終焉への序曲




そして、平民服の少年と司教の妹は、邪神への生贄の儀式の間へと連れ戻された。

「さて、これで契約は終了だ。二人の魂は元に戻そう」

戦士風の男が指を鳴らすと、食物繊維と平民服の少年の身体から淡い光の玉が飛び出し、お互いの身体に吸い込まれた。

「ずいぶん楽しませてもらったよ。
……後はあなたの自由だ、邪神の司教さん」

ニヤリと笑みを浮かべ、そのまま宿を後にする戦士風の男性。
その背をにらみつけながら、平民服の少年は思った。

(……そもそもの発端は、オレが目の前の問題から逃げようとしたからだ。
だから、あんな得体の知れないヤツに弱みを付け込まれてしまった)

少年は司教へと向き直り、その漆黒の仮面の赤い目を見据えた。

「もう逃げも隠れもしない。とっとと仮面を被せるがいいさ」

(オレはもう逃げない。自分自身のためにも、この少女のためにも、
この少女の宿した命のためにも……そして、この世界のみんなのためにも)

漆黒の仮面を被ったとき、少年の身体に邪神が降臨する。
しかし、それが少年にとって最後のチャンスでもあった。

(オレは、この身体を邪神に明け渡したりなんかしない。
この魂にかけて……邪神を、打ち負かしてみせる)

少年の眼差しに、迷いはなかった。

「……私としたことが、♂用のマスクを忘れてしまったらしい」

「はぁ!?!?!?」

しかし、そんな少年の決意を打ち砕く、司教の一言。

「これから私は君用のマスクを取ってくるが……
……くれぐれも、妹を連れて逃げようなどと考えるなよ!」

少年に釘を刺し、姿を消す邪神教団の司教。

「……」

(これって……逃げろってことだよな、ようするに)



 

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