皇帝の正しくないチェス

2004 全国大会 10R


はじめに

 10Rのお相手はベテランのO女史。
 一昨年の全日本選手権で、私が記念すべき「全国大会初勝利」を達成した相手です。

 一昨年でも私が白番で、直前にいるか師匠の特別カロカン講座が行われ、ナイトサクリファイスをかまして勝ちましたが、今回もまた特別カロカン講座(その2)が行われました。

 さて、その成果や如何に??

棋譜解説

[Event "Zenkoku Taikai"]
[Site "PIO"]
[Date "2003.05.04"]
[Round "10"]
[White "anon_emperor"]
[Black "E.N"]
[Result "1/2-1/2"]
   
1 e4 c6
2 d4 d5
3 Nc3 dxe4
4 Nxe4 Nd7
5 Bc4(図−1)
図−1
【図−1】

 オープニングは、カロカン・ディフェンスです。

 4手目までは、一昨年と同じ局面です。
 一昨年は、5.Ng5と指しましたが、今年は5.Bc4と指しました。

   
5 ... Ngf6
6 Ng5 e6
7 N1f3 Bd6
8 Nxf7?!(図−2)
図−2
【図−2】

 今年もでた!ナイトサクリファイス!!

 7. ... Bd6のところ、7. ... Be7としても、白は8.Nxf7とサクリファイスできます。
 その時は以下、8. ... Kxf7 9.Ng5+と続きます。

 このナイトサクリファイスですが、フリッツ君によると若干黒が良いという解析結果が出ます。
 それは、正確にこのサクリファイスを受けきった場合、なかなかそう簡単にはいかないのです。

 参考までに、カロカン等でよく見られるポーンの形(e6-f7-g7)の場合、黒がキャスリングを行う前に、白からe6あるいはf7にサクリファイスを行うのは、良くあることです。
 狙いとしては、h5-e8やa2-g8のダイアゴナルを開けること、ここにオープンとなっているeファイルを組み合わせて攻撃することです。攻撃好きの人は覚えておきましょう。

 
   
8 ... Kxf7
9 Ng5+ Ke8?(図−3)
図−3
【図−3】

 9. ... Ke8が悪手・・・かな?

 フリッツ君によると、9. ... Ke7が良いようです。
 10.Qe2 Nf8 11.0-0としても、黒がギリギリ踏ん張れるようです。

 とはいえ、まだまだ黒のキングには危険がつきまとう形ではあります。

   
10 Nxe6 Qe7
11 0-0 Nb6
12 Re1(図−4)
図−4
【図−4】

 10. ... Qe7は黒の最善の頑張りです。
 10. ... Qa5+などとしたら、11.Bd2でクイーンを追われ、白優勢となります。

 白は、キャスリング不可能となった黒のキングに対して、オープンのeファイルを利用して攻撃を仕掛けます。
 11.0-0から12.Re1で、黒のキングとクイーンが攻撃対象です。

 この時点で局面は白がやや優勢です。
 実際、指している私も相当良い気分だったことを記憶しています。

 
   
12 ... Nxc4
13 Nxg7+ Kf7
14 Rxe7+ Bxe7
15 Nh5 Bg4
16 Qd3 Nd6??(図−5)
図−5
【図−5】

 実は、図−4の時点で黒はクイーンを捨てることを覚悟していました。
 これが好判断で、下手にクイーンを守ろうとすると、キングが危なくなります。

 白からナイトサクリファイスしているしているわけですから、上手に駒得を白に返し、キングの危険を避けようとするのです。

 ということで、12. ... Nxc4以下は一直線。
 15.Nh5の時点で局面は一段落し、白はポーン1個分の得。フリッツ君の解析では、白が若干優勢です。

 このあたりで、いるか師匠がちょっと様子見に来たのですが、しばらく盤面と棋譜を眺めた後、「よし!よくやった!!」とばかりに満面の笑みを浮かべながら僕の肩を掴み、去っていきました(笑)。

 16.Nd6??が悪手。
 16. ... Nxh5 17.Qxc4+ Be6として、黒はピースをキング周辺に集めておく必要がありました。

 
   
