忘却
 
 

忘却の空

3
 
 
 
 
 

ニコ・ロビンは容態の悪化する白ひげの枕元につきそっていた。
次女のナミも側にいる。

ニコ・ロビンがもの心ついた頃には、
白ひげは最高の権力を持った組長だった。
力でおさえつけたぶんだけ、
反発も大きい。
極道の組長は、まともに死ねるはずはない。
それは、いつか来るだろう確実な未来。
それが、今、来たのだ。

組長は、ドフラミンゴを後継者に選ぶだろう。
だが、あの男は、組のことより、副業の会社の方に興味があるようだわ。
 

白ひげはそれでいいようだけれど、
私は違う。
あまり道を外れるようだと、
生かせておけない。
私の特技は暗殺。
いかにドフラミンゴといえども、逃しはしないわ。
 

ナミに持って来させた、父を狙った男の資料。
・・・興味深いわ。
ドフラミンゴはどうするつもりなのかしら?
ワイパーの過去で出て来た名前は、
ゼフ、パティ、カルネ、
そしてサンジ。
私の情報網はなかなかのものよ。
何も隠す事なんてできやしない。

ドフラミンゴが拾った野良猫サンジ。
まるで野良猫だわ、彼は。
ふらふらとやってきて、
どちらがどちらを手なづけたのか微妙なところではあるけれど。

調書によると、サンジは不定期かつ長期間にわたり、
ワイパーと射撃訓練をくり返している。
白ひげを撃った凶弾。
己の組長ゼフを撃った凶弾。
それは、この頃の訓練とは無関係ではない。
まあ、訓練したのは射撃だけではなさそうだけど。
 
 
 

サンジは大勢の間でぼんやりと座っていたが、
急にドフラミンゴに呼び出された。

小さな部屋に入ると、
ドフラミンゴは機嫌が悪そうだった。

無理もない。
組長が危篤なのだ。
 
 
 
 

「ワイパーについて知っていることを言え」
ドフラミンゴはサンジが部屋に入るやいなや、
胸ぐらをつかんで壁に押さえつけた。

ニコ・ロビンが差し出した資料によると、
かつてワイパーはバラティエ組にいた。
ゼフは謎の凶弾に倒れた。
おそらく組長ゼフを殺したのはワイパー。
飼い犬に手を噛まれるとはこのことだ。

ゼフの拾ってきたガキの名はサンジ。
金髪で巻眉で、クソ生意気なガキ。
そいつとワイパーは気が合い、よく二人でいた。
ワイパーは銃の名手で、サンジはよく撃ち方を習っていたらしい。
 
 
 

「何・・・・、しらな・・・」
「ふざけるな!!!」
ドフラミンゴはサンジの答えにキレた。
「知っているはずだ!!!
何から何まで!!!
お前はそいつの身体のすみずみまで知ってるだろうが!!!」
壁に思いきり、サンジをたたきつけた。
 
 
 

ある日、倉庫街の事務所の外でタバコを吸っていたサンジ。
ひと目で気に入って、
事務所にサンジを誘った。
サンジは黙ってついて来て、
それから時々顔を見せるようになった。
そこがヤクザの事務所だというのは、すぐに分かったはずだ。
それでも、サンジはずっとそこにいた。

思えば、サンジは最初から「組」の空気になじんでいた。
最初の時から、抱かれることになじんだ身体だった。

身体を重ねても、けして心は許さず、
ドフラミンゴに甘えることはない。
不思議な男だと思っていた。
チンピラのくせに、妙に誇り高く、
傲慢な時もあれば、卑屈な笑顔をうかべる時もある。

身体のすみずみまで支配したと感じさせるのに、
終わってしまうと、
まるでそれは幻であったかのような気になる。
 

サンジは乱暴に扱われながらも、
なんとか抵抗しようとした。
ここに連れてこられた時、
ドフラミンゴがサンジを「呼び出す」ほどの用は一つしかなかったから、
何をされるのかは分かっていた。

抵抗するのは利口ではない。
それは今までの経験で分かっていたことだ。
だが、ワイパーという名を出され、
サンジもまた我を忘れた。
何の感傷も必要としないはずの過去がサンジをおいかけてくる。
 

サンジは蹴り技にはちょっと自信を持っていたのだが、
ドフラミンゴとの実力の差、体格の差は歴然としていた。

ドフラミンゴは片手でサンジの両手首を拘束すると、
あいた手で、乱暴にサンジの服をはだけた。
ボタンがちぎれてとぶのもおかまいなしに、
サンジの敏感な胸の突起をいじった。

「あっ・・・ああっ・・」
サンジはあえぎ声をあげはじめた。

ドフラミンゴはサンジを後ろ向きにして押さえつけると、
ズボンを力まかせに引き降ろすと、
一気にサンジの中に己の昂りを押し込んだ。
「あぁぁぁっ」
サンジは突然のつきあげに絶え切れず、悲鳴をあげた。

「若頭!!!!
どうかされましたか!!!」
外にいる男が、ドンドンとドアをたたいている。

「なんでもない!!!
異常ない!!!」
ドフラミンゴはそう言いながら、
サンジの口に布を噛ませた。

う・・・ううっ。
サンジは声にならない声をあげた。
だが、抗議の言葉を考えることすらできなかった。
激しい抽送がはじまり、
身体ははじけそうになったからだ。
すでに手は自由になっていたが、
サンジは必死でドフラミンゴの腕にしがみつくことしかできなかった。

大柄なドフラミンゴに立ったまま後ろから好きに突かれて、
サンジの身体はびくびくと震えた。
欲望と怒りがサンジの身体に打ち込まれる。

うううううっ。
くぐもった声はもれることなく、
誰にも届かない。

サンジの目からは涙が流れおちた。
立ったまま立て続けに精を放たれ、
サンジの身体もそれに答えるかのように精を放った。

たてつづけに蹂躙され、
うすれゆく意識の中で、
サンジは真紅に染まった空を思い出した。
 
 
 

パティやカルネの絶叫と血にそまったゼフ。
空は夕焼けで、ゼフの血のように真っ赤にそまっていた。

忘れたはずの記憶。
忘れたはずの空。

サンジの過去はどくどくと脈うち、
生き続けていた。
 
 
 
 
 

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