忘却の空

20
 
 
 
 
 
 

「クロコダイルがヒットされた!!!!!!!!」
 
 
 
 
 

極道の間では、
ついに始まった巨大な組の抗争に、
些細なことでも情報が流されていた。

小さな小競り合いが続いていたある日、
いきなり衝撃的なニュースが流れた。
 
 
 
 

ニコ・ロビンの手配によって呼び出されたクロコダイルは、
ドフラミンゴの手によって命を絶たれた。
 
 
 
 

「ニコ・ロビンはクロコダイルの元にいたことがある。
嗜好を熟知していたってわけね。
色恋にはガードが緩かったってわけか」
黒髪の女、ラキは背を向けて外の暗闇を睨みつけている男に声をかけた。
白ひげ組のもうひとりのターゲットであるワイパーが、黙して立っていた。

ワイパーからは答えがない。
ラキは元はクロコダイルの女だったが、
戦利品としてワイパーに与えられたものだ。
激情を秘めた視線と、
何もかも捨てた態度。

この男は地獄を見てきたに違いない。

何一つ語らず、
けれどラキを排除しようとしなかった男。

触れる身体は熱く、たくましい。
けれど、いくら手を伸ばしても決してその心には届かない。

ワイパー、
あんたの心を持っていったのは誰?
あんたの心の中にいるのは誰?

私はこの男を愛している。
だから、私を愛してくれていると錯覚することもできる。
それくらいの思いやりがこの男には、ある。

だけど、どうしても知りたかったワイパーの過去。
ひどい裏切りと虐殺。
訳もないのに、あんたはそんなことはしやしない。

くり返しくり返し、私の前にあらわれる、ある名前。
ワイパーは決してその名を口にしない。

その名を言ってはいけない。
それはパンドラの箱。
封じ込められた過去の全て。

あんたは、過去を捨てた。
だけど、過去はそこまで追いついている。
ワイパー、あんたにも情報は入っているはずよ。

クロコダイルが、愛娼を逆手にとって討たれたなら、
あんただって同じことをしていいはずよ。

もうこの地には炎が燃えさかっている。
生き抜くしかないのよ。
ワイパー、あんたには生きて欲しい。

あんたは本当は優しい人。
本当は愛にあふれた人。

私はあんたの激しさに震える時がある。
あんたの持つ、恐ろしいほどの激情。
容赦なく敵を打ちのめす。

私はあんたが恐ろしい。
だけど、愛しい。
決して私のことは見ない男。
あんたが追いかけているのは、
過去も現在もたった一人。

そのコはあんたにとっては光。
あんたにとっては影。
あんたの身体の一部で、心の一部。
決して忘れることはできない。

あんたが全身全霊をかけて愛した相手。
逃げられるはずがないのよ。
ついに幻があんたに追いついてきた。
そら、もうそこにあのコはいる。
ドフラミンゴの側にひっそりと。
下っ端?
そりゃそうでしょうよ。
自分では何一つ手を下さない。
何の功績もあるはずがない。
だけど、その「存在」はどうかしら?

恐ろしいほどに、そのコはまわりの人間を食いつぶす。

存在するのは、ワイパー?
それとも、サンジ?
存在できるのはただ一人。

私はサンジはいらない。
ワイパーさえ、生きていてくれたら、それでいい。

ワイパー、あんたに生きて欲しいのよ。
そのためには、そのコは邪魔よ。
あんたは、もうそのコは必要ないはずよ?

それは、避けられないことなのよ。
あんたは、勝つわよね。
この戦いに、勝つわよね?

もう、あんたは目を背けてはいられない。
 
 
 
 

「ワイパー、あんた、サンジを撃てる?」
 
 
 
 
 
 
 

21
 
 

忘却の空
地下食料庫
URA-TOP
TOP