17 Nxf6 Kxf6
18 Qg3? Rag8+?
19 Qe5+??(図−6)
図−6
【図−6】

 18.Qg3?が一つ目のチャンス逃し。
 18.Bf4とビショップを展開し、a1のルークを働かせることを考えれば良かったところです。
 勿論、19.Be5+も狙えます。

 18.Rag8?が悪手なのは、h8のルークが動けなくなるからです。
 白が黒マスビショップを残していますから、これは危険です。

 19.Qe5+??が再びのチャンス逃し。
 何となくチェックしてしまうのは悪い癖で、ここも18.Bf4として、20.Bxd6や20.Be5+を狙うところでした。

 このBf4が指せていれば、白は一気に勝勢になるところで、感想戦の時にN女史に指摘されました。

   
19 ... Kf7
20 Bh6 Nb5
21 Re1? Bf6(図−7)
図−7
【図−7】

 21.Re1?ではなく、21.Qe3と先にクイーンを逃げておくべきだったようです。

 いずれにしても2度のチャンスを逃し、図−7の局面では互角〜やや黒優勢になってしまいました。

   
22 Qf4 Bh3?
23 g3 Rg4
24 Qe3 Rxd4??
25 a4?? Nc7
26 Qb3+(図−8)
図−8
【図−8】

 なんか「?」がたくさん見えますが・・・。

 22. ... Bh3は確かに第一感ですが、23.Qe3としておいて問題なかった手です。
 正しくは、22.Nxd4とポーンを取ってよし。

 25.a4は 25.Bg6が正着。以下、25. ... Bg5 26.Bxf6 Rxf6 27.c4で白優勢となります。

 そんな紆余曲折を経て、26.Qb3+で互角になりました。

   
26 ... Be6?
27 Qxb7 Rd7
28 Qxc6 Rhd8
29 f4?? Bd5?(図−9)
図−9
【図−9】

 26. ... Be6?が悪手なのは、h3の好位置(白のキングの動きを制限している)にいたビショップを引いたから。
 正着は26. ... Kg6で、この手がh6のビショップ取りになります。

 28.Qxc6と指した時、勝ちを意識しました。
 フリッツ君も、「c2のパスポーンがすぐにでも危険な武器になるのサ」と申しております。

 ところが、29.f4??が大悪手。
 黒がダブル・ビショップを残しているところに、わざわざチェックの筋を用意しています。さらに、h3のビショップも動きづらくなってしまいました。
 実際、29. ... Bd4+!なら逆転で黒勝勢になるところ。感想戦で他の方から指摘を受けました。

 よって、白の29手目は29.Qf3が正着。

 それを咎められなかった29. ... Bd5?が悪手となります。

 局面は、やや黒が優勢か。

   
30 Qc5 Ne6
31 Qb5 Rb7??
32 Qe2(最終図)
最終図
【最終図】

 黒としては、キングとクイーンの両方がターゲットとなり、やや目移りしてしまうところ。
 これが再三のチャンス逃しに繋がっているようです。

 31. ... Rb7??も悪手。
 31. ... Nd4が正着で、以下は32.Qd3 Nf3+ 33.Kf2 Kg8でやや黒優勢です。
 実は、32. ... Nf3+はキングとルークのフォークなのですが、ここでルークにつられて33.Kf2 Nxe1?などとすると、34.Qxh7+ Ke6 35.f5+ Ke5 36.Bf4+ Ke4 37.Qg6で白やや優勢に逆転してしまいます(よって、h7のポーンを守るために、33. ... Kg8とするのですね。

 32.Qe2で局面は互角。実はこれが白のチャンスで、32.Qd3とh7のポーンを取りにいくのが正解。
 以下、32. ... Kg8 33.Qf5 Bd4+ 34.Kf1で白良しのようです。

 最終図の時点で私の持ち時間は5分を切り(フィッシャーモードですが)、時間に追い立てられるよりはとドローを提案。
 まだまだの複雑な局面ですが、N女史もこれを受けてドローとなりました。