忘却
 
 

忘却の空

1
 
 
 
 
 

乾いた風が吹いていた。
人気のない倉庫街には、
動くものはほとんど存在しない。

不況により、
無人となった倉庫や会社の残骸。
壊れたままで放置された建物。
割れたままの窓。
ドアが半開きのまま錆び付いた車。

この町によりつくものはほとんどない。
そこは、人のよりつかないさびれたゴーストタウン。
夜になっても、
そのあたりにはぽつぽつとしか明かりが灯らない、
死にかけた街。
 
 

動くものの気配のない、
時が止まったかのような道でネコの鳴き声がした。
ニャァアア。

その辺で唯一明かりのついた建物の戸をガリガリとひっかいた。

「あァ、またてめえか」
ドアが開き、
金髪の男が顔を出した。
ハデなアロハシャツに、
黄色い色眼鏡。
白いズボンにエナメルのくつ。

ひと目でカタギではないと分かるいでたちだが、
ネコは嬉しそうに、
金髪にすりよっていく。
「待ってろ、今、なにか残りもんやるからよ・・・」
寒空の下、
ボウルに食い物を入れ、
ネコの足元に置くと、
金髪はしゃがんでその様子をじっとながめた。

「なんだ、サンジのやつ、またネコにメシなんてやってるのか?」
中にいた男たちがバカにしたように、笑って言った。
「おやさしいことで。
親切なこったな。
今夜にでもクロコダイルの組とドンパチ起きようかって時によ・・・」
「ははっ、あいつは今度の抗争には参加できねえ下っ端だからな」
中から男たちの話声が聞えてくる。
「なんで、あのクソ生意気なサンジが今度の抗争に出ねえのか教えてやろうか?
実はな・・・」
「へえ・・・本当かよ・・・そりゃ・・・」
急に声が潜められ、
それからしばらくして、
バカ笑いする声や下靡た冗談が聞えてきた。

「クソやろうどもが!!」
サンジはタバコをふかすと、
一人、誰もいないさびれた街に出た。
 
 

サンジは白ひげ組の下っ端構成員ということになっていた。
肩書きは、ない。
若頭のドフラミンゴに拾われて、
なんとなく居ついているうちに、
正式の組員として扱われるようになっていた。

オレはチンピラでいい。

肩書きなんざいらねえ。
そんなもの、欲しくねえ。
何かが欲しくてたまらねえのに、それが何だかわからねえ。
この組にいたら、出入りとか抗争があるから、発散できる。

じっとしていたら、
もやもやした思いでいっぱいになる。
身体じゅうが腐っちまいそうだ。

身体の中に詰まったどうにもできないイライラ。
こんなもの、いつかはなくなる。
忘却の空にたどりつける。

今だけだ。
オレは戦う。
戦い続けて、
こんなやるせない思いは消してみせる。

生き急いでなんかねえ。
じっとしていられねえだけだ。
 
 
 

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