学校帰りに、目赤不動へ寄った。
京一が数学教師に捕まって、少々遅くなってしまった為、敷地内には人気がまったく感じられなかった。
尤も、人の気配以外は微かにするが。
鬼道衆連中に、見張られているようだ。
「あった、あった。これが祠だね」
「これが目赤不動の祠か」
こじんまりとした祠に、皆で近付く。
対応する色の宝珠を取り出し、安置した。
「よし――、封印するぞ」
あっさりと、四つ目の宝珠を封印が終了する。
鬼道衆……、なんで邪魔しには来ないんだろうな。不思議だ。
「明日は、江戸川区の目黄不動か」
「かーッ、江戸川まで行くのかよッ」
「まあ、そういうな。それより飯でも食っていくか」
「そうだね」
「あの……今日はマリィと一緒に家族で外食の約束があるの。ごめんね……」
みんなが食ってく方向で話がまとまりかけた所に、葵が申し訳なさそうに言った。
それじゃしょうがないよな。提案する。
「じゃあ、俺はそこまで送ってくよ」
微妙にだが、殺気も感じる。
ひとりになるのは、流石にまずいだろ。
「でも……いいの? 龍麻くん」
もちろん。でなきゃ、危険だ。
「じゃ、ボクたちも帰ろうかッ」
「ああそうだな。また明日な、美里、龍麻」
小蒔と醍醐がまともな挨拶をするなか、京一がいきなりヘッドロックをしてきた。
何事?
「じゃあな、ひーちゃん。送り狼になるんじゃねェぞッ。……美里を危険にさらすなよ」
耳元でそう囁かれた。
これ、額面通りの意味じゃないよな。
「ならんわい。そっちは頼んだ」
「ああ」
同じく小さく返すと、京一は真剣な表情で頷いた。
やっぱ殺気に気付いてるようだ。じゃあ、そっちはよろしく。
「龍麻くん、付き合わせちゃってごめんね」
京一たちとわかれてしばらくしたら、葵が下を向きながら言った。
妙に思い詰めた声だった。
彼女は、更に小さく続ける。
「私ってだめね。いつも、みんなに護られて。ごめんね……。私、龍麻くんに迷惑ばかりかけている」
謙虚さを通り越して、卑屈とも言えるほどの態度だった。
なにかあったんだろうか。
「なんのこと? 心当たりはないよ」
つい、少し冷たい言い方になってしまった。
だが、いつもいつも、卑下ばかりしていると……
……いつもって何のことだ?
「龍麻くん……、ありがとう。あなたはいつもそうやって、私を励ましてくれるのね」
彼女は言葉を切って、やっと笑った。
そして、少し躊躇ってから、ゆっくりと口を開く。
「龍麻くん。私、あなたの事――」
「緋勇龍麻と美里葵に相違ないな」
殺気が一段と強くなり、予想していた連中がわらわらと現われる。
たしかに人気のない路地に入ってしまったけどよ……何も、こんないい所で。貴様ら……。
つーか、今、雰囲気的に、告られる寸前だったんですが。……死ね。
「……相違ないよ」
もう少し、後にして欲しかった。
問題は、予想よりも数が多かったこと。二人相手に、こんな来るな。
さて、どうするか。前後を包囲されている。
「防御をかけ、少しの間だけ耐えて。すぐに助けるから、珠とかを使ってでも近付けないように」
現時点では攻撃手段を持たない葵と舞子には、天照とかの力を封じた珠を、常にいくつか持たせてある。少しの間なら平気なはずだ。
少しの時間が稼げれば、俺には充分だ。
正面の青と黄色の集団へ、一歩踏み出して炎氣を叩きつける。
それだけで、そいつらは終わりだ。
即座に振り向いて、葵の近くまで迫っていた奴を風で吹き飛ばす。
あとは中央に飛び込んで暴れればいい。
終わった後、葵は心配そうに駆け寄ってきた。
「龍麻くん、大丈夫?」
「もち。問題――」
ないと答えようとしたら、女性の金切り声が響いた。
「きゃーッ、ケンカよーッ!!」
「……あったな。逃げよう」
「ええ」
かなり本気で、葵の手をひいて走る。
それにしても可哀相に。葵まで、騒ぎから逃げる事に慣れてきた。
大通りに着くと、葵は少し上がっていた息を落ち着けてから、軽く頭を下げた。
「あ……龍麻くん。今日は送ってくれてありがとう。その角を曲がれば、もう待ち合わせの場所だから――また明日」
「ああ、気を付けてね」
歩き出す彼女の後ろ姿を眺めながら、周囲の気配を探る。
これならば、葵の方は、なんとかなるだろう。
連中の気配は、ここにほとんど残っているようだしな。
歩き出すと、気配が付いてくるのがわかった。が、今更だ。住所もバレてるんだから、別にかまわないだろう。もう襲ってこないようだし、放っておくことにした。
朝、教室に入ると、小蒔が駆け寄ってきた。
「おはよッー。ひーちゃんたちも、鬼に襲われたんだって?」
朝から元気やな。言葉の内容は、物騒だったけど。
「ああ。てことは、そっちも?」
「うん、ボクたちもなんだ。あんな場所でいきなりなんて」
「ノン気な奴だな」
ちょうどそこに入ってきた京一が、呆れたように言った。
あ、醍醐も一緒に来たのか。
「なにがノン気なんだよッ」
ムッとしたように、 小蒔が言い返す。
なんでも京一は、ひとりになった後にも、更に襲われたらしい。
不運な奴だな。
近所まで来て彷徨いてたのは、俺も同じだったが、襲われはしなかった。
「そんなッ、ボク、全然気付かなかった」
「無理ないさ。奴らは巧妙に気配を殺し、俺たちを取り囲んでいる」
醍醐がそう慰めていたが、あれって、巧妙か?
