忘却の空

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ロロノア・ゾロはナミからの何の指示待ちでずっと白ひげの館にいた。
白ひげは植物人間というやつらしい。
まあ、オレにはどうだっていい。
そいつがどんな偉大な男だったかは知らねえが、
そいつは負けたのだ。
若頭のドフラミンゴがどうとか、
その妻のニコ・ロビンがどうとか、
その妹のナミがどうとか、
そんなことは興味がねえ。
オレはただ強くなって、「世界一」になりてえだけだ。

剣だけがすべて。
なのに、今、修業をしばし休んでいる。
・・・もうすぐ、アイツが来るからだ。

西日が空を赤く染めるころ、
その金髪はやってくる。
手にはびっしりと詰められた弁当を持って。
赤い空に髪をきらきらと光らせながら、
そいつは来る。

ゾロはその姿を見ると、
しばし野望のことを忘れた。
世界がそいつの色に染め変えられる。
金と赤。
世界の全ての色が代わり、
わけのわからない感情が胸の中にあふれる。
・・・コレはなんだ?
・・・コイツはなんだ?
意識のすべてが目の前の存在に向けられる。
持て余す、わけの分からない感情。
 
 

戦いの日は近づいている。
こんなことに気をとられている場合ではない。
 
 

けれど、目の前にそいつがあらわれると、
すべては意味を成さなくなる。
 
 
 
 

西日を背にして、
サンジはゾロのもとに近づいた。
手には毎日作っている弁当箱を持っている。

聞けば、このアホ剣士は「どうしても食堂にたどりつけない」らしい。
いつ来ても、この誰も人の近寄らない場所にいて、
修業らしきことをしている。
なぜかいつもハラをすかしているので、
サンジは晩飯の他に、
朝食用と昼食用の弁当まで作っていた。

料理をするのは楽しい。
いきなり2番隊長のエースの付き人になったといわれ、
エースのとりまきたちが集まる場所に連れていかれた。
そこでサンジは何もすることがなかった。
エースが下っぱのサンジに「説明係」としてつけたのは、
ギンというやけに腰の低い男だった。

そいつも腹をすかしていたようだったので、
つい、ゾロにやるチャーハンを分けてやった。
そいつは喜んで食った。
だから、サンジはギンにもたまに料理を作ってやっていた。
同じ下っぱ仲間だし、
ちっとくれえかまわねえだろ?
ギンと仲良くなれば、
いろいろラクそうだし。
思った通り、
ギンはサンジが望む食材をいつの間にか手に入れてくれさえした。
サンジが食いきれないほどの大量の食材。
それをギンは黙って入手してくる。
にこにこ笑ってサンジの様子を見ているギン。
ダチだよな。
ヨサクとかジョニーくれえの、無害でお人よしの。

サンジは自分に都合のいいようにしか物事を考えないたちだった。
息がつまるような緊迫した空気が張り詰めるこの場所で、
エースの手下たちはのびのびとふるまっていた。
 
 
 
 
 

黙したまま語らぬ白ひげの存在と影響力は、
それでも絶大なものだった。

その時がきたら、
白ひげの名で繋ぎ止められていたものの全ては、
バラバラになる。
一ケ所でも、どこかがゆるめば、
全てが崩壊する。
 
 
 
 
 
 

どうだっていい。
この組がどうなったって、
オレには関係ねえ。

サンジはいつものようにゾロに弁当や食い物をつくり、
いつもの場所にやってきた。

ロロノア・ゾロは夕陽を受けて、
立っていた。
刀がきらきらと光を反射し、するどい光をはなっていた。
 
 
 
 

サンジが食い物を置くと、
ゾロはがつがつと食いはじめた。

サンジはゾロの豪快な食いっぷりが気に入っていた。
「クソうめえだろ?」

サンジはたばこをふかしながら、笑みを浮かべた。
 
 
 
 
 

ゾロはその笑顔に箸を動かす手を止めた。
サンジは食うのを止めて、自分の方をぼーっと見ているゾロに気づいた。
ゾロの視線に気づくと、何だか急にいたたまれない気分になった。

「あァ?
見てんじゃねえぞ、コラ?
とっとと食いやがれ」
そう言い捨てると、ゾロのために見つけてあった酒を持って来るのを忘れたことを思い出した。

そういや、いい酒あったんだっけ?
明日でもいいか?
いや、やっぱり今日、ゾロにやろう。

「ちょっと待ってろ」
サンジは食ってるゾロに声をかけると、
酒蔵をめざした。
白ひげは美食家だ。
食材も豪勢だし、
酒も極上のものが揃っている。
貯蔵庫だけでも8部屋あった。
サンジは酒蔵の中でも一番奥の部屋に入った。

厚い扉をそっと開け、
気づかれぬように、
ライターの光でこっそり進む。

そこで、見つけておいた酒瓶を手にとった。
 
 
 
 

その時、
いきなり部屋に明かりがつけられた。
まぶしい光に一瞬目がくらむ。

扉を閉めるきしんだ音にサンジは振り返った。
 
 
 
 
 

ドフラミンゴ!!??
 
 
 
 
 
 

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