File14

- 化石らしくない化石 -




画像: 高松の産地にて
撮影:1977年3月27日

採集地:愛知県渥美郡赤羽根町高松
採集日:1977年3月27日
採集化石:貝類、ウニ、スナモグリ
時代:第四紀更新世

   渥美半島の高松というところから、第四紀更新世の化石が産出することを聞き家族で出かけたことがある。更新世の化石は、あまり採集したことがなかったので、どんな産状なのか興味があった。
 産地は人影もない静かな海岸で、きれいな砂浜が遠くまで続く景色の良い場所だった。化石は、その海岸の崖から産出した。
 最初に粘土質の地層が目に付いたので、早速掘ってみると、カガミガイが出てきた。しかも、両殻が閉じた状態のものがほとんどだった。良く観察すると地層に対して垂直に埋まっている。これは、生きたまま埋もれたことを示しており、現地性の化石と呼ばれるものだ。ここでは、カニなどの棲み跡であるサンドパイプが見られた。
 さらに進むと30センチほどの貝殻が密集した地層が見られた。ここを掘ってみると、ザクザク大型の貝が出てきた。オオノガイという二枚貝が最も多く、他に大きなアカニシや、カキアカフジツボなど様々な化石が採集できた。しかし、両殻揃っているものは、ほとんどなく先ほどのカガミガイの層とは違い、ここは異地性の化石のようだ。
 その層の上に、まばらだが、化石がポツポツとのぞいている。崖をよじ登って見てみると、それはきれいな形をした巻貝だった。これはヤツシロガイと呼ばれる貝で、薄くて壊れやすかった。私はひとつを慎重に掘り出して、砂ごと丁寧に新聞紙に包んだ。現地で化石を取り出すより、持ち帰って砂を取り除いた方がうまく取り出せる確率は高いからだ。ここの層からは、ヤツシロガイ以外にアワジチヒロエゾマテガイなどの二枚貝なども産出した。
 それにしても、ここの化石はほとんど現世のものと見間違えるほど生々しい。貝類などは、殻の色が残っているものがあるし、アカフジツボなどは、毒々しいほど赤い色をしている。ここから採った化石を海岸にうっかり落としたら、きっと今の貝殻と全く区別ができないだろう。そういう意味では、露頭から直接採集した貝以外は、化石でない可能性があるので不用意に持ち帰ることは避けたほうが良さそうだ。
 さて、これらの化石を持ち帰った後のクリーニングは、いたって簡単だ。水で洗い流すだけで、ほとんどの化石を取り出すことができた。そうしてクリーニングしていくと、砂の中に小さな化石が含まれていることが分かった。わずか数ミリの微小貝ウニのトゲ、それにカニのツメ(と当時は思ったが、実はスナモグリのツメだった)などが見つかった。これは、現地では全く気がつかなかったが、あの化石層にはこうした小さな化石が無数に含まれているのだろう。私は次回あの産地へ行くことがあれば、絶対砂を持ち帰ろうと思った。しかし、それが20数年後になるとは、そのときには思いもしなかった。



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