File15

- 海岸から出たビカリア -




画像: 鮎川の産地にて
撮影:1977年5月8日

採集地:福井県福井市鮎川町
採集日:1977年5月8日
採集化石:ビカリア、カケハタアカガイ
時代:中新世

 中学校に入学したと同時に腕を骨折をするというアクシデントに見まわれてしまった。一週間も入院をするほど重傷だったが、それでも化石採集には出かけたい。それほどに当時の私は化石ののめり込んでいた。
 左手を吊るしながら向かった産地は福井県福井市にある鮎川というところだった。この産地の情報は九頭竜湖の湖畔にあった水石店の店主からだった。そこで売られていたカキの化石を購入し産地を教えてもらったのだ。その後、浅見化石会館に鮎川産のビカリアが展示されているのを見ていたので、前から行きたかった産地だった。

 ビカリアは中新世の示準化石にもなっている有名なウミニナに近縁な巻貝で、瑞浪からも「月のおさがり」などの名前で産出が知られている。私はこの独自の形をした化石を以前から手に入れたいを思っていた。

 産地は海岸だった。水面から岩がのぞいており、どうもそこから化石が出るようだ。しかし、潮が満ちておりそこまで行けそうにもない。しかたなく潮が引くまで浜に落ちている転石を探してみることにした。さっそく二枚貝が見つかった。どうやらオキシジミと呼ばれるのもらしい。方解石に置換している。他にもないかと探すと今度はビカリアが見つかった。これも完全に方解石化している。どうやらここの化石は全て方解石に置換しているようだ。

 やがて潮が引き出したので、ズボンの裾をまくり海の中に入っていった。水面から出ていた岩は凝灰質砂岩だった。表面を観察すると化石らしいものがあるのを確認した。やはり化石は入っている。ハンマーを降り下ろすとアカガイのような化石が出てきた。どうやらカケハタアカガイらしい。私は夢中になってハンマーを振った。

 やがて、塔状に巻いた貝が見つかった。トゲが発達していないようなのでビカリエラらしいと思いまわりの石を取り除いていると、なんと今度は完全なビカリアが出てきたのだ。先に見つけたものよりずっと保存状態がよくトゲもきれいに残っていたと思う。しかし、そのビカリアは岩に付いたままで、しかも水面ギリギリの所にあり、片手ではとても掘り出すのは無理のようにじた。そこで父を呼んで掘り出してもらうことにした。しかし、父は手元を誤ってビカリア本体にハンマーを当ててしまった。折角のビカリアも見るも無残な姿になってしまった。

 やがて潮が満ちてきた。私の取りついている岩場も波を被るようになってきた。そろそろ引き返さないと戻れなくなってしまう。もう少しここで頑張れば先ほどのようなビカリアが出るかもしれないと思ったが、自然には逆らえない。後ろ髪を引かれる思いをしながら浜に戻ることにした。

 しかし、壊してしまったビカリアは今でも残念に思う。私が骨折していなかったらうまく取り出せたかもしれないと思うととてもくやしい。

 化石採集は体調を整え、万全を期さないと満足には採集できないのだ。


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