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- 荘川村のアンモナイト -




画像: アンモナイトの産出地点を示す私
撮影:1976年6月20日

採集地:岐阜県大野郡荘川村
採集日:1974年〜1976年
採集化石:アンモナイト・ベレムナイト貝類
時代:ジュラ紀中期

 1974年に「化石風土記」という本が出版された。アマチュアを中心にした全国の化石を趣味とする人たちのエッセイなのだが、各地の産地が紹介されており大変参考になった。また、アマチュアの視点で書かれた文章が、当時小学生だった私にも分かりやすく、愛読書の一つであった。

 さて、この本の中に岐阜県荘川村に、ジュラ紀のアンモナイトが採集できると紹介されていた。アンモナイトは憧れの化石だった。アンモナイトは北海道の標本を購入して持っていたが、やはり自分の手で採集したかった。例によって父親と共にその産地に行ってみた。

 一番最初に出かけたときは、本に紹介されていた場所が分からなかった。今思うと分かりやすい所なのに、なぜ見落としたのか不思議だが、その時は川の転石や露頭で貝類の化石を採集したことを憶えている。この日は他の産地にも出かけて、それなりの成果があったがアンモナイトは採集できなかった。

 どうしてもアンモナイトを採集したくて再度出かけ、やっと探していた場所を見つける事が出来た。当時は転石が至る所に落ちており、露頭も新しかった。又、有名なリップルマーク(波痕)も露出しており、波型模様を観察することも出来た。
 化石はいくつもある露頭のどこからも産出した。転石にも沢山入っており、それを拾うだけでもかなりの収穫があった。また露頭によって産出するものが違い、モディオルスという二枚貝の化石ばかりが出る所もあった。

 父は一つの露頭に目星をつけ、バールを使って岩を剥がしていった。私は、その近くで転石を調べていた。しばらくすると、父が「ああーっ!」と大きな声をあげた。父の方を見上げると露頭の一部を手で隠してニコニコしている。「これは何かすごいものが出たな。」と思い急いで崖を駆け上り、父の隠していた場所を覗き込むと、そこには完全なアンモナイトがあった。そして、その色はなんとも表現できないほど美しかった。これは化石を採集したことがある人なら経験があると思うのだが、母岩を割った直後の化石の色はとても鮮やかな色をしているのに、時と共にそれが薄れていく事がある。それはまるで気の遠くなるような年月の間石に閉じ込められた魂が、発見者によって解き放たれ浄化して行く、そんな感覚に陥ることさえある。おそらく、これは酸化や水分の蒸発などが原因だと思うが、とても幻想的でこの事が僕が化石に魅了されている理由の一つとなっている。このアンモナイトも、まさにそうした産状だった。露頭から切り出して再度見てみると、先ほどの美しさはもう無かった。そして現在は保管状態が悪かった所為もあるが、アンモナイトだと言わないと分からないほど退色してしまっている。

 この場所にはその後何回か出かけ、大きなベレムナイトの他、イノセラムス、トラキヤピンナテトリミヤなどの二枚貝などを採集したが、アンモナイトはその後見つけることが出来なかった。

 現在、この産地は採石しておらず、大半が土砂に埋もれてしまっている。


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