終焉への序曲



その少年は、夢と希望を持ってこの世界へやってきたはずだった。
彼は力を得て、友を得て、富を築いた。
そう、彼の人生は幸せに終わるはずだったのだ。

しかし、少年の人生はたった一つのアイテムに狂った人々によって破滅へと追いやられた。
邪神の神器に侵された者たちによる望まぬ政略結婚、そして迫る洗脳の魔の手。
この世界の崩壊よりも先に、彼の心身が崩壊してしまうほど、それは残酷なものだった。



いつ滅びたとも知れない廃墟に佇む少年。
このまま人知れず、多くの死者と友に眠ってしまえればいい。
少年は朽ちかけた墓石に身を横たえ、終焉の時を待った。

「そのまま終わっていいの?」

誰もいないはずの廃墟に、突然人の声が響いた。
振り返ると、そこには人懐っこい笑みを浮かべた一人の男が立っていた。

「せめて思い出の場所に別れくらい告げてきたら?」

男の言葉に、しかし少年は力なく首を横に振る。
あそこに行くには仲間たちの集会場を通るしかない。
しかし、今あそこを通ったら、邪神の手先に捕まってしまう。
捕まったが最期、自分は邪神へ捧げられ、身も心も囚われてしまうだろう。

「君が望むなら……力を貸すよ」

全く予測しなかった男の言葉。

「君の肉体を救うことは出来ない。でも、魂を邪神から守ることは出来る」

男の言葉は、乾ききった大地に注ぐ雨のように響いた。

「ずっとここにいても、君が姿を見せないことを不審に思った者によって発見されるだけだ」

悪い話ではないだろう? と、男は言葉を紡ぐ。

これは悪魔の誘惑だ、と少年は思った。
一見ただの戦士に見えるが、この男は何か得体の知れないものを秘めている。
誘いに乗ったら、恐らくただでは済まない。

「……本当に、オレを助けてくれるのか?」

「もちろん。一度かわした契約は決して破らない」

男は優しすぎるほどの笑みと共に、少年に手を差し伸べた。
少年は己の震える手を、男の手に重ねる。

「これで契約は成立だ。じゃあ……君にはこれを被ってもらおう」



不安そうに呟く少年を、男はただ見つめていた。
まるで、仕掛けた罠にかかった獲物を見るような目で。



 

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