「ハリーポッターと賢者の石」が公開され、早くも2年以上の日々が過ぎました。
今さらながらですが、この「魔法使いのチェス」のシーンの謎を解明します。
日本でも、我々チェスファンがあのシーンに対して、あーでもないこーでもないとひっかき回すのですから、当然海外ではそれ以上の動きがあったのです。
つまりは、チェス関連のジャーナリストがあのシーンに対して取材を行う、という実に手っ取り早い方法で謎を解いているのです。
私のところには、O君からBritish Chess Magazineに記事が載っているということと、現在海外留学中のph(ペイハー)さん(昔のyahoo仲間)から、「海外のチェスサイトで解説しているよ」という報告をほぼ同時に頂きました。O君、phちゃん、ありがとうございます。
後者のチェスサイトは現在のところ無くなってしまったようなのですが、British Chess MagazineについてはO君がデジカメで撮影したものを送っていただきました。
そこで今回は、このBritish Chess Magazineの全訳と、これに基づいた局面の完全再現をここで行い、一連の「ハリー・ポッターネタ」の最終版としたいと思います。
また、British Chess Magazineの訳については、水野優さまに全面的に協力していただきました。ありがとうございます。
私の長女は本が読めるのでハリー・ポッターの最新本『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』の出版を心待ちにしており、その二人の弟(妹)はビデオが出るのを待ちきれない様子である。私はそのビデオ(映画版)でチェスがどれほど盛り込まれたのかに興味があった。
最初の本『〜と賢者の石』を読んでも大したことは分からないが、チェスのゲームが話の結末で重要な役割を果たしているのは明かである。ネットサーフィンをしていると、以前『キングピン』で示唆されていたようにこの問題のゲームが実際にあったゲームに基づいていることを発見したのだが、実際はジェレミー・ジルマン(皇帝注:amazonにおける検索結果)の創作だった。彼はアメリカのチェス・トレーナーで最良の入門書(How to Reassess Your Chess,The A-Z of Chess Strategy,The Amateur's Mind)の著者でもある。
ジルマンは脚本家に一連の指し手を考え出してほしいと頼まれた。他方ではジョン・シュピールマンがイギリス西部で『愛のエチュード』('01年映画)のためのチェス・シーンについてアドバイスを頼まれていた。
2,3の約束事がある。ゲームは数手で終わり、初手はロン・ウィーズリーが自らを犠牲にするという劇的効果のために駒が取られる手にすることである。それにハリーは盤上に残らねばならない!脚本家との長い議論の末ジルマンは以下のゲームを作り出した(ICC Viewer参照)。
ハリーはa3のビショップ、ロンはg5のナイト、ハーマイオニーはf8のルーク。黒は駒損だが激しい攻勢でNh3メイトを狙っている。したがって白は1.Qxd3。
プロデューサーが初手を駒が取られる手に限定したので、ジルマンは白のクイーンをこのゲームの悪役に仕立てようと決めた。つまりクイーンがすべての駒取りに関与するのである。ハーマイオニーとロンは動かない(訳注:ロンは動くので誤り?)。
1. ... Rc3 ハリーがとどめを刺せるようにc5を空けるというひじょうに利口な作戦。
2.Qxc3。クイーンはまた駒を取る。
2. ... Nh3+。
ここで、2. ... Bc5+ 3.Qxc5 Nh3#とするメイトでは意味がない。ヴァルデモートと対決することになるハリー・ポッターを犠牲にすることはできないからだ。
この手順は、悪役としてのクイーンがハリーに取られてメイトされることで見る者に満足感を与えるように作成された。悲しいかな誰かが「カット」してしまったが!いずれにせよよくできた局面と戦術である。
残念ながらジルマンは、この映画の力関係のせいですべての指し手が映像化されず、むしろ創造力を台無しにされたと述べている。
映像はNh3+とBe3メイトだけでクイーンが取られる手は出てこない。
ハリー・ポッターの最新本『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』にはほんの少しだけチェスが出てくるが、それは一般人であるマグルズが行うチェスとは異なる「ウィザード・チェス」といい、おそらくはプレーを三次元にまで広げたものである。
ある場面でハリーは、おそらくウィザード・チェスではルークにあたるキャッスルと呼ばれている駒に言った。「ばか。奴はただのポーンだからつぶしてしまえ」
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