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ミスター・プリンス。

もう、どのぐらいその名で呼ばれているのか分からない。

ミスター・プリンスの世界は、
とても狭い。

立派で豪華ないくつかの部屋は自由に歩いて構わない。

しゃべっていいのは、サーにだけ。
サーが与えてくれたものだけを着て、
与えてくれたものだけを食べて、
許されたものだけを見る。

サーのくれるものは豪華だし、
ごちそうをくれるし、
欲しいものだって買ってくれる。

おれは、籠の鳥。

世界がどうなっているかなんて、
誰も教えてくれない。

だから、サーが国王になるだなんて知らなかった。
城がもう完成しているだなんて知らなかった。

知ったところで、どうにもならない。
おれに意志なんてないんだから。


この部屋に時計なんてない。
おれには、そんなものは必要ない。

けれど時間きっかりにサーは現われる。
サーが来ると、館の空気の色が変わる。
ぴんと張りつめ、
緊張が伝わってくる。


そら、今だって・・・。
はりつめた気配がすぐそこまでやって来ている。


クロコダイルは荒々しく戸を開けると、
大股で部屋に入って来た。


ミスター・プリンスはぼんやりとベッドに腰かけている。
クロコダイルが買い与えた、金糸でつくられたレース編みの
ふんわりしたガウンのような衣装を身にまとっている。
髪の毛と同じ色の糸から透けた白い肌が見えた。

プリンスはゆっくりとクロコダイルに顔を向けた。
人形のような白い顔には何の表情も浮かんではいない。

媚びるでもなく、
敬うでもなく、
憎むでもなく、
おびえるのでもない。

この国にはもう、
すべての権力をにぎったクロコダイルに対して、
ミスター・プリンスのような態度を見せる者はいない。


クロコダイルは唇の端をつりあげた。
相変わらず、ミスター・プリンスは何にも興味がないようだ。
やつの好きな物はみな取り上げた。

最初はロロノア・ゾロ。
それから、麦わら盗賊団。
あがめたてる女ども。
くだらねえ料理。

ああ、気持ちいいことは好きだったな。
これは取り上げてはいない。
いつも親切にくれてやっているぐらいだ。
満足して涙を流すほどに。


「いいものを見せてやろう」
クロコダイルは宝石でちりばめられた王冠をプリンスの目の前に差し出した。

それは、見事な装飾の豪華な王冠だった。
すべて金でつくられ、
赤、黄、青、緑、紫、白、あらゆる色の輝きを放つ宝石がびっしりとちりばめられていた。

その中でも、
人の握りこぶしほどの大きさの、
特別大きな青い宝石が目を引いた。

薄い青色にきらきらと光るその石は実に美しかった。
誰が見ても、世界一の宝石だと納得できた。



サンジはぼんやりとその宝石を見た。
きらきらと美しく輝く、
まぼろしのような青。



オールブルー。



じっとその宝石を見ていると、
知らない間に涙がこぼれ落ちた。


宝石は静かに輝き続けている。
永遠に美しく、誰もが追い求めてやまない宝石。
どんな姿になっても、
美しく毅然とした光を放ち続けている。


「欲しいか?」
耳元でクロコダイルがささやいた。
ささやきながら、
プリンスの身体に手をかけ、
その身体をまさぐった。

答えは返ってこないが、
身体のこわばりから、
プリンスの動揺が読み取れた。

何の反応も示さない人形を抱くのはつまらん。
手応えがないとな。

慣らされた身体をじんわりと刺激すると、
プリンスは内股をふるわせてもじもじしはじめた。
うすい金糸で織られた上着の下腹部がこんもりと盛り上がり、
染み出た液によって色が変わっている。

クロコダイルはわざとそこに触れないようにじらし、
プリンスの息が上がるのを待った。

「プリンス、お前の欲しいものは何だ?」
背後からがっちりと抱きしめて、
ささやくように聞くと、
プリンスの身体はびくりと震えた。

「サー・・・のが・・・欲しいです」
「ほう・・・王冠より?」

サンジはうなずいた。
「オールブルーより?」
サンジは必死にうなずき続けた。

今は、自分の身体を満たしてくれるものだけが欲しかった。
過去はサンジをキモチよくしてはくれない。
快楽をくれるのは、
クロコダイルしかいない。
サンジはうるんだ目でクロコダイルを見た。
いつの間にか、媚びることを覚え、
従順と服従が見についていた。

「クックッ・・・。
とんだ好きものだ」
クロコダイルはにやりと笑った。

「そら、お前の望みだ」
一気に内部を穿つと、
プリンスは矯声をあげた。



王になり、
城に入れば、
もっと時間がとれる。
そうすれば、
どんなにか楽しかろう。

「ククククク」

すべて思い通りだ。

地位も名声も富も権力も、快楽も、すべてを手に入れた。
クロコダイルは笑いが止まらなかった。




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伝説の秘宝オールブルー

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