top地下食料庫knockin'  on  heaven's  door

■ knockin  on  heaven's  door
       
■  ZORO*SANJI
 

 

■8■
■汚泥■
 
 
 

サンジは冷たい大理石の床に転がっていた。
ドウシテコウナッタ。
考えるな。いつもの声がする。
苦しくなるといつもそうだ。ジジイの声だ。
今回は自分が招いたこと。どうしてナミさんに「嫌です」と言えなかったのか。
バラティエではジジイのいいなり。ゴーイングメリー号ではナミさんのいいなり。
ナミさんは喜んでくれるだろう。ナミさんの大好きなお金をあげて、ナミさんを助ける。
本当に? お前はバカだって、何千回も聞き飽きた言葉。時々そうだと思うこともある。
ナミさんにとってオレって何かなあ。先に御褒美のキスを頬にくれた。天にも登るキモチだったけど。
オレはナミさんにとって少しでも大切な人、なんだろうか?

別に男と寝るのは嫌じゃねえ。
久しぶりの客。ゾロは客じゃねえから。
ヤってる間は夢中。醒めてしまうと、なんてのか、天井の高さを知る。
金はナミさんが貰うんだろうな。
ああ、スゲえお屋敷。オレには縁がねえけど。こんなとこで男買って。金持ちは違うな。
オレだったら買うなら、もっと可愛げのある奴を買うさ。
重いカラダを起こし、誰もいない、がらんとした部屋を見回す。いつからか裸のままだ。
服脱いだのドコだ。ここ、どこだ。迷宮のような屋敷。サンジはふらふらと立ち上がり、最初にいた部屋を探す。
オレの居場所はココじゃねえ。早く、出てえ。早く、出てえ。
子供の頃の自分が帰ってくる。罪の意識と罰を必要としていた自分。
苦しい。苦しい。誰か助けてくれ。いや、人に頼るなんてみっともねえ。
オレはがんばるんだ。何があっても。がんばらなければいけないんだ。それが・・・罪ほろぼしなんだ。
じっとしている事なんて出来ないんだ。だって、ジジイの足はもうねえんだ。在るものがねえ。無くしたのはオレ。
悪いのはオレ。カラダが重い。ジジイ・・・。ジジイ・・・。

ナミは帰ってこないサンジにイライラして待つ。
遅ーーーい。
って大丈夫かな。
でも金持ちは違うなあ。サンジ君っていくらでも高価くできそうじゃない。高価い服着せれば、はまるし。
そしたらもっと金持ちに買ってもらえるよね。
まあ、可愛そうだから、これは奥の手にしとくけど。

っていうより、ゾロやばくないかしら。
ホントは気になってると思うのよ。激しく二人がヤってるとこ、見たことあるから。
それでサンジ君は高価く売れる!!と確信したんだけどね。
ゾロって素直じゃないからねえ。サンジ君も相当だし。でも、彼、女の子には弱すぎ。でも便利でいいわ。
バラティエじゃ色々調べたけど、売れっ子だったらしいしね。料理の腕よりも。
とにかくサンジ君は色んな意味で美味しいわ。ルフィもいいコック見つけたもんね。
 
 

サンジが目を覚ますと、派手なシャンデリアが目に飛び込んできた。
・・・。ここ、どこだ。
見ると服を着て、豪華なソファに横たえられている。
「お目覚めかね」
誰だ、コイツ・・・。ああ、オレを買った奴。名前も知らねえし、知りたくもねえ。
「ワインを飲むかね」
豪華絢爛、といった感じの装飾品の似合う男だ。ナミさんはどこからこんな奴探し出したんだろう。
差し出されたワイングラスを受け取ると、赤ワインが注ぎこまれた。
いい酒だ。一本一万ベリーはする。
サンジはナミから「サンジ君は喋っちゃ駄目!!」と言われていたので黙ってワインを飲んだ。
だがもうキモチはここにはない。どうやって帰るんだ、とか。今、何時だ、とか。

「ゾロって君の男?」
いきなり聞かれてサンジは思わずグラスを落としてしまった。
男は余裕の笑みを浮かべた。
「ああ、大丈夫。気にしないで。でもなかなかいないよ。この私を身代わりにするとはね」

「そんな・・・何で・・・」
「君、感極まるとその名を呼んだよ」
驚きに目を見張るサンジにその男は言った。
違う・・・。何で、オレ・・・。ゾロのことなんか。

「君さえ良ければ、また御相手願いたいものだね。だが、次は他の男の名を呼ばないでもらいたい」
もう何を言われているかもよく分からなかった。
オレ、がゾロの・・・。どうして。どうしてなんだ!!!
そこからどうやって船に帰ったのかもよくわからない。
 
 

「サンジ、遅えぞ!!!メシ!!メシ!!メシ!!」
充分つまみ食いをしているにもかかわらずルフィとウソップはつばめのヒナのようにはやし立てる。

「今から作ってやるから、待ってろ。クソヤロー」
サンジは心配そうなナミの顔をちらりと見て、キッチンに立つ。ゾロの顔は見れない。

ナミはサンジを見て驚いた。元気がないのだ、物凄く。ごめんね−−−。でも、これも愛しいお金のためなのよ。
やっと帰ってきたけど、どうしたんだろ。上手くいかなかったのかしら。
後でこっそり聞かないと。ってお金は貰えるのかしら。まだあと半分貰わないといけないのに!!!

ゾロは自分を見ようとしないサンジを刺すような視線で見た。
ナミの様子から、今日サンジがしてきたことは想像できる。
それがてめえの本性か。他の奴とヤった手で、料理を作る。誰かにヤられたカラダ。
サンジなど、どうでもいい、と思いながらいらつく自分を感じている。
何故いらつく。どうしたっていうんだ、一体。サンジに対して憎しみに似た感情が溢れる。

重い空気がたちこめるキッチン。
妙な雰囲気にウソップはとまどい汗を流す。
ものともしないルフィだけが、いつものように食いまくっていた。
 
 
 
 

9■