終焉への序曲



どういうことだ。
まるで身に覚えがない。

まさか昨日、ゴーグルを被ってあの戦士に身体を明け渡しているときに……?
いや、それにしても早すぎる。
一日でここまで子供が成長するなんて、人間の成長度合いではない。

「というワケで、ダーリン、責任取ってね☆」

「んなっ、ま、待て! 明らかにそれ人間の生物的な構造としておかしいだろ!?」

まさか彼女は、そこまで邪神の瘴気に侵されてしまっているのだろうか。
……ありえない話ではない。
何せ邪神の神器たる漆黒の仮面は、身につけるだけで食事も睡眠も、呼吸さえ必要としなくなる代物だ。
妊娠して子供が一日で大きくなってしまうことも、決して考えられなくはない。
……なんてこった。

「あっ、動いた……」

「……」

参った。事実がどうであれ彼女は自分の子を妊娠したと信じ込んでいる。
そして彼女がそう信じ込んでしまった責任の一端は、間違いなく自分にある。

「……やれやれ。とにかく一旦、みんなのところに戻ろうか」

とにかく、彼女が身重であることは疑いようがない。
そんな状態の彼女をここに長く置いておくことは決していいことではないだろう。

それにしても、あの戦士風の男……まさかこれが目的だったのか!?



(……ごちそうさまでした)

宿屋で小さく、戦士風の男が呟いた。



 

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