終焉への序曲



「食物繊維は司教の妹が好き。けれど司教の妹は平民服の少年が好き。
そして平民服の少年は、司教の妹から逃げたがっていた」

不敵な笑みを浮かべ、語りだす男。

「なら答えは簡単。食物繊維と平民服の彼の中身を入れ替えれば万事解決するってね」

まるで人間がモノのような物言い。

「……で、どうする司教さん? このまま彼に仮面を被せ、儀式を続行する?
肉体は正真正銘、平民服の少年のモノだ。邪神を降ろすのにはさほど問題ないはずだけど」

「答えは一つ。食物繊維を探し出し、彼にマスクを被せる!」

きっぱりと答える邪神教団の司教。
その答えを聞き、戦士風の男はニヤリと笑った。

「なら、平民服の少年の魂を一刻も早く探し出すことだ。
……今日の23:59まで、彼はこの町から行けるどこか、
彼にとって思い出深い場所にいる。
それまでに彼を見つけ出すことが出来たら、二人の魂を元に戻そう」

ゲームの説明をするように、男は言う。
いや、彼にとってはゲーム以外の何物でもないのだろう。

「その代わり、時間内に見つけることが出来なければ……二人は永遠にこのままだ。
わかったね?」

男の説明が終わるや否や、宿屋を飛び出す司教とその妹。

「待ってろ食物繊維……必ず君を見つけ出す!」

司教の残した言葉に、戦士風の男は笑みを浮かべ
平民服の少年の身体に入ったままの食物繊維は……複雑としか例えようのない顔をした。

「……僕だって、最後くらい好きな女の子とキスとかしてみたかったんだもん」

白状するように呟く食物繊維。
そう、彼の心の中では、司教の妹を邪神から救うことよりも
己の欲望を満たすことの方が勝っていた。

そのため、彼は司教の妹に正体をあっさり見抜かれ、打ち捨てられてしまった。

「……僕は、弱かった。本当の愛なんてわかってなかった。
それなのに彼女を邪神から救おうだなんて……自惚れもいいところじゃないか」

糸が切れたように、床に崩れ落ちる食物繊維。
その様子を見て、戦士風の男は笑みを深めた。



 

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