終焉への序曲



(……攻撃魔法も使えないくせに、無意味に含有魔力量が多い。無駄な肉体だ)

暗い闇の中、廃墟に一人の戦士風の男が佇んでいた。
瞳を閉じ、何かを祈っているようにも見える。

(しかし……義賊に伝わる究極の技・暗殺撃の最後の継承者、か。
三連撃や究極の武具よりも、全てを破壊尽くす力よりも、もはや覚える者すらいないその技を選ぶ意志……)

男の口元がにやりと歪む。

(まさしく、邪神が好みそうな魂じゃないか)

邪神を奉ずる教団の狙い。それはこの世界の崩壊時に邪神を降臨させることであった。
そして、あの平民服の少年はその器に選ばれた。

(あの司教の観察眼は大したものだ。こんな魂の持ち主、滅多にお目にかかれるものじゃない。
……けれど)

男の足元に、邪神の神器である漆黒の仮面が落ちていた。

(悪いけど、邪神をこの世界に顕現させるわけにはいかないからね)

男は何事かを呟きながら、空中に魔法陣を描く。
魔法陣は漆黒の仮面へ転移すると、漆黒の仮面と共に弾け飛んだ。

魔術師に伝わる究極の破壊魔法・セメリア。
しかし、この男は戦士でありながら、その呪文をいとも簡単に操った。

(それに……彼を欲しがっているのは、邪神だけじゃない)

クク……と小さく笑う。しかし、その笑いを聞くものは誰もいなかった。



 

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