幻
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王が気に入りの少年を寵愛されている。
重臣の間で秘かに囁かれる言葉。
エース王子やルフィ王子とさして変わらぬ年令の少年。
属国の元王子だそうだ。
そこには嫉妬と陰謀がうずまく闇の世界が存在していた。
サンジは自分の身体を香油を塗る少年が、
幾度となく敏感な部分に触れてくることに気づいた。
肌の手入れと称して、
毎日マッサージを兼ねて触れられる。
意識がはっきりしている時は、
サンジが嫌がるため、
王が去った直後に「手入れ」が行われるようになっていた。
職人に徹した者たちは、
無表情にサンジの身体を丹念に清め、
それからより美しくなるように刺激を与えた。
王にふさわしい美しさに。
王にふさわしい艶に。
サンジの意志など存在しないも同じだった。
王の相手を美しくするのが彼らの勤め。
「・・・っ・・・」
サンジは手入れをする少年の細い指が、
王しか楽しんだことのない部分に執拗に触れることに気づき、
身体を固くした。
常にサンジの世話をしている年輩の男が声を出さずに笑った。
彼らは王の狂信的な崇拝者ではなかった。
王の崇拝者はサンジを王と同じく神聖なものとして扱っていた。
この国においては王の崇拝者でないものは異端だった。
王への憎しみは王のものへの憎しみに変わる。
手近にある王の持ち物。
贅をつくした部屋に囲われて、
贅をつくして大切にされて・・・。
壊してやりたい、
傷つけてやりたい、
という凶悪な感情がふつふつと沸き上がる。
少年はサンジの内部に「事後」に使う薬剤を多めに塗りこんだ。
苦痛をやわらげほのかに身体を疼かせる薬。
「事後」は快楽なのだと思わせるためだ。
媚薬の含まれたそれは感じやすい身体には過ぎた刺激になる。
サンジは身体の奥のうずきに、
手を握りしめた。
・・・なんで・・・?
ウシロがズキズキうずいている。
夜通しゴールドロジャーに掻き回された場所。
最初は苦痛しか感じなかったのに、
いつの間にか気がヘンになるくらいに身体が反応するようになっていた。
「どうかされましたかな?」
共犯でもある年輩の男は何食わぬ顔でサンジに問いかける。
官能に震える身体をサンジは持て余していた。
「勝手に感じてはいけない」
「勝手にイってはいけない」
自慰は禁じられている。
世話係の男はサンジの変化に気づかないふりをした。
うつぶせになった顔は紅潮しており、
性器はすっかり固くなっており、
かすかに尻を動かしている。
強情な視線やかわいげのない態度と裏腹の、
快楽に忠実な身体。
一度覚えた味は忘れることがない。
このガキが色情狂になって、
滅びていくのはそう遠い先のことではない。
これが亡国の王子のなれのはて。
この姿をバラティエに恨みをもつものに見せてやりたいものだ。
「イかせてさしあげましょうか?」
サンジはびくりと震えると涙のうっすらと浮かんだ目を、
刺激を与えている少年に向けた。
とまどう瞳がゆれている。
王はこの顔が気に入られたのだろう。
「あっ・・・・」
サンジの口からは、こらえきれない嬌声がもれる。
何で・・・?
