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 王国の海 番外編  



 

★4★
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

この館に来てから、
サンジは一歩も外へ出ていなかった。
サンジはいくつかの部屋しか知らない。

王の寝室と、
自分に与えられた部屋と、
浴室。

廊下も豪奢で美しいのだが、
サンジには美に気づく余裕はなかった。

サンジの身体が「回復」すると、
すぐに二度目の陵辱の時はやってきた。

「王が気をつかって慣らしてくださった」おかげで、
痛みはかなり少なくなった。

反抗は反乱である。
そう申し渡されているサンジにとっては、
歯をくいしばって耐えるしかなかった。

もっとひどい拷問だってある。
もっとひどい苦痛だってある。

こんなこと、平気だ。

そう思っていても、
なぜか涙が出た。

いつか、バラティエに帰れる日が来るのだろうか。
もうない国に。
サンジは目を閉じて、
バラティエの美しい風景を思い浮かべた。
美しい海を思い浮かべた。

それは幻の海だが、
それでもサンジの心はそれを欲しがっていた。

にせものの瞬間でも、
サンジにとっては大切な瞬間だった。
 
 
 
 

サンジは毎夜、高価なローブだけを羽織り、
ゴールドロジャーの寝室でぼんやりと待った。
それがサンジの役目。
いつ王が来ても、
使えるようにしておくこと。
ゴールドロジャーは時がいくつあっても足りない生活をしていたけれど、
サンジには何もすることはなかった。

強制的に身体を美しくするために、
香油を塗られたり、
爪の手入れをされたり、
肌の手入れをされたり。
まるで人形だ。
他人の手に髪を漉かれ、
肌を滑る手を感じながら、
サンジはただ呼吸をくり返した。
 
 
 

目を閉じるとバラティエの海。
美しい青い青い海。
帰りたい。
還りたいあの地に。
しあわせの地に。
失って初めて知るしあわせの意味。
なんとわがままでぬくぬくとした日々だったことか。
 
 
 
 
 
 
 

「サンジ」
名前を呼ばれ、
サンジは声の主を見上げた。
誰かが言っていた。
お前はただの性奴隷だと。

違う。
オレはそんなんじゃねえ。
でも、なら何だというんだ。
ここにきてしているのはセックスだけ。
オレはそのために連れてこられた。
苦痛の時は耐えればすぐに過ぎ去る。
そう思っていた。

だが、思い知らされる。
己の弱さを。
一時の苦痛のがれのために何でもする淫売。
国を背負って生きて来たつもりなのに、
ただのみっともねえ男娼になりさがる。
苦痛の瞬間から逃れるために、
無意識が選んだ逃げ道。
それは快楽しかない。
快楽の瞬間だけは全てを忘れられる。
 
 
 
 
 

ゴールドロジャーの口づけが降りて来て、
オレは懸命にそれに答える。
この男を怒らせるのは恐ろしい。
この男の存在は恐ろしい。

「んっっっ」
ゴールドロジャーの指がオレの中を掻き回し、
ある一点を執拗に責めてくる。
そこはオレの弱点みてえ。
そこを責められると、
オレはおかしくなる。
なけなしのプライドも保てねえ。

「ゃっ・・・あああっっっ」
身体じゅうがジンジンして、
ぞくぞくして、
ヘンになる。

「イキたいか?」
どんな時でも冷静な王の声。
オレはもううわずって・・・、
喘ぎ声しか出せねえっていうのに・・・。

圧倒的な力の差と、
圧倒的な存在の差。

その象徴に貫かれたらもう正気じゃいられねえ。
「ゃ・・・狂っちまうよ・・・」
 
 
 
 

「そら、狂うがいい」
狂気に向かう楔が打ち込まれ、
サンジの身体は歓喜にうちふるえる。

・・・堕ちた。
ゴールドロジャーの口元に笑みが浮かぶ。
最初に無理矢理押し入ったせいで、
サンジはずっと身体を固くして怯え続けていた。
くちびるを噛み締め、
震える手を見られまいとして必死になっている少年の姿は、
ゴールドロジャーの加虐心をそそった。

怯えながらも身体を開かなければならない屈辱。
うっすらと涙の浮かんだ、赤い顔。
すこし力を入れたら折れてしまいそうな細い首や手足。
抱くと不思議な高揚感がする。

もっと先に進みたい。
それはゴールドロジャーが生来持つ支配欲や征服欲を刺激する。
目前の国があれば、
手に入れる。
立ちはだかる敵は倒す。
手に入らないものなど、この地には存在しない。
だれしもが頭をたれ、
ひれふす王の中の王。
 
 
 
 

サンジのような相手はこれまでにいなかった。
性の奥義のみを手管にする娼婦とも違う。
屈辱を与えて支配する喜びを感じた相手とも違う。

どんな時でも自分であろうとする強さ。
割り切って抱かれることのできない弱さ。

こんな子どもに、
国盗りと同じような高揚感を感じるとは。
ゴールドロジャーは苦笑した。

どんな相手でも得られなかった、
奥の見えない相手。
 
 
 

拒み、恐れるだけだった身体。
身体の奥にくり返し播き続けられる淫らな種は、
身体じゅうにひろがり、
やがて淫らな花をさかす。
抱くたびに、
快楽に酔い、
堕ちて行く身体。

理性を手放した後は、
快楽だけを求める獣になる。
そうだ獣になれ。
己の心の欲するまま生きる。
その生にいつわりはない。
多くの者はいつわりだらけだ。
多くの国はいつわりだらけだ。
いつわりの国が滅びるのはたやすい。
もともと名ばかりで国の心などは存在していないからだ。
 
 
 
 
 

「あっ・・・あああああっっ」
快楽に身を焦がすサンジの中に、
ゴールドロジャーはたっぷりと精を放った。
抱くたびに手に馴染むサンジの肌。
抱くたびに感度の上がる身体。
国の支配と同じだ。
適度に緩めてやると簡単に気を許す。
限度を越えたしめつけは滅びのもとだ。
一度壊れた国は元にもどらない。
こいつも同じだ。

飽きるまでせいぜい可愛がってやろう。

快楽に溺れる顔はまだ幼さを残している。

快楽は麻薬だ。
身体や心を蝕む抜けられぬ病。
サンジ、
もうおまえは逃れられない。



 
 
 
 
 
 

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