(邪神教団の狙いはただ一つ……邪神の降臨に他ならない)
手斧と皮盾による簡素な武装をした女性が、小高い丘の道をひたすら走っている。
(二人の結婚式は、ただの通過儀礼に過ぎない。
司教の妹は、邪神を呼ぶための供物として)
彼女は戦神に仕える聖戦士見習いであった。
(……そして、私の弟は……降臨した邪神の器として、捧げられるための)
滅びを間近に迎えたこの世界で、一体邪神が何を企んでいるのかまではわからない。
しかし、それが何であろうと、この世界の住民にとって望ましいことであるはずはない。
ならば、正義の名にかけて阻止しなければならない!
女性は結婚式が行われる予定の大聖堂の扉を蹴り開け、中に踊りこんだ!
「カマーン」
「カマーン」
「!?」
……そこにはカマキリがいた。
しかも、二匹。
「……」
カマキリの向こう側に、タキシードに身を包んだ少年と、純白のドレスに身を包んだ少女の姿が見えた。
少女の眼差しは愛する者と結ばれる幸せな女性のもので
……少年の眼差しは、まるで奈落の底のように虚ろなもので。
「カマーン」
「カマーン」
「……」
止めなければならない。
罪もない二人を救出しなければならない。
しかし、女性はカマキリを踏み越えそれ以上先に進むことは出来なかった。
「カマーン」
「カマーン」
「…………」
珍妙なカマキリの向こう側で、二人の姿が掻き消えた。
式が終わり、贄の儀式へと移されたのだろう。
「カマーン」
「カマーン」
「………………」
そのまま女性は教会の扉を閉め、とぼとぼと歩み去った……。
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