はっきりと自覚した欲望。
この刺激では物足りない・・・。
もっときつくかき混ぜて欲しい。
ゴールドロジャーのソレのように・・・。
サンジはびくりと身体を震わせた。
いけねえ。
ダメだ。
快楽に流されては・・・。
コレが続くとオレはダメになっちまう。
「・・・ギン・・・、
ギンは・・・どこ・・・?」
サンジの言葉に、
男達の手が止まる。
ちっ、
見張り役を呼んだか。
我々の手出しを嫌がったか・・・。
「ああ、今お呼びいたしますよ」
サンジの敏感な部分から、
すっと手が離れていく。
刺激を与えていた少年は顔色一つ変えず、
違う作業に移っていった。
・・・もうすこしで、
イかせてやれたのに。
だが、この状態ではイきたくてたまらないはずだ。
勝手にイって罰されるのはサンジだ。
サンジの足元をすくいたい者はごまんといる。
サンジのあとがまを狙う人間も。
ちょっとなぶってやると、すぐその気になるサンジの身体。
そのうち王以外の者と貫通するのは時間の問題だ。
我々に責任があると思われるのは危険だ。
うまくやらなければ・・・。
我々にとっては、サンジは邪魔者だからな。
「サンジさん、お呼びで?」
うつぶせになっているサンジの肢体を見たギンは思わず視線を反らした。
とても正視できない。
ゴールドロジャーにかわいがられた、
なめらかな身体が投げ出されたままだ。
「・・・水・・・」
サンジは声をふりしぼってそれだけ言った。
尋常でない状態の自分を悟られてはいけない。
ギンにすがってはいけない。
ギンはふるえる手で水を盃についだ。
金でつくられた豪華な盃。
大切な大切なバラティエの王子。
命をかけても守らねばならない存在。
そう・・・、
オレはたったひとりのサンジさんの味方。
それなのに、
今、自分はどんな目でサンジさんを見た?
陵辱すべき存在として見なかったか?
陵辱されるべき存在として見なかったか?
辱められて、
犯されて、
変わっていくサンジさん。
見ていられない。
いつの間にか、
陵辱者の視線であんたを見てることに気づく。
無防備な肢体。
無防備な表情。
サンジさんを守るものは何もねえ。
ただ国への想いのほかには何もねえ。
いつまで続くのだ、
こんなことが。
いつか終わりが来るのだろうか。
それは悲惨な結末か、
それとも救いはあるのか。
いつかなんて日はこねえ。
だから今できることをするだけだ。
ゴールド・ロジャーの言葉だ。
たしかにすげえ男だ。
まさしく王の中の王。
器が違う。
だが今を苦しむものは、
やがて来る「いつか」を信じるしかねえ。
「いつか」サンジさんは救われる。
笑わなくなったサンジさん。
オレには無理に笑ってみせるけれど、
痛々しくて見ちゃいられねえ。
あんたはオレにすら弱音を吐かねえ。
だから、
オレも何も知らねえふりをする。
何も見ねえふりをする。
それしかあんたを支える方法はねえから。
これ以上の辱めにはあんたは耐えられねえ。
知らねえ方がいい。
まわりのことなんて。
あんたは自分だけを信じて、
自分だけを守っていればそれでいい。
ギンが出て行く気配を感じながら、
サンジはたかぶった身体をだきしめた。
幾度となくくり返される快楽という名の煉獄。
欲望を解放するしか逃れるすべはない。
それは簡単だ。
王がしているようにすればいいのだ。
身体の敏感な部分を刺激すれば、
すぐ楽になれる。
自分の身体の中でコントロールできない部分。
サンジはすでに「そこ」を知っていた。
ゴールド・ロジャーによって知らされていた。
その快感はすでに身体の奥深くまで染み渡っている。
サンジは身体を丸め、
シーツを握りしめた。
むせるような欲望の気が空気をふるわせた。
逃れられない強烈な欲望への飢え。
耐えるしかない。
しばしの充足のために誇りはすてられない。
へへ・・・、
今さらプライドなんてバカバカしいよな。
閉じられた目からは涙がこぼれた。
それはまるで見知らぬ海のように、
快楽には終わりはなかった。
屈辱にも終わりはなかった。
サンジはただその波に流されるしかなかった。
流されるたびに少しずつ誇りを失って行く自分に気づく。
失いたくないという気持ちと、
すべてを失ってしまいたいという気持ち。
すべてがなくなったら、
もう苦しむことはない。
サンジはふるえる身体をささえ、
部屋の片隅に美しく盛り付けられた果物の皿に目をとめた。
そこには銀色に鈍く光る鋭利なナイフが添えられていた。
サンジはゆっくりとそのナイフを手にとった。
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