むしろ、こっちに気配を探れず殺せない人が、何人か居る事が問題な気がしてきた。
そのうち、簡単な気配の消し方講座とかやった方がいいのかもしれない。
「おはよう」
「あッ葵、おはよッ……どうしたの? 顔色が悪いよ」
小蒔の言葉に顔を上げると、確かに葵は青ざめていた。
体調が悪いらしいけど……そんな無理しなくても構わんのに。
「――それでは、今日はここまで。委員長はノートを――美里サン? どうしたの、顔色が悪いわ」
「いいえ、大丈夫です」
隣りを見ると、返答とは裏腹に、葵の顔色は朝より更に酷くなっていた。
平気だと言い張り立ち上がろうとした彼女に、マリア先生はきっぱりと告げた。
「あなたは、保健室に行きなさい」
それでも葵は、大丈夫ですと繰り返していた。
大丈夫な訳がない。
小蒔と同時に立ち上がって、半ば強制的に連れていく。
保健室は保健室で、先生が居なかった。
いいのかよ。ま、居たとしてもこの場合は、役に立たないと思うけどな。
ベットは空いていたので、とりあえず寝かせる。
あとは俺達にできることはないので、教室に戻ることにした。
「それじゃあ、葵、また昼休みに来るから」
「ノートは俺がちゃんと貸すから、ゆっくりと休むんだよ」
保健室を出ようとすると、白い顔色の葵が、上半身だけを起こした。
「ええ。ありがとうふたりとも」
……寝たままでいいのに。なんでこんなに真面目なんだろう。
「葵、大丈夫かな……」
保健室から少し離れてから、小蒔がポツリと呟いた。
時期も時期だし、心配なんだろう。
「精神的な疲れみたいだから、身体の方は平気だと思うけどね」
「そっか……あーもうッ、早く全部終わんないかな」
そう言って、小蒔は軽く壁を蹴った。こらこら。
そこに背後から声を掛けられた。
「どうしたお前たち」
だーかーらー気配を……もういいや。
それは犬神先生だった。
「どうかしたのか」
「はい、どうかしました」
素直に答えてみた。聞かれた事だけをシンプルに。
おお、不機嫌になった。
「……そうか」
「ちょっと、ひーちゃん! あのー、ボクたち……」
「……美里を連れてきたんだろう」
呆れてちゃんと答えようとした小蒔を遮って、先生はそう訊いてきた。
知っているなら、わざわざ訊かないように。
先生は、真剣な表情で忠告らしきものをして、去っていった。
自己犠牲、そして、葵から目を離すな――か。
なんか、やな思い出が蘇りそうな感じがする。
放課後になっても、葵は戻ってこなかった。
昼休みに見に行ったら、疲れきった表情で寝ていたからな。
「美里は戻ってこなかったな」
「うん……今日は、これからどうするの?」
みんなの視線が集まる。俺が決めるのかよ。
……封印を遅らすわけにもいかんし、葵をあのままにしておくのも危険だ。
「二手に別れよっか。封印と、葵の付き添いで桜ヶ丘とに――」
「待って、みんな。私もちゃんと見届けたいの」
葵が教室に入ってきて、必死な表情で結論を遮った。
「身体なら大丈夫。だいぶ良くなったから。だからお願い。龍麻くん」
確かに、いくらかましな顔色にはなっているけどなあ。
嫌な言い方をすれば、葵が居なくても封印に支障はないんだが…仕方ないか。
「わかった。ただし、具合が悪くなったらすぐに言うこと。あと、帰りに桜ヶ丘に行くこと。約束できる?」
「ええ、ありがとう」
それまで黙って聞いていた京一が、宣言するように言った。
「よしッ、それじゃ行くとするか、最後の不動へよ――」
鬼道衆の気配は、ずっとついてきていたが、とくに邪魔する気もないようだ。
宝珠と祠が共鳴し、それを安置する。
既に何度か行ったことなのに、今回は、やけに違和感がある。
なんか封印の光が、今までよりも激しいし、おまけに、声が聞こえる。
『目醒めよ、菩薩眼の娘――』
この声……天童!?
