持っているというのに、無視した。
十代目は、我々を一介のしがないファミリー扱いをした。
そのツケを払う時が来たのです。
ヴァリアーを潰されたら、ボンゴレは崩壊します。
ボンゴレを支えているのは、あなたたちの実績と悪名ですから。
いっその事、われわれと手を組みませんか?
あなたのボスは過去にクーデターを企てたと聞いています」
喋り続ける敵のボスの目は爛々と輝き、異常な表情を浮かべていた。
それでいて、全く隙はなく、確かにある程度の力は持っていることを感じさせた。
「貴男をここで殺してもいいが、
われわれの味方になるというなら、見逃してやってもいいですよ。
今ごろ、われわれの刺客がほぼ空になったヴァリアー本部を襲撃しているはずです。
ボスのザンザスの首をとるために。
命ごいをしたら、少し待ってあげてもいいですよ」
「んだとぉ!! てめえら、ボスに何をする気だぁ!!」
スクアーロは怒鳴った。
以前もこんなことがあった気がする。
こんな脅しには屈しない。
「われわれはあなたの力が欲しい。
あなたは大切なザンザスの生存が欲しい。
ちょうどいい取引だと思いますが」
敵のボスはぎらぎらと目を輝かせ、醜い笑顔を浮かべた。
「ともに、ボンゴレに叛旗をひるがえそうではありませんか。
貴男が忠誠を誓うのは、ザンザスであってボンゴレではない。
われわれは貴男を殺したくはありません。
いろいろ使い道もありそうですし」
スクアーロはぎりぎりと歯を噛み締めた。
退路は断たれ、前にも後ろにも進めない。
いくつもの銃口がスクアーロを狙っていた。
あいつらは冷静だ。
指示さえあれば、正確にスクアーロを射抜くことができるだろう。
時間を稼がなければ。
ルッスやレヴィが来るはずだ。
「確かに、ボンゴレ十代目は気に入らねえがなあ。
条件次第だなあ」
スクアーロは振り上げた刀を降ろして様子を見た。
ヒットマンの何人かは、警戒を解いたが、半分はまだスクアーロを狙ったままだ。
敵のボスは椅子から立ち上がった。
部下を制すると、スクアーロに近寄った。
ぎらぎらしてどこか焦点の合わない目がスクアーロを見据えていた。
キチガイの目だぁ。
イカレてる。
スクアーロは冷静に分析した。
「噂どおりの見事な銀髪だな。本当に人形のようだ」
うっとりした表情で、そいつはスクアーロに近づいてきた。
あと少し。
あと少しで、間合いに入る。
ぎりぎりのところで、急にその男は止まった。
「恐い恐い。美しい花には刺がある。
花を摘み取りたいが、刺されたくない」
不気味な男だった。
スクアーロは、そいつを睨みつけた。
まだ、動けない。
もう少しだ。
もう少し持ちこたえたら、援軍が来る。
「大丈夫です。大丈夫ですよ。
貴男は承諾するだけでいい。
あとは、その実績と高名な名前をこちらで使わせてもらいます。
何もしなくていいんです。何も、ね」
スクアーロは言い返そうとして、背後から近づいてくる怒気に気づいた。
「何もしないのは悪いぜえ」
気配はだんだんと高まってきて、
空気の密度が一気に上がってきたようだった。
「では、私の相手などを申し付けますが」
そいつが言った瞬間に、壁に巨大な穴があき、
もの凄い炎が部屋中に立ちこめた。
ヒットマンたちは瞬刹され、床に転がった。
「貴様などにはやらん」
ザンザスは、倒れているターゲットに近づいた。
「た・・・助けてくれぇ!!
ちょっとした出来心だ!!」
必死で弁解するターゲットの額に銃を当てると、無慈悲に引き金を引いた。
「ボス!!」
スクアーロは、傷一つないザンザスを見て喜びの声を上げた。
「ドカスが。てめえのミスだ」
「ぐっ。すまねーなぁ」
悔しそうなスクアーロを見ると、かすかに罪悪感がわいた。
データ上ではこの計画で大丈夫だったはずだ。
ボンゴレ情報局のデータが正確ではなかったのだ。
スクアーロには落ち度はない。
責めるなら本部なのだ。
ザンザスは撃った男をじろりと見た。
こいつはカスザメを何やら勧誘しているようだった。
カスザメも近寄らせるために、何かしたのかもしれない。
スクアーロは、少し帰り血を浴びているものの、全くケガもなく美しい姿のままだった。
ザンザスが来るのが遅かったら、どうなっていたか分からない。
そう思うと、いらいらした。
傷がつくのも気に入らない。
命が無いかもしれないと思うと、むかついてしょうがなかった。
「ドカス、てめえは以前、オレの女はどんな奴でも命がけで守ると言ったな。忘れてねえな」
スクアーロはうなずいた。
「そういうやつがいるかもしれねえ。はっきりしたら、てめえに守らせてやる」
スクアーロは、何を言われたのか分からなかった。
最近ボスに女がいるというのは聞いたことがなかった。
でも、ボスがそう命じるなら、従うしかないのだ。
以前の嫌な女みたいな奴でも、従うしかない。
どこまでも従うと誓ったから。








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