終焉への序曲



「……こんなところにいたのね。魔性の戦士」

宿屋の近くで一部始終を見ていた戦士風の男に、手斧と皮盾の女戦士が詰め寄っている。

「やぁ、カマキリ嫌いの聖戦士さん」

「ふ……ふざけないで!」

手斧を男の首にあてがう女性。

「私に邪教徒たちの居場所と目的を教えたのはあなたよ。
それなのにどういうこと!? あなた自身が邪神降臨を見逃すようなことをするなんて!」

「俺の目的は邪神降臨を妨げること。
その目的が果たされたと確信したから、最後は司教の好きにさせただけ」

「どうして、そんなことがわかるのよ!
あのまま司教が、弟に仮面を被せていたら……!」

「『愛』だよ」

ニヤリと笑みを浮かべる男。

「あの司教の妹の、君の弟への愛。
そして司教の、彼の妹への愛。
それらが、邪神の瘴気を打ち払ったのがわかったからね」

「……」

「まぁ……俺としては、ちょっと予想外でもあったけどね。
まさか君の弟が、あんな行動に出るとは思いもしなかった」

「……弟を侮辱しているの?」

「とんでもない! これは褒め言葉だよ。
邪神の瘴気のみならず、俺の契約まで破られるなんて……ホント、参ったよ」

「……」

やれやれ、といった様子で首を軽く振る男。
その表情に、今までのような不敵な雰囲気は見られない。

「でもまぁ、今回は我慢するよ。君の弟は手に入らなかったけど、代わりに面白いモノが手に入ったから」

そのまま女性に背を向ける男。右手を上げ、軽く横に振る。

「待って」

「……まだ、何か?」

「最後に……もし、邪神が降臨していたら、この世界はどうなっていたの?」

「……この世界に生きる者全てが、漆黒の仮面を強制的に身につけさせられるハメになった」

「……」

「あの仮面の恐ろしさは君もよく知っているはずだ。
着用者は食事も睡眠も呼吸も不要な身体になってしまう。
それだけならまだしも……本当の恐ろしさは、世界が滅んだあとにやってくる」

「それは?」

「死後、魂は冥界の魔王の元へ導かれることは君も知っているはずだ。
しかし、邪神が降臨したら……仮面を装着した者の魂は、全て邪神の手に落ちてしまうはずだった」

「それがどう違うって言うの?」

「大違いさ。冥界の魔王はこの世界が滅びたとき、魂をそれぞれが希望する世界へ送り届けることを誓っている。
しかし、邪神はそんな親切なことはしない。手に入れた魂は全てインマイポケットされてしまう。
それがどんなに恐ろしいことだかわかるか? 魂が新なる世界に転生出来なくなってしまうんだ」

「……」

「俺自身は邪神の影響なんて受けないけど、やっぱり転生出来ないってのはつらいからね。
だから、邪神の復活を阻止しようと動いてたワケさ」

「……あなたは一体、何者なの?」

今まで何回か投げかけられ、そのたびに答えをごまかした問い。しかし。

「人ならぬ超常の力を持った存在。
わかりやすく言うのなら……『悪魔』かな」

「!!!!」

その言葉に女性が反応し、手斧を振るうより早く
男はどこへともなく姿を消していた。



 

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