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- 憧れの福地 -




画像: 四射サンゴの個体標本
−本文参照−

採集地:岐阜県吉城郡上宝村福地
採集日:1974年10月24日
採集化石:ハチノスサンゴ・四射サンゴ
時代:デボン紀前期

 デボン紀の化石を求めて、岐阜県の清見村にある楢谷という所に出かけたことがある。国道156号線から郡上八幡で国道472号線に入り長良川の支流の吉田川沿いを走るのだが、丁度紅葉の季節で赤や黄色に染まった山々がとても美しかった。私は紅葉の隠れた名所だと思っている。

 さて、肝心の化石の方は立て札は出ているものの産出する場所が分からず、全く収穫がなかった。ガッカリする私を見て父は突然「福地に行こう」と言い出した。

 福地は上宝村にある古くから有名な化石産地だ。シルル紀からペルム紀までの化石が産出するのだが、特にデボン紀の化石は質、量ともに一級の産地だ。のちに、ここから日本最古の化石であるオルドビス紀の貝形虫の化石が発見されたことで更に有名になった。その福地へ行こうというのだ。福地は憧れの地だ。原色化石図鑑に載っていたハチノスサンゴが頭に浮かぶ。「あんな化石が採れたら...」私は胸が躍った。ただ、近くまで来ているというものの、福地まではまだかなりの距離がある。結局現地に着いたのが午後の遅い時間だったように思う。

 福地にはひだ自然館という化石を中心にした展示館があり、早速見学することにした。入館すると案内の男性が付きっきりで展示品の説明してくれた。(たぶん山腰館長だったと思う。この地に産出する三葉虫のグラビカリメネ・ヤマコシイはこの方の名前にちなんで付けられた。)展示品は素晴らしいもので、ハチノスサンゴや四射サンゴ、大きな直角石など、まるで海外の標本を見ているようだった。一通り見学したあと裏山にある遊歩道に向かった。ここは山腰館長の私有地で、化石の産状が観察できるように整備されている。所々にある説明書を見ながら、化石の産状を頭に刻み込んだ。これは、特に初めての産地で化石を探すときに、どんな石にどんな形で含まれているかを事前に知っておくとポイントが分かる分、収穫に恵まれることが多い。しかし、必ず現地にそうした化石を展示する施設があるとは限らず、そうした意味でも福地は恵まれた環境と言える。

 さて、福地は一ノ谷という所が国の天然記念物に指定されている。採集は一ノ谷より下流のオゾブ谷付近に限られる。それ以外の場所は決して採集してはならない。

 ひだ自然館の方に場所を教えてもらい、オゾブ谷に着いた頃は、もうすでに薄暗くなっていた。急いで川原に降り化石を探した。やがて、小さなハチノスサンゴが含まれる石灰岩を見つけた。もっとないかと転石を眺めていると、ハチノス模様が表面に浮かんだ黒っぽい石が埋まっているのを見つけた。ハチノスサンゴだ。急いで取り上げて父に手渡した。父が表面を観察している時、私が最初に見つけた時に見ていた面と別の面に7Cm位の先細りした棒状のものが浮き出ているのを見つけた。その時は直角石だと思ったが、後でひだ自然館の方に見てもらったところ四射サンゴという事だった。(上の画像)この石は直径15Cm足らずしかないのだが、サンゴ類のほかに腕足類やウミユリなど沢山の化石が密集しているものだった。福地の凄さを物語る標本の一つといえると思う。


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