そして……世界は終焉の時を迎えた。
空が割れ、混沌と闇が大地へ降り注ぐ。
地に生きる者たちが淡い光を放つ魂となって、流れるように冥界へと導かれていく。
何度見ても美しく、そして儚い光景だと、悪魔は思った。
「本当なら、あの平民服の人も隣に置きたかったんだけどね」
悪魔の隣には、呆然と世界が滅びていくのを見つめている、食物繊維の姿があった。
「彼との契約は破られちゃったから、結局残ったのは君だけだったよ」
「……」
悪魔との契約に用いられるのは、己の魂。
そして契約の代償として、食物繊維は己の魂を悪魔の所有物とされてしまった。
「でもまぁ、悪くはないだろ? こんな光景、普通は見られないよ」
「……これから僕はどうなるの? 僕を、どうするつもりなの?」
「そうだねぇ……今魔界は野菜不足だから、君を栽培することになるかもね」
「……」
悪魔や鬼が、クワを持って自分が植えられている畑を耕している図が食物繊維の脳裏に浮かんだ。
もしかしたら向こうでも一本38円とかで叩き売られることになってしまうのだろうか。
「まぁ、君の用途はあっちに行ってからゆっくり決めることにするよ」
クク……と笑いをかみ殺し、食物繊維の手を引く悪魔。
しかし。
「いた! あそこだ!」
「!?」
食物繊維にとって聞き慣れた声が響く。
振り返ると……
「食物繊維を放しなさい、この悪魔め!」
「オレだけが助かってアンタが助からないのは寝覚めが悪いからな!」
「ダーリンが行くなら私も行く〜!」
「妹を泣かせたら承知せんぞ!」
「繊維は俺の食料だ! 他のヤツに食わせるもんか!」
「らぶ☆」
「君の行くところ俺も一緒だー!!!(ハァハァ)」
「カマーン」
噴水前で、狩場で。
食物繊維が共に過ごした仲間たちが、それぞれの得物を手に、悪魔に挑みかかっていく。
「み、みんな……!」
「……バカな人たちだ。そのまま彼のことなんか気にせず新たなる世界へ旅立っていればよかったものを」
悪魔の顔が憎々しげに歪んだ。
「まぁいい……魔王の元に逝かないまま世界の崩壊が終われば、君たちの魂は行き場を失う。
それまでに、この俺を倒せるかな!」
世界が崩れていく。
生まれる前の混沌へと還っていく。
壮大な光景を背に、数人の冒険者が悪魔に挑んでいく。
剣と剣が、魔力と魔力がぶつかり、弾け飛ぶ。
世界が完全に崩れ去ったとき、そこには……
FIN.
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