皇帝の正しくないチェス

2004 全国大会 2R


はじめに

 2Rのお相手は早くもyahoo仲間、Kojieaさんです。

 3月の名古屋選手権で初めてお会いしたんですが、とにかく中〜終盤の読みの力がスゴイ。
 私が病欠した福岡選手権で権利を取っての出場です。

 2戦目もまぁ、やりにくい相手ですな(笑)。

棋譜解説

[Event "Zenkoku Taikai"]
[Site "PIO"]
[Date "2003.04.29"]
[Round "2"]
[White "T.N"]
[Black "anon_emperor"]
[Result "0-1"]
   
1 Nf3 f5
2 g3 Nf6
3 Bg2 g6
4 c4 Bg7
5 d4 0-0
6 0-0 d6
7 Nc3 Qe8(図−1)
図−1
【図−1】

 出だしは1.Nf3と、レティ・オープニングですが、いつもどおり1. ... f5とダッチ。

 結局、ごく普通にダッチのレニングラードにトランスポーズしました。

   
8 Nb5? Na6
9 a3 c6
10 Nc3 Nc7
11 b4 e5
12 c5(図−2)
図−2
【図−2】

 8.Nb5?とc7の地点を狙いたくなるのはわかりますが、これは8. ... Na6で守れます。
 9. ... c6でナイトは元のc3に戻らなくてはなりません。

 黒は11. ... e5として中央から戦いを仕掛けますが、対する白は11.b4〜12.c5としてクイーンサイドから攻めようとしています。

   
12 ... exd4
13 Nxd4 d5
14 Bf4 Ne6
15 Bd6?? Rf7??(図−3)
図−3
【図−3】

 私としては、とりあえずeファイルをオープンにした上で、ナイトをe4やe5に配置して睨みを利かせようと考えました。
 しかし、フリッツ君によると、12. ... dxc5 13.bxc5とすることで、白のcポーンが弱くして黒がやや有利とのことです。

 15手目は悪手と悪手返し(笑)。

 15.Bd6では、15.Be5としてビショップが中央に居座るのが良いようです。
 以下、15. ... Ne4 16.Bxg7 Nxc3でほぼ互角(黒が若干良し)。

 15. ... Rf7??では、実は黒にチャンスがありました。
 15. ... Nxd4とし、16.Bxf8なら、16. ... Qxf8 17.Qxd4 Ne4 18.Qd3 Nxc3で黒良しです。

   
16 e3 Ng5
17 Qb3 Nge4
18 Rad1 Nxc3
19 Qxc3 Ne4
20 Qb3 Be6(図−4)
図−4
【図−4】

 16.e3はd4のナイトを守った手でしょうか。この後、17.Qb3としていますので、事前にナイトに紐をつけたのでしょう。

 これに対して、黒はe4のマスを利用することにしました。
 ナイトをe4に置けば、... Nxd6とビショップを取ることもできます。
 そこで、16. ... Ng5として2つのナイトを同時にe4に利かせることにしました

 ひとつナイトを交換し、19. ... Ne4で再びナイトをe4に置きます。これで、いつでも ... Nxd6が可能になりました。

 20. ... Be6でb3のクイーンに狙いをつけます。
 その一方で、Nxe6と取ってくれないかなぁとも思っていました。
 ダッチのレニングラードでは、あまり白マスのビショップが活躍する局面は少ないので、ナイトと交換してしまう方が多いようです。

 
   
21 b5 Kh8
22 a4 Nxd6
23 cxd6 Be5
24 Rc1 Rc8
25 Nxe6 Qxe6
26 Bxd5??(図−5)
図−5
【図−5】

 黒はビショップにはかまわず、21.b5〜22.a4とクイーンサイドのポーンを押し上げてきます。
 クイーンサイドを押しつぶそうという白の明確な意思が伝わってきます。

