File24

- またもやボウズか? -




伊月の化石産地


 しばらく仕事が忙しく、採集に出かけられない日々が続き、ようやく出かけられるようになったのは10月下旬だった。今後のスケジュールを考えると、山間部での採集は今シーズン最後になるかもしれないと考え、行き先を和泉村に決定した。
 
朝6時に出発し、9時頃には白馬洞に着いた。先回来た時は満面の水を湛えていた九頭竜湖だったが、ダムが大量に放水をしたのだろうか、水位がかなり下がり、茶色の湖岸がむき出しになっていた。そのおかげで前回ほとんど湖面に沈んでいた石灰岩の転石がいたるところに露出していた。ところが、石灰岩の表面は乾ききっており、水で濡らさないと化石の有無を確認出来ない。霧吹きを持ってこなかったことを後悔した。結局ここでの採集を諦め、先回見つけていた露頭に向かった。その露頭は緑色をしており、凝灰岩のように見えた。私はここの三葉虫は凝灰岩から産出したと思いこんでいたので、先回訪れたときにこの露頭が怪しいとチェックしていたのだ。ただ、その露頭は湖の対岸にあり、水位が下がらないと近づけない状態だったので、今回は絶好のチャンスのように思われた。私は所々ある、湖底のゆかるみにはまらないように慎重に渡っていった。(長靴を持っていかなかったのは失敗だった)ようやく露頭に到着し表面を観察をする。しかし、結果すぐに引き返すはめになった。緑色の石は絶対に化石を含まない石、そう片麻岩だったのだ。

 その後、車に戻りどうしようか思案した結果、とりあえず和泉村郷土資料館に行くことにする。和泉村郷土資料館にはこの地で発見されたティラノサウルス科の歯の化石が展示してあるし、白馬洞の三葉虫の情報が得られるかもしれないからだ。

 郷土資料館は、私以外に来観者もなく照明も消されていた。入り口で入場料を払うと係りの人が照明をつけてくれた。ティラノサウルス科の歯は思ったより小さく、一般の人が見て恐竜の歯といってもイメージがわきにくいかもしれない。目指す白馬洞の三葉虫も展示してあったが、残念ながら石膏模型で石の特徴が分からない。ただ、唯一の収穫は和泉村の化石の産出地の地図が有ったことだ。それを見ると、白馬洞の三葉虫の産出地はどうも一番最初に探した場所の付近らしい。

 もう一度白馬洞に戻ろうかか迷ったが、地図にはアンモナイトの産出地として沢山プロットが有る。そこで三葉虫をあきらめアンモナイトを探しに向かった。程なく産地の入り口に着き、林道を登っていく。途中、真新しい砂防ダムがあり、車を降りて付近を捜したが、何も見つからず、砂防ダムから先にも登れそうもないので、もう少し林道を先に進むことにした。しばらく登ると林道の脇に頁岩の露頭があった。車を降り、目に付く転石を割ったが何も出ず、あきらめて、すぐ下に見えた工事中の大きな砂防ダムと先ほどの新しい砂防ダムの付近で捜したが、やはり収穫はなかった。

ボウズというイヤな3文字が頭に浮かんだ。

 しかたなく、昔行った貝皿に向かうことにした。今はそれほど採れないと聞いていたが、昔小さなアンモナイトと破片を見つけているので可能性はあると思った。
 付近に車を止め徒歩で林道を登っていく。ところが登り切ったところは工事しており、作業をしているようなので、そこから引き返し、道々の転石を割って下ることにした。
 転石からは何も出ず、アンモナイトを見つけた沢もコンクリートで固められ採集できそうもない。ますますボウズが濃厚になってきた。しかたなく伊月でテトリシジミでも捜すことにした。先ほどの郷土資料館で配っていた化石産地の案内地図に、伊月産地も出ていたし、あそこならボウズはないだろうと思ったからだ。
 
伊月も私の記憶とはずいぶん様子が変っていた。スノーシェッドが作られ「伊月の化石産地」という看板も出ている。道路脇から登り、露頭の前にきたが転石はことごとく割られていた。しかし、少し奥に行くと少し転石があり、そこで割った一つ目の転石から大きな二枚貝が出てきた。これでボウズは免れた。続いてタニシやテトリシジミ、カワニナが採れ、何か分からないものが2つ見つかった。(クリーニングの結果、カキだとわかったが、もうひとつはシダ種子類の種子と思われる)最後に露頭に出ていたカキの断面の群集を固まりを切り出し、そこで今回の採集を締めくくることにした。

 最後の伊月で何とかボウズを免れ、安堵して帰途についたのだった。


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