「Y」

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 説明

この小説は、主人公・聖剣の勇者:アンジェラ(ソーサレス→グランデヴィナ)
            二人目:ホークアイ(ニンジャ→ナイトブレード)
            三人目:デュラン(ナイト→パラディン)  という設定です。
なお、登場人物の性格は作者のイメージ(妄想)に従って描かれているため、
 実際のゲーム中の人物の性格と一致しない場合があります(というか全く一致しない^^;)。 

「い…いや……いやぁー!!」
耳をつんざく叫び声と共に、辺りに光が満ちた。
自分の体が空気に溶けていくような感覚に襲われ、少しずつ視界が暗くなってゆく。
……いや、逆だ。白く明るくなっていく。そして、天井が私の前に現れた。
「…また、夢…」
私はベッドから上半身を起こした。体中汗でべっとりしていて気持ち悪かった。
ゆっくりと水浴びをしたいが、そんなことをしたらまた仲間に怒鳴られてしまうだろう。
「リーダーは誰だと思ってるのかしら、全く…」
(アンジェラがわがまますぎるのよ)
頭の中で声がした。
「何よ、フェアリーだって私の中に勝手に居座っちゃってサァ…」
自分のやりたい事が何一つ出来やしない。
(もっとも、以前が好き勝手過ぎたのかもしれないけど)
そう思うと不愉快さがすっと消えた。体のべとべとも乾いた布でふくとおさまった。

「次はどこに行けばよかったんだっけ?」
私のすぐ後ろを歩く青年が誰かに声をかけている。
「ミントス…じゃねぇか?」
さらに後ろから答えが返ってきた。
「アンジェラ、そうだよな」
「うん、確かね」
この先の砂浜から、大きなカメ(本当は海の主らしいが、私はそうは思っていない)の
ブースカブーに乗って海を渡るのだ。
「ずっと夜の町か…はじめて聞いたときはまさかって思ったけどな」
「やっぱり、月のマナストーンのせいなのかな」
「ずっと月を出していたいから?」私も会話に加わろうとした。
「昼でも月が見える事あるだろ」
「えっ、それホントなのデュラン! 私、昼間に月なんて見たこと無いわよ」
「お前の場合、空を見るようなこと自体無かったんじゃねぇのか?」
「何よその言い方! 私だって空くらい見てたわよ!!」
…またデュランの挑発に乗ってしまった。いつものケンカのパターンだ。
「もっとも、アルテナじゃ月も凍って上れないだけかもしんねぇけどよ!!」
「何よーーーーーー!!!!」
デュランは何かとつけてアルテナをけなす。仕方の無い事だと思うが、
仮にも私はその国の王女だ。自分の国をけなされて怒らない王女などいないだろう。
私は我を忘れて、デュランに掴みかかっていた。
「わ、やっ、やめ…っ!」
「ジャマよどきなさい!!」
杖で邪魔者を弾き飛ばした。そして、その勢いのままデュランに向け杖を振り下ろす。
キィンと金属を叩く音がした。そして、自分の右手に痺れが走る。
「そんな腕前じゃ俺に一撃も喰らわせられないぜ!!」デュランが盾をかざし挑発してくる。
「もう許さないわ!!」私はまたも挑発に乗せられてしまった。が
「二人ともいいかげんにして!!」
私の体から白い光球が抜け出した。…フェアリーだ。
「こうしてる間にも、マナストーンのエネルギーがどんどん解放されていくのよ!
 そして、全てのマナストーンのエネルギーが解放されてしまったら…!!」
「もう、わかったわよ!!」
本当にいつものパターンだ。
「ほら、とっととミントスに行くわよ!!」
私はムシャクシャをごまかすように、仲間たちに背を向けずかずかと歩き出した。
「あ、おい、待ってくれアンジェラ!」
「早く来ないと置いてくわよ!!」
…そう怒鳴る自分が本当にイヤになっていく。
(遊ばれてるなァ…私って)
あんな子供相手のような挑発にムキになってしまうなんて。
でも何か変だ。いくら私が単純だとしても、あんな挑発で我を忘れてしまうなんて。
以前はあの程度なら、鼻でフンとあしらっておしまいだった。それが、最近は妙に頭にきてしまう。
(自分の国をけなされたから?)
しかし、デュランは毎回アルテナをけなしているわけではない。
(…それに)
私も、何かとつけてデュランにケンカを吹っ掛けている。
別にデュランが嫌いなわけではないが、何故か口から出るのは彼への挑発ばかりだ。
(八つ当たり?)
いや、違う。私も四六時中怒ったりムカムカしてるわけではない。
それに、単なる八つ当たりなら、相手がデュランである必要なんか無いではないか。
それなのに、ケンカの相手は必ずといっていいほどデュランなのだ。
(…わからないわ)
この旅に出てから、本当に自分がわからない。
(でも、きっとこの旅が終われば治るわよね)
そう結論を出したとき、後方から仲間たちが走ってきた。