 黒は22. ... Nxd6とビショップを取り、23.cxd6と取り返したポーンを後で取ってしまうことにしました。
 しかし23. ... Be5が余り良くないようです。
 黒マスのビショップを盤面中央から、今度はキングサイドへの攻撃も視野に入れたつもりでしたが、23. ... Bd7としてのc6のポーンを守るのが良いようです。

 白は34.Rc1として、cファイルで攻めるようなので、黒も34. ... Rc8としてこれに対抗します。

 26.Bxd5??とサクリファイスは悪手。
 感想戦では、「なんとなくやりたくなる形なんですよねぇ」とkojieaさんの談。実は、この直感は正解だったのです。

 そのためには、下準備が必要で26.Rfd1!とすると、白にチャンスが生まれました。

 26. ... Kg7とすると、27.bxc6 bxc6 28.Rxc6 Rxc6 29.Bxd5 29.Qxd6で、白のワンポーンアップ。
 26. ... Rg7とすると、27.Bxd5 cxd5 28.Rxc8 Qxc8 29.Qxd5 Bxd6 30.Qxd6で、これも白のワンポーンアップ。

 いずれも、Bxd5という手が成立するのです。
 私はまったく気付いておらず、白も大きなチャンスを逃しました。
 こういうように、「サクリファイスしたい形」というのはあるのですが、その前に1手準備をすることも重要です。
 一方で、その準備のつもりの1手が相手に余裕を与える場合もあります。本当にチェスは難しい・・・。

   
26 ... cxd5
27 Rxc8+ Qxc8
28 Qxd5 Qe8(図−6)
図−6
【図−6】

 サクリファイスしたからには、28.Qxd5でビショップとルークの両取りまでは一直線。
 しかし、28. ... Qe8で両方の駒とも守れてしまいます。

 これで、黒優勢です。
 黒としては、「クイーンを交換してしまえば」というところなのですが、それは白もわかっています。

   
29 Rd1 Rd7
30 Qc5 b6
31 Qc6 Qe6
32 Kg2 Bxd6
33 Qc8+(図−7)
図−7
【図−7】

 白は29.Rd1と、d6のパスポーンで勝負しようとしますが、29. ... Rd7と押さえます。
 これで、黒はd6のポーンはいつでも取れます(例えば ... Qf8とでもして)。

 この日の夜の飲み会でいるか師匠に指摘されたのが、32. ... Bxd6の手です。

 先ほど説明したように、このポーンはいつでも取れるので、そういった時に注意しなければならないことの一つに、キングの安全性があります。
 特に、白にはまだクイーンが残っていますから、このクイーンを活躍させるような展開は避けねばなりません。
 そこで、32. ... h5! がいるか師匠推薦の好手。h7のマスがキングの逃げ場になるのです。

 後々の展開を見ていただければわかりますが、g7に逃げるしかないキングが、自らを窮地に追い込んでいくこととなりました。

   
33 ... Kg7
34 Qc3+ Kf7
35 Qh8 h5
36 Qh7+ Ke8
37 Qh8+ Ke7
38 Qg7+ Qf7(図−7)
図−8
【図−8】

 33. ... Kg7と逃げるしかないのは、先ほど説明したとおりです。
 そして、ここから白のクイーンの大立ち回りが始まります。

 35.Qh8以降は、私も読みの中に入っており、35. ... h5でキングサイドのポーンは取られずにすむし、38. ... Qf7で白のクイーンも引かざるを得ないだろうと安易に考えていました。

   
39 Qc3 Qf6
40 Rd4 Be5
41 Qb4+ Bd6??(図−9)
図−9
【図−9】

 クイーンをc3へ追い返し、改めてクイーン交換を求めますが、白は当然のごとく応じません。

 実は、このあたりからお互いに時間が少なくなってきます。
 私自身はかなり焦りを感じており、指し手にもそれが見えますが、kojieaさんは落ち着いていました。

 そんな中、41. ... Bd6??が悪手。白にチャンスを与えてしまいました。
 フリッツ君によると、41. ... Rd6 42.Rc4 Kd7 43.Qb3 Qe6として、黒マスをビショップで、白マスをクイーンで支配する形に持っていくべきのようです。

