top地下食料庫knockin'  on  heaven's  door

■ knockin  on  heaven's  door
       
■  ZORO*SANJI
 

 

■11■
■傷跡■
 
 

ナミは昼前に現れたサンジの顔色の悪さに驚いた。
夕べもだるそうだったけど、まっ青じゃないの。
テーブルに並べられた料理はいつもより品数が少ない。

「あれーーーサンジ、病気か?」
ルフィが食いながら尋ねた。
サンジは「別に」とだけ答えた。

病気だな・・・。
ウソップは確信する。
常に饒舌なサンジが何も喋らない。
そういや夕べからしんどそうだったよな。

だから病気のサンジが昼食後に近くに来て眠り始めても何も思わなかった。
ウソップが絵を描いている間、サンジは眠っていた。
サンジは汗をびっしょりかいている。
よっぽど具合が悪いのかな。暑いのに今日はネクタイをきっちりしてるし。
上着脱いだほうがいいよな。

傍らで眠っているサンジのネクタイに手をかける。
サンジは熟睡していて起きそうにない。
ネクタイを少し緩めたウソップは首筋や鎖骨に残るいくつもの赤い痣を見てしまった。
サンジの白い肌にくっきりと残る跡。
・・・ナンダ、コレ。
普通じゃない。これは、まるで・・・。
ウソップはあわてて、ネクタイを元通りに締めた。
体が震えている。まるで首を絞められたような、手の跡。
なんなんだ。どう、なってるんだ。見なかった。オレは何も見なかった。
そこから先は全然絵が描けなくなった。

そのうち、サンジが目を覚ました。
「あれ、今、何時だ?」
サンジの顔が見れなくてウソップは急いで絵の具の片づけを始めた。
「もう、絵はやめたのか?」
「・・・あ・・・ああ。今日は止めだ。ははは。もう飽きた」
ウソップは引き攣った笑顔を返す。
「次は卵星の見取り図をかく」
「じゃ、キッチンでやらねえ?」
サンジの言葉にウソップは驚いた。サンジと一緒にいたら、さっき見たことを口走ってしまいそうだ。
「いや・・・オ・・・オレは、向こうでやるよ」
荷物をまとめ、あわてて逃げるように場所を変える。

取り残されたサンジは溜息をつくと重い体を引きずってキッチンに立った。
ウソップがいたら気が紛れるかと思ったのに・・・。何でか逃げやがった。
寝たら、体はちょっとすっきりした。夕べは最悪だった。
久しぶりに身も心もズタズタにされたって感じ。
おまけにコレって現在進行形かもな。
サンジはタバコをつけ、乾いた笑い声を立てた。
ゾロはオレを殺そうとしたのか。それともアイツはああいう趣味があったのか。
どっちにしろ同じことだ。もし、また同じことをされたら?
オレはあいつを殺す? 犯す?殺される? 犯される?
くだらねえ。今から心配したってどうにもなりやしねえ。オレはここを出る気はねえんだから。
死んだって助けてくれなんて言えねえし。
この船にいたらオールブルーはきっと見つかる。それだけは確かだ。
だから降りねえ。この船にゾロが必要だってのは分かっている。
だからアイツはいなくちゃならねえ。だからオレはゾロの為にまたメシを作る。
 
 
 

何事もなかったかのように夜が来て、また朝を迎えた。
ゾロはいつものように剣を手にして振り降ろす。
あれから、サンジはオレを避けている。
そりゃそうだわな。レイプされて殺されかかった相手だ。
オレは途中から我を忘れた。オレをあの時動かしていたものは何だったのか。
情欲か。憎悪か。
オレはあいつをもう少しで殺すところだった。
あの細え首。かけた手にちょっと力をいれただけで折れそうだった。
普段オレが押さえている獣性。
オレには牙はないが、ケモノが噛み付く瞬間のキモチは分かる。
あいつを犯ったときのようなキモチだろう。
至福。快楽。いつわりの天国。オレはそこへ行きたいのか。
オレの中の獣が叫ぶ。サンジを犯せと。サンジの息の根を止めてしまえと。
噛み殺せてしまえたら。犯り殺せてしまえたら。そうしたらオレはあいつを見ていなくて済む。
この身を焦がすようなギラギラした感情や欲望を味わうこともねえ。
 
 
 

「ねえ、サンジ君、本当に大丈夫なの?」
さすがのナミもあまりのサンジの元気のなさに反省していた。
あの後、相手の男には残りの金をちゃんともらった。
「彼さえ良ければ、またお願いしたい」
そう言っていた。凄く紳士で、そんなに非道いことするようにも見えなかったけど。
相手には一番金持ちで上品なのを選んだつもりだった。
「ごめんね。もうこんなことしないから。お陰でしばらく食べていけるわ」
ナミはサンジに笑顔を向けた。

サンジには「食べるものがない」から「女であるナミ」の為に体を売って欲しいと言った。
サンジはちょっと考えてからそうすると言った。

サンジ君が断われる訳がない。私には分かってた。
サンジ君は慣れてるから傷つかないって。大丈夫だって。やりすぎた。今はそれもはっきりと分かる。
多分、それでもサンジ君は同じことを言われるとまた体を売るだろうことも。

「これで皆、飢えなくてすむんなら・・・オレ」
サンジが続けようとする言葉をナミは遮った。
「サンジ君のおかげで私達助かったわ。飢えなくてすむから。嬉しいわ」
いつもなら、とっくにハート目になっている頃だが、サンジはナミを見てちょっと笑っただけだった。
・・・なんか、痛痛しいわ。サンジ君っていつも有頂天になってるとこしか見てなかったから、困ったなあ。
しかし、コレが男心くすぐるんだろうな。
目の前でこんなにしおらしくされちゃあ、つい構いたくなるってもんか。
「わたしはサンジ君の事が好きだし・・・」
サンジはそう言われると自虐的に微笑んだ。
「嬉しいです」
ナミさんの言葉のどこまでが真実でどこまでが嘘なのか。
オレには分からねえ。例え嘘でも、言われた通りにしてしまうオレ。
ジジイに良く言われた。お前には女は無理だって。駄目になるのはお前だって。
でも同じ駄目になるなら、男より女でなるほうがいいだろ。
野郎がつける傷は打ち身って感じだけど、レディがつける傷は切り傷。ざっくりと切れる。傷が深い。
オレの体の傷は消えていく。だから探しても跡はなくなる。
元通りだ。傷跡なんて残らねえ。だからどってことねえ。
ナミさんがくれた言葉。嘘なのか、本当なのか。もうどうだっていい。
偽物の言葉でもオレは抱きしめて眠れるから。
 
 
 
 

12■