2012年4月21日、Check Mate Loungeというイベントに参加してきました。
チェス好きの人ならご存知の通り、全日本チャンピオンの小島慎也君が、将棋の羽生善治二冠と、イギリスのGMナイジェル・ショート氏を招き、ショートが小島君と羽生二冠を相手に2面指しを行う、というイベントでした。
【会場の様子】 |
将棋の羽生さん、そしてナイジェル・ショートという2人のビッグネームを揃えたことももちろん素晴らしいことですが、その様子がニコニコ動画で生中継される(「ニコニコ生中継」)という、これまでの日本チェス界に無い積極的な外部発信があったことが賞賛に価することだと思います。
私自身はここ数年、チェスクラブに出入りしておらず、また東京でのイベントや大会の類への参加となると実に8年ぶり(たぶん)となるため、全日本選手権で私と対局経験がある麻布卒のT君(mixiで再会していた・笑)をエスコート役として雇い入れ、Check Mate Loungeに参加しました。
会場は南青山にあるVelours(ベロア)で、イタリアンレストラン兼クラブといったところでしょうか。その中で最も広いと思われるフロアが会場となっていました。観客は報道関係者も含めて40〜50人という人数でした。
正直、これでイベントが成り立つのかとも思いましたが、しかし我々観客からすれば、双眼鏡が無ければ状況がわからない、あるいは対局の様子が映像(スクリーンとか)でしか見ることができない、という「あれ、羽生さんとか言ってるけど、実はそこらのサラリーマンじゃね?」とかいうことが無く、本当に自分自身の目前で対局が繰り広げられるという、実に興奮する舞台でした。
【こんな間近での対局!】 |
このイベントのプロデュースは、小島君の実兄、小島譲二氏。レディー・ガガにもアクセサリーを提供したことがあるデザイナーだそうです。なので、来場者にはアクセサリーのプレゼントがありました。ナイトをあしらったネックレスです。シルバーとブラックの2種から選べるとのことでした。
また、softbankが協賛していることもあって、観客にはipadが2人に1台配られ(勿論、これは貸与。しかし、持ち帰ってもばれないんじゃないかくらいの緩い管理でした・苦笑)、2つの対局の局面図が中継されました。また、このipadで棋譜の再現も可能でした。
ニコニコ生中継では、塩見亮さんによる解説があったとのことですが、会場では解説なし。尤もチェスプレイヤーが多くいるので、観客はこのipadを囲んでいろいろ検討しながら、対局を注視するという感じでした。
もうひとつ、ニコニコ生中継でも解説があったようですが、盤(チェスボード)と対局時計(チェスクロック)からは配線が出ていました(写真は終局の状態)。つまりは、対局の様子は誰かが入力しているわけではなく、持ち時間も含めてパソコンで直接処理され、それが自動的にipadに配信されるシステムだったようです。
このチェスボードとクロックは、松戸チェスクラブのリーダーであるT氏の所有物だそうです。余談ですが、そのT氏は2面指し終了直後に会場に到着していました。しかし、後述するブリッツ大会ではショートとの対戦権を引き当てて満足。さらに小島君に「ボードの裏にショートのサインを」とお願いしていました。
2面指しの中身については、羽生戦はChess Chroniconで解説付の棋譜がありますし、小島戦もご本人による解説がブログに掲載されましたので、ここでは割愛します。
【スーパーGMも考え中】 |
対局中に印象に残ったことを。
小島君の対局シーンは何度か見たことがありますが、勿論、羽生二冠やショートの対局シーンは初めてです(羽生二冠の将棋対局はテレビで見ますが)。特に羽生二冠は、対局相手がはるかに格上という、日本将棋界ではここ10年以上はあり得ない状況だったせいか、時折、上目づかいにショートの顔色をうかがっていました。俗に言う「羽生にらみ」です。これを直接見られただけでも興奮しましたね。
ショートはソファの背もたれに片腕を乗せるなど、リラックスしたような雰囲気もありましたが、やはり中盤以降の勝負どころは前傾姿勢で熟考に沈み、これがスーパーGMかという迫力を醸し出していました。
また、対局中には羽生二冠と名人戦を戦っている最中の森内名人が姿を見せました。早々に会場からいなくなったようでしたが、ひょっとしたらニコニコ生中継に駆り出されたのでしょうか。
【森内名人の手にもipad】 |
2面指しの後には三者へのインタビュー。
一般客も質問して良いとのことでしたし、日本のマスコミ関係者は羽生二冠に質問が集中することもあったので、ショートに対して「日本の初心者あるいは初級者に薦められるチェスの本を2〜3冊教えてください」と質問しました(これも「ニコニコ生中継」されているんでしょうね・苦笑)。
通訳のN君によると「本は何冊か読めば良いというものではなく、継続的にいろんな本を・・・」というような教科書的な回答でしたが、「フィッシャーの60ゲーム」も挙げていたようですし、実際の回答はどのようなものだったのでしょうね。私の英語力ではさっぱりでした。
ショートはチェスの蔵書が2,500冊ほどあるとのことでしたし、日本では今ひそかに「チェスの洋書翻訳ムーブメント」が起きているので、何か良い回答が欲しかったです(じゃあ、自分で英語で質問しろ、という話です)。
他にもショートのナイスジョーク(下ネタ)もありましたね。
【左端は通訳のN君である】 |
インタビューの後は、観客とショート,羽生二冠とのブリッツです。
観客の中でブリッツ参加希望者は、ショートと羽生二冠のいずれかを選んでエントリー。この中から、それぞれ4人ずつが対局できる(5人目となる2人は小島君が指名)というシステムでした。
チェスプレーヤーなら勿論ショートと!というところでしょうが、話のネタ的に羽生二冠のほうにエントリー。例えば嫁に「今日、ショートとブリッツしたよ!」と言ってもわかんないでしょ(笑)?