「い…いや……いやぁー!!」
……自分の叫び声で目が覚めた。もう何回同じ夢を見、同じ叫び声を上げたのだろうか。
回数を数えようとしたが、数え切れなかった。
 紅蓮の魔導師たちにより、私の母…理の女王が何処かへと連れ去られ、
マナストーンから神獣が解放されてしまってからほぼ二週間が経っていた。
私たちは神獣を一匹一匹倒して行き、最後の神獣…闇の神獣の居場所を探すために
ここ、古の都ペダンへ来ている。都と言う割りには私たちの今泊まっている宿屋が
一件ぽつんとあるだけで、人がいる気配は無いのだが。
「…大丈夫。きっと闇の神獣の居場所がわかるハズよ」
だって、ここは不思議な場所だ。何があってもおかしくない。
例え、もう一人の自分がいたとしても不思議ではないのだ。

「父さん、行っちゃダメだ、父さんっ!!」
デュランが声の限りに叫んでいる。
私たちの目の前には、フォルセナ王子リチャード…私たちが英雄王と呼ぶ人物…と
フォルセナの誇る『黄金の騎士』ロキがいる。
そして私のすぐ側で、その息子の未来の姿が、必死で父を止めようとしている。
……死地へ赴こうとしている父を。
「ロキ、行くぞ」
「はい」
二人は防具屋から出ていこうとする。
「父さんっ………!!」デュランの絶叫が防具屋に虚しく響き、消えた。
「…デュラン…」
デュランは肩をがっくりと落としたまま身動き一つしない。
「……行こうデュラン。オレたちもゆっくりしてられない………」
「ホークアイ」私はホークアイを制していた。
「放っておいてあげて……」
「アンジェラ…………?」
 何故だかわからない。こんな気持ち初めてだ。
いつもなら、私はホークアイと同じことをしていただろう。
しかし…今は何故か、デュランを放っておいてあげたい。
自分だったら、きっと放っておいてもらいたい。だからこう言ったのだろうか。
「自分を放っておいてあげて」と………。

