終焉への序曲



「……」

「……」

司教が去って、後に取り残された平民服の少年と司教の妹。

「……で、どうする? このままだとオレ逃げるけど、止める?」

「私はお兄ちゃんを裏切ることは出来ない……けれど、あなたを止めることも出来ないわ」

力なく微笑む少女。それを見た少年は……

「ちぃ、しょうがない。しっかり捕まってろ!」

……おもむろに、少女を抱き上げた。

「このまま廃墟の果ての幽霊屋敷まで逃げるぞ。
あそこならそう簡単に見つからないだろう。文字通り人がいないからな」

突然の少年の行動に、顔を赤く染める少女。

「さて……行くぜ!」

そして、少年は少女を抱きかかえたまま、宿の扉を蹴り開け走り出した。

風のように過ぎ去る、見慣れた町の風景。
人々の談笑する、他愛もない平和な世界。

愛しい人の胸の鼓動を感じながら、少女はただ、幸せを噛み締めていた。



 

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