ショートの1人目には、本日のエスコート役T君が当選(本人曰く「席に座った時点で頭真っ白」)。遅刻してきた松戸チェスクラブのリーダーTさんもショートと対局。そして、羽生二冠の4人目に私が当選しました!皇帝の威光は衰えていません(嘘)。まぁ、倍率はおそらく3倍あるかどうかではなかったかと思います(羽生二冠の相手に10番が指名されていました)。
私も自分の番号が呼ばれただけで舞い上がってしまい、以降ちょっと記憶があいまいです(苦笑)。
そして、羽生二冠が白番。ここでフォースを使わなければ使うところがありません。「1.e4、1.e4、1.e4、1.e4・・・」と、モッティ提督を締め上げる勢い(3:15〜)で念じた結果、1.e4 e5 2.Nf3 f5とラトビアン・ギャンビットに!ここで羽生二冠の手が止まり、ぼそっと「なにこれ」。皇帝に凱歌が揚がった瞬間でした(後で調べたところ、羽生二冠はもともとe4プレーヤーだった模様。しかし、他のブリッツでは1.d4も指していたようなので、あそこはフォースの威力であったと断言できます・笑)。
【世紀の対決(デジカメで撮ると色合いがおかしい)】 |
以降は、ただでさえチェスから離れている上にテンション上げすぎた私が早々に定跡を間違える(すっかり忘れている)という失態を演じ(これも「ニコニコ生中継」か・・・)、抑え込まれた上に時間切れ、という結末でした。
しかし、「羽生二冠を困らせた」という一瞬は、本当に気分が良かったです(爆)。
ブリッツ後のインタビューで、羽生二冠が「いきなりトリッキーな手でやってこられて、何をやって良いかわからなくなったのもあった」という発言がありましたが、あれは私のことね、私(たぶん)。
イベント後はパーティでしたが、こちらには参加せず、エスコート役のT君と2人で渋谷でジンギスカンを食べ、某協会の悪口やら佐野元春のネタ(??)等々で盛り上がって解散となりました。
チェスは「世界的な頭脳スポーツ」と言いますが、これまで海外のトッププレイヤーを招くということは少なかったかと思います(日本チェス協会がGMナカムラヒカルをジャパンリーグに招待した例などはあります)。また、そういったことがあっても、それを広く一般の方に情報発信したことはそれこそ無かったのではないでしょうか。
今回はナイジェル・ショートというビッグネームを招き、また羽生二冠という日本国内の話題性ではこの上ない人物を招き、それをインターネットで広く情報発信するという非常に野心的なイベントでした。NHKの7時のニュースも取り上げてくれたほどでしたしね。これを実現・成功させた小島慎也君、今回はプレイヤー以外での役割が非常に多く、大変だったかと思います(ショートもインタビューで言及していました。また、パーティが始まる前に別室で小島君と少し話す機会があったのですが、すぐにスタッフに呼ばれ、会場へと飛び出して行きました)。本当に彼の努力には敬服しますし、日本のチェスファンにこういう機会を与えてくれたことに感謝します。
また小島君は5月上旬からハンガリーへチェス留学し、チェスプレイヤーとして一回り成長した後に、またCheck Mate Loungeの2回目を行うという計画もあるようです(具体案は未定のようですが)。
私も是非、参加したいと思いますし、チェスに興味がある方は、何らかの形(今回で言えばニコニコ生中継での視聴など)で参加していただければと切に願います。
さて、ニコニコ生中継は「タイムシフト予約」というシステムがあって、中継動画を保存し、1回だけ視聴できるそうです。エスコート役のT君のゲームは全画面で放映されていましたが、私の対局は終始ワイプ扱い(笑)。どうやら、「ブリッツの失態」は上手くごまかしていただいた、という感じでしょうか。
また、NHKにインタビューを受けたのですが、あれはどこかで使われるのでしょうかね(笑)?
【ニコニコ生中継の様子。ワイプの中は、「なにこれ」。)】 |
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