   
42 Qc3 Qe5
43 Qc6 Qc5
44 Qa8(図−10)
図−10
【図−10】

 私は焦りのあまり、クイーンを追い掛け回しますが、白は落ち着いて44.Qa8として、再び黒の陣地に侵入します。
 このあと、g8やh8に移動すれば、キングサイドのポーンが危なそうです。

 フリッツ君も黒有利の局面としながらも、"White fightes for the Initiative"と申しております。

   
44 ... Be5
45 Rxd7+ Kxd7
46 Qxa7+ Qc7
47 Qa8 Qb8
48 Qc6+(図−11)
図−11
【図−11】

 a7のポーンを諦めて、ルークを交換しましたが、これも早計だったようです。
 44. ... Qc7 45.Qg8 Kf6 46.Qh8+ Rg7で守れば問題なし。

 恥ずかしい話ですが、時間切迫の余りに48.Qc6+という手はまったく見えていませんでした。

 私は、なんとかドローにするしかないだろうと考え直したのですが・・・。

   
48 ... Ke7
49 Qxg6 Qa8+
50 Kh3 Qxe4+
51 Qxb6 Qg4+
52 Kg2 Qg4+
53 f3 Qc2+(図−12)
図−12
【図−12】

 もう自分のポーンをあさり取られるのはやむを得ないとし、お互いに持ち時間が少ないのでとにかく攻めあうしかないと考えました。

 実際、53. ... Qc2+の時点で、フリッツ君の判定は「=(0.06)」と全くの互角。ここでドローオファーしましたが、受けてはもらえませんでした。
 局面だけ見れば確かに互角ですが、優勢からずるずると互角に持ち込まれ、持ち時間が少なくなった戦いでの心理的な状況は、私の方が不利であるとkojieaさんは判断したのでしょう。

   
54 Kh3 h4
55 Qb7 Ke6
56 f4 Bf6
57 b6 hxg3
58 hxg3 Qc1
59 Qf3(図−13)
図−13
【図−13】

 ドローを受けてくれないとなれば、こちらもいろいろ考えねばなりません。そうは言っても時間が少ないのですが(笑)。
 54. ... h4は、55.gxh4??なら55. ... Qxh2の一発メイト。55.Kxh4とすると、55. ... Qxh2 or Bf6+としていろいろややこしくできそうだと考えました。

 そこで白は55.Qb7+と一回チェックをして、56.f4としました。

 実は58. ... Qc1の局面、ここは黒のチャンスでした。
 58. ... Qd1!としておけば、Qg4+ or Qh5+の連続チェックの筋があり、フリッツ君の判定はドロー。
 白のポーンの並びをよく見れば思いつく手ですが、時間がありませんでした。

 59.Qf3は、その危険なラインを防ぐ手です。
 指されたときに、「あ、そうだったか!」とは思いましたが、時既に遅し。

   
59 ... Qc8
60 e4 Qh8+
61 Kg2 Bd4?(図−14)
図−14
【図−14】

 ならばしょうがないと、59. ... Qc8とクイーンを引き、60. ... Qh8+とチェック。
 半ばヤケクソです(苦笑)。

 しかし、局面はまだまだドローがあり、61. ... Bd4?のところで 61. ... fxe4 62.Qxe4 Kd6 63.Qb4+ Kc6とb6のポーンを取りに行くと、ドローにすることも出来たようです。
   
62 exf5+ Kxf5
63 Qd5+ Kg4
64 Qg5#(最終図)
最終図
【最終図】

 しかし、わざわざ悪くなる方へと手を指し(涙)、63.Qd5+でキングとビショップのフォーク。
 b6のポーンを取り、クイーンを交換し、ビショップ vs f,gポーンという形にすればドローの可能性が高かったようです。

 最後はメイトで終わりです。