「喰らえ、閃光剣!!」デュランの剣が純白の光を発した。
ガラスの砂漠の洞窟の中で見つけた闇のマナストーン。それが破壊され、闇の神獣が出現したのだ。
私たちは今、神獣の創り出した亜空間で闘っている。しかし、戦況はあまりよくない。
今デュランの放った必殺技もあまり効いていないようだ。
「うぅ…何でこんなに強いの………?」
「弱音吐くヒマがあったらポトの油使え!!」
デュランに怒鳴られ、私はポトの油を全員に使った。しかし、体力はあまり回復しなかった。
「ホーク! 右の奴の魔法を何とか出来ないの!?」
「さっきから何度もやってる!!」
ホークアイは指を不思議な形に結んでいた。彼の使う術の印だ。
「もう一回チャレンジ!」「わかった!!」
ホークアイが術をかける準備をしているのを確かめた後、私も呪文の詠唱に入った。
使う魔法は………(セイントビーム!)
「火遁!!」
ホークアイが神獣に向け術を放った。右にいた神獣が真紅の炎に包まれる。
それと同時に、私の魔法も完成した。
「セイントビーム!!」
亜空間に光の帯が無数に突き刺さる。闇の神獣が苦しそうな声を上げた……………効いている!
「こいつらの弱点は聖なる力ね! デュラン、全員にセイントセイバーをかけて!!」
やっと勝機が見えたため、私の声は明るく強気になっていた。
「誰からだ!?」「レディーファースト!!」
そう命令したあと、私は再び呪文を唱え出した。
「…セイントビーム!!」
デュランよりさきに私の魔法が完成した。光の帯は確実に神獣を追いつめている。
(もう少し!)
そう思ったときだった。
辺りに不気味な声が響きだす。中央の神獣の呪文だった。
“………デス・スペル………”
 私の周りに暗い空間が現れた。そして、それは私を押しつぶそうとするかのように襲いかかってくる。
「…やっ…いやぁ!!」
自分の魔力を高め、魔法を打ち消そうとした。しかし、すぐに私の魔力は破れてしまった。
………魔法の使い過ぎだった。
(やられる…!)
手持ちの天使の聖杯はとっくに底をついている。手当てが遅れると命にかかわることだって…!
「アンジェラ!!!!」
声がした。そして次の瞬間、私の体は前方に突き飛ばされ、空間から抜け出ていた。
「デュランっ!?」
そして、デス・スペルの闇は、私を突き飛ばしたデュランに襲いかかったのだ。
「ぐっ…!!」
闇が消えると同時に、デュランの体がゆっくりと倒れてゆく。
「デュランっ!!!!!」
叫んだとたん、目から熱いものが溢れ出した。
今まで私の心にあった感情が刹那にしてどこかへ消え、
全く別の…たった一つの強い願いだけが私を支配していた。
(生きていて)
私はロッドをぎゅっと握った。
(アンタだけは、絶対に死なせない……!)
そして、呪文を静かに唱え出した。
残りの魔力の全てを振り絞って、自分の心を一言一言呪文に紡ぎ出す。
 …彼を救いたい。それだけのために。
私の隣に私が現れた。そして、私とは違う魔法を唱え出す。
二人の呪文が輪唱のように亜空間にこだまする。そして、呪文が完成し………
「「ダブル・スペル!!!」」
亜空間に様々な魔法が嵐となって駆け巡った。稲妻が、雹雨が、火球が、同時に神獣へ襲いかかった。
「ギャアアアアアアァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
三つの顔がそれぞれおぞましい悲鳴を上げ、光の中へ灰と化しながら消えていった。
 ………気が付くと、私はガラスの砂漠の洞窟の中に一人立っていた。
「…やった………! デュラン!!」
デュランは私の傍らに倒れていた。
「倉庫にまだ聖杯が!」
倉庫から聖杯を取り出し、デュランに与えた。
「……うっ………」
デュランがうっすらとまぶたを開いた。
「デュラン!!!!!!!!」
うれしさの余り、私はデュランに抱きついていた。
「!! お、おいアンジェラ!! 重てぇぞ、やめろ!!!」
「よかった……ホントによかったよぉ………」
私はデュランの胸に顔をうずめ、声の続く限り泣き続けた。
こんなに泣いたのは、おそらく生まれて始めてだろう。
「…アンジェラ………」
デュランが傷だらけの腕をそっと私の背に回し、小さく囁いた。
「…オマエこそ……無事でよかった………」
その声は、私の知っているデュランの声ではないような気がした。
(今の…アンタの声……?)
そう訊こうとしたときだった。
「いいかげんにしろ!!」「いいかげんにして!!」
同時に二つの声が飛んだ。反射的に飛び起き、声の主たちを確認する。
…デュランと二人っきりで旅していたんじゃなかったのをすっかり忘れていたなんて。
私はホークアイとフェアリーの呆れ顔からとっさに顔をそらした。
今更ながら自分の行動に気付き、顔をトマトみたいに赤くにしてしまったのを見られたくなかったのだ。
「オマエら……いつから気付いてたんだ?」
そう言うデュランの顔をちらりと見ると、やっぱり真っ赤だった。
「そこの発情期なメスが大声で泣き叫ぶもんだから、のんびりと気絶もしてられなかったぜ」
「全く…アンジェラもデュランに抱きつきたいのはよ〜く分かったから、
 そういうのは世界が平和になってからやってよね」
呆れ声で言った後、フェアリーは粉々に砕け散った闇のマナストーンに視線を移した。
「失われたはずの闇のマナストーンが現れたから、聖域への扉が開いたのね………」
私もマナストーンの破片を見つめた。かすかに闇の魔力が辺りに漂っている。
「あっ!!!」
フェアリーが突然大声を上げた。
「!?」
「これはワナよ! 私たちに神獣を倒させて、敵はその力を吸収してたんだわ!!
 もう8匹全部倒してしまったから、敵は神獣の最終形態の力を手に入れたことになる!!!」
「なんですって!?」その瞬間、私は目の前が真っ白になるような錯覚に襲われた。
今までやってきたことは、敵をさらに強力に…事態を悪化させてきただけだったなんて…。
 しかし、もう後には戻れない。
「こうなったらヤケよ!! 行きましょうっ!!!」
前に進めるだけ進む。これ以上悪くなるはずはない。だって既にどん底なのだから。
だったら、例え先が行き止まりでも進んだほうがいいに決まってる。
 それに………
(デュラン………)
私はデュランの顔をちらっと見た。
(さっきの声…一体何だったのか、知りたいの)
そのためにはこんなところで諦めるわけには…死ぬわけにはいかない。
「…ヤケになりたくなるのもわかるけどよ」
デュランが私を横目に見ながら言った。何か決意を秘めたような横顔だった。
「………絶対に死ぬんじゃねぇぞ」
よく耳を澄まさないと聞こえなかったであろうその言葉は、あの声だった。
(ホントに死ねなくなったみたいね)
 私も、デュランも。

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