忘却の空

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エースは無表情に報告を続けるギンに目もくれずに、
気にいりのコミック雑誌を読んでいた。

「それで?」

エースの問いに明らかに、緊張の様子を見せるギン。
サンジの行動に関して、
最近、口が重い。

サンジが会っている男はロロノア・ゾロという剣士。
サンジは料理をその男に作っている。
その男とは肉体関係はない。
ドフラミンゴは酒蔵でサンジを抱いた。

ギンは言葉少なに語る。
その胸の中にはおそらく秘めた想いがあるのだろう。

惚れたな。
この朴念仁のギンさえもその気にさせるサンジ。
まあ、あのドフラミンゴの執着ぶりからしても、
ただの男娼だとは思えない。
では、何だ?

ギンにとってサンジは何だ?
ただの監視の相手のはずだ。
それが、いつのまにか、餌付けされ、
手なづけられている。

ドフラミンゴにとってサンジは何だ?
きっとただの性欲処理の相手。
だが、それにしては、ドフラミンゴの執着は度を越している。
あいつは、オレにとって、
目の上のタンコブ。
いつも見えていて、
少しだけオレより先を走り続けている。
今までは、それで良かった。
白ひげが生きていれば、それでも良かった。
だが、これからはそうはいかねえ。
やつは敵にもなりかねない。
決して味方にはなれない。
オレはやつに対してついていく気がないからだ。
そのドフラミンゴがただ一人、執着する相手。

そいつはまた、
ワイパーを知っている。
白ひげをヒットした男。
それは常人には無理だ。
あの男を狙うなど、普通の神経ではできない。
あの男を撃つなど、それはオレですらできるかどうか。

パズルのピースのように、
断片的に得られるワイパーの情報。

バラティエ時代のワイパーは、
誰とも親交を持たなかった。
一匹狼のようなワイパーが仕えたのは、ゼフ。
愛したのは、サンジ。
組員のみなが知る、ワイパーとサンジの関係。
狂気のような愛は、
すべてを焼きつくす。

ワイパーはサンジを得るために、
サンジの一番大切なものを壊した。
それがワイパーにとっても一番大切なものであったのに。
ゼフの命。
愚かな・・・。
見てみろ、
その結末がこれだ。

危険だ。
サンジは危険だ。
従順な顔をして、
男たちをのみこんでいく。
かかわりになったものは、
どうにもできない自分に歯ぎしりをしながら、
狂っていく。
そう、愛の名のもとに、
すべてを投げうち、
すべてを壊す。

あのドフラミンゴでさえが常軌を逸しつつある。
オレが手を下さなくても、
ドフラミンゴはゆるゆると狂ってゆく。
愛という狂気に。
とめどもない、性欲に。
満たされない、独占欲に。

オレにとってサンジは何だ?
白ひげのオヤジはなぜオレにサンジをあずけた?
ドフラミンゴは相変わらず色欲にまみれている。
ヤツのためか?
それともサンジを御して、
オレがあやつれという、
オレのためか?
それとも、ロビンのためか?

だれのためなど、もうどうでもいい。
オレたちは明日に向かって生きるしかない。
戦いの覚悟を。
すでに、火は燃えはじめている。
すべてを焼きつくすまで、
消えることのない権力争いという名の火。
もう、あともどりなどできない。

燃えるような火の中をつきすすみ、
あざやかな紅の空に走りつづける。

輪の中にいる全ての人間は、
白ひげの磁力にひきつけられている。
ぎりぎりのところで均衡がとれていたのが奇蹟なのだ。
 
 
 

弾ける瞬間は近い。
 
 
 
 

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