― 終焉の果てに ―


「……」

悪魔は無言で、足元に伏す少年を見下ろした。

「ホントにバカなヤツだ……暗殺撃はその名に反し、己の生命力を破壊力に変える技。
あんなボロボロの状態で撃ったって、大した威力が出るわけでもないのに」

そっとしゃがみ込み、少年の首に手をかける。

「まだ生きてはいる……でも、虫の息ってところか。
放っておけば、すぐに死ぬな……」

とりあえず、ここでこの少年を死なせてはいろいろ後味が悪い。
そもそも滅多にお目にかかれない高い素質を秘めた魂なのだ。
……それゆえに、ここまで自分が手こずらされたとも言えるのだが。

「……だからこそ、堕とし甲斐があるしね」

悪魔はほくそえむと、懐から真紅の液体の入った小瓶を取り出した。
蓋を開けると、少年の口に流し込む。

「……うっ……んぐっ、げほっ! げほっ……かっ……」

薬の効き目が表れ、程なく少年は息を吹き返した。

「……どうして、オレを殺さない……!」

「殺して欲しいなら殺してあげるよ。ただしそれは契約になるけどね」

「っ……」

ニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべ、少年を見下げる悪魔。

「というワケで、君には3つの選択肢が残されている。
俺と契約するか、このまま死ぬか……それとも、自力で他の世界へ脱出を試みるか」

「……」

「まぁ、どっちにしろどれが一番いい選択かってのは目に見えてるけどね」

「……」


少年はよろめきながら、ゆっくりと立ち上がった。
ただただ広がる混沌の闇を凝視する。

……そう、どれが一番いい選択かってのは目に見えている。
問題は、それを自分に成し遂げることが出来るかどうか、だ。

いや、必ず成し遂げなければいけない。
自分はまだ、死ぬわけにも、悪魔の所有物にもなるわけにはいかない。
みんなのためにも、自分自身のためにも――

――すぅ、と息を吸い込むと、手裏剣を大きく振りかぶる。


「……!? まさか、本気で他の世界への道を切り開くつもりなのか!?」

悪魔の慌てた様子に、少年はニヤリと笑みを浮かべる。
同時に、手にした手裏剣の切っ先に光が点る。

「バカなマネはよせ! うかつに混沌を刺激すると、君という存在自体が飲み込まれてしまう!」

「その方が、アンタの言いなりになるよりか数倍マシだね!」

「ちっ……くそっ!!」

悪魔の手に握られた剣が、少年の右手目掛けて薙ぎ払われる。
キィンという鋭い音が響き、一瞬遅れて少年の得物である手裏剣が宙に舞った。

「コレで当分武器は持てな――?!」

悪魔の目に映ったのは、握り締められた右のこぶしを混沌目掛けて叩きつける少年の姿だった。

「残念……この技は武器がなくても威力は変わらないのさ」


生命の光が混沌の帳を抉り、闇が噴出した。



 

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