終焉への序曲



「やれやれ……世話の焼ける二人だ」

少年と少女が走り去ったのを確認し、邪神教団の司教は姿隠しの術を解いた。

「この私が、唯一無二の妹を本気で我が神の贄にするわけがなかろうに」

宿屋には、今や邪神降臨に使われる儀式道具一式だけが残されていた。
それを一瞥し、司教は呟く。

「さて、最後に我が神に挨拶に行かねばな……
挨拶というより、罰を受けに行く、か」

そう、彼は己の使命を反故にし、己の妹の命を選んでしまった。
そのことを、邪神は決して許しはしないだろう。

「……だが、私は己の選択に悔いはない」

邪神の神器たる漆黒の仮面の下で、笑みを浮かべる司教。
その瞬間、漆黒の仮面の目が赤く光り、音もなく灰となって崩れ落ちた。

「……」

数十年ぶりに己の顔を撃つ太陽の光を、司教は奇跡を見るように確かめた。



 

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