忘却の空

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白ひげは驚異的な生命力で意識不明の重態のまま生き延びていた。
白ひげの病室を中心に凍り付いていた組は、
動かない組長をそのままに、
再び動きを見せ始めた。
このままじっとしていたのでは、
他の組にも示しがつかない。

ドフラミンゴは組長代理の肩書きを名のり、
対外的な交渉にあたることになった。
その傍らには今まで姿を見せたことのないニコ・ロビンがつきそっている。

「おい・・・見たか?
ロビン姐ごと若頭が一緒に・・・」
「あの二人って冷戦状態じゃなかったのかよ・・・」
「この非常時だ・・・。
たがいのわがままなど通してる事態じゃねえさ」
組員たちはさまざまに噂しあった。

張りつめた雰囲気のドフラミンゴとニコ・ロビンは、
はたからみてもぴりぴりした空気を作り出していた。
 
 
 
 

ナミは束になった借用書のチェックをしながらため息をついた。
白ひげは植物人間状態だが、まだ生きている。
白ひげの命があるかぎり、
ドフラミンゴと姉のロビンは組のために働くだろう。
でも、白ひげが死んだら、
ぎりぎりのところで保たれているバランスが崩れる。

ロビンはドフラミンゴに憎しみを抱いている。
もともと、相性が悪いところに、
ドフラミンゴがよりによって男を寵愛の相手にしてしまった。
それは性癖とか嗜好の問題といえばそれまでだが、
これほどの屈辱はない。

クールな美貌と知性を誇るロビンではなくて、
ちょっと自堕落そうなチンピラだかホストだか分からないようなような男を選んだドフラミンゴ。
それは誇り高い姉を傷つけた。
 
 
 

だが、ドフラミンゴのお気に入りは、
白ひげの命令で、エースの手に渡った。

金髪でお調子者のサンジ。
私に会うたびに、
目はハートになり、
意味不明な美辞麗句を並べたてる。
ロビン姉さんにもそう。
でも、まさか、あのドフラミンゴのかばん持ちみたいな下っ端がお相手とは。

サンジはドフラミンゴの元から離された。
サンジの意志なんてないも同じ。
上層部が決めたことを従うだけだ。
聞けば、大人しくエースの元でいるらしい。

お気にいりがあっさりと、他の男の手に渡る。
ドフラミンゴにとってもこれ以上の屈辱はない。

データによると、サンジは白ひげをヒットした男とかつてただならぬ関係にあったという。
あのエースはどうでるのかしら。

ドフラミンゴは、白ひげが死んだら、
私たちを裏切るのか?
あまり可能性はないと思うけど、
もしもの時のために、私は特別に見込んでる傭兵をここに呼んだ。
金のために、命じられることをする男。
戦いに勝つ事しか頭の中にはない剣士、ロロノア・ゾロ。
 
 
 
 

いまあの男には用はない。
この屋敷でふらふらして、
よりによってあのサンジに食べ物をもらっていたらしいわ。

ロロノア・ゾロへの考えられる指令は、
白ひげの仇をうち、ワイパーの命をとるか、
ドフラミンゴの攻撃にそなえロビン姉さんの命を守るのか、
それとも、
こちらから先制攻撃でサンジの命を奪わせるか。
おそらく、そのうちのどれかになる。
 
 
 

私たちは白ひげの築いてきたものを無に帰したくない。
本当の敵は外にいるクロコダイルやワイパーではない。
ドフラミンゴだ。
そして油断のならないエース。
あの男は飄々としていて、
つかみどころがない。
ドフラミンゴ以上に何を考えているのか分からない。
だけど、白ひげの築いてきたものを守るという点では方向が同じだ。

私とロビン姉さんは、
ドフラミンゴに勝てる権力を得たい。

サンジは鍵だ。
ロビン姉さんとドフラミンゴの亀裂をつくった直接の原因。

ぎりぎりのところで保たれている均衡。
いったん崩れはじめると、もう誰にも止めることができない。
みなが、それを知っている。

何かを捨てなければ、
願うものは手に入らない。

ロビン姉さんがすべてを捨てるというのなら、
私もそれについていく。
それが人としての道を外れることであっても、
修羅の道であっても、
私はその道を選ぶ。
白ひげの娘としての矜持。

それが白ひげの血をひくものとしての使命。
 
 
 
 
 
 
 
 

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