「…ぁおい! 葵!?」
小蒔の悲鳴で、我に返った。
今のは、天童から葵への呼びかけか?
く……俺まで引きずられたのか、頭が痛い。俺は菩薩眼の娘じゃないだろうが。
「葵ッ!! しっかりして!!」
どうやらそんな事を考えている場合ではないな。
ぐったりした葵を、小蒔が抱えていた。完全に意識を失ってるようだ。
「美里! おいッ!」
「ど、……どうしよう、やっぱり具合が悪かったんだ!」
パニックになっているのか、葵をガクガク揺すっている。それは気を失った人には危険すぎる。
「落ちついて。桜ヶ丘に運ぶよ」
というか、俺も頭が痛くて、ろくに判断できないので、緊急手段。
救急車を呼ぶ。
桜ヶ丘の名を告げると、凄まじいまでに飛ばしてくれた。
やはりあの先生は、有名なんだろうか。
玄関口で待っていた岩山先生は、葵の様子を見て、即座に結界を張ってくれた。
それでも、何度か天童が接触をしてきたらしく、葵はうなされていた。
涙がうっすらと浮かんだ事さえあった。
なんでも、精神に直に来られると、結界では防ぎにくいそうだ。
おまけに術者と対象者に、血の繋がりがあると、余計に悪いらしい。
あいつらの血の繋がりって……無きに等しいと思うんだが。それでも?
「私……どうしたの?」
数時間経ってから、葵は目を覚ました。
状態が理解できていない。――意識を急に断たれたってことだな。
それでも、意識不明のままとじゃ、安心感が違う。
ここなら安全だからと、皆帰ることになった。
また明日くるから――そう言って、皆が病室から出ていく。
心配だが、長居することさえ、葵の負担になる。
「あ……、龍麻くん…」
最後に病室を出ていこうとしたら、必死な声に呼びとめられた。
振り向くと、葵は散々逡巡したのち、一言だけ小さな声で言った。
「あの……、ありがとう」
その表情の翳りは気になったが、負担になる事もできない。
だから、気にしないで――とだけ告げて、帰った。
家に着いても、葵の沈んだ表情が気になっていた。
岩山先生も舞子もいるから、平気だろうとは思うけれど。
一旦気になると、色々連鎖的に心配になってきた。
葵のあれほどの塞ぎこみようといい、前に翡翠が言っていたことといい、
前世ってヤツか。調べてみるか、アレで。
「夢で、過去視や予知、それに遠見〜。……ひーちゃん、アカシックレコードって知ってる〜?」
「確か宇宙の全てが記されている記録だっけ? 過去も未来も――何もかもが」
「そう〜、大抵の占術士はそれのほんの端っこにアクセスして、望むものを、視ようとするわ〜
水晶珠や〜、星の運行〜、タロット〜、そして夢を媒体として〜。ひーちゃんは、多分無意識に〜、それを夢の形で視ているのよ〜」
ミサちゃんはそう言っていた。アカシックレコードか。
何年か前の、醍醐と凶津の事を、視られたんだ。
……数百年前の前世とやらも、大した違いはないだろう。
ご先祖サン
夢に見させてもらうぞ、俺の前世とやら。
見なかったら、墓を荒らすからな。
と、なんとなく気合を入れて、枕を叩いてから寝てみる。
これは、朝起きられるオマジナイだった気がするが。
一面の櫻の元で、緋色の髪を持つ青年が名乗った。
「てめェが、今の黄龍の器――緋勇 龍斗か。我が名は、九角 天戒。鬼道衆の頭目よ」
呑んでいた男が、ふと押し黙る。
「どうかしたのか? 九角」
それに気付いたもうひとりが、怪訝そうに訊ねた。
問われた方は、しばし悩んだ後に口を開いた。
「思ったのだが、姓で呼ぶのは止めぬか? 『緋勇』と『九角』は、戦わなければならない一族。だが、戦場外でまで、それに縛られるのは面倒だ」
「面白く、そして無意味なことを……。名で呼べば、その鬱陶しい宿星から、逃れられるわけでもあるまいに。まあ、お前がそう望むのなら、それで構わんが」
虚無的な瞳をした美しい女が、数人の男達に囲まれて歩いていた。
やや離れた場にいた男が、揶揄の表情を浮かべて、傍らの女に尋ねる。
「彼女が?」
「はい。菩薩眼の御方――美里 藍様です。一族の命の嘆願として、こちら側へと」
男は、表情を、わずかな揶揄から完全な侮蔑へと変えて、呆れたように呟く。
「くくく……純真だな。徳川が守るとでも信じているのか」
「緋勇様、お止め下さい。何処に”耳”があるか」
「すまぬな、涼浬」
「止める気はないのか?」
「愚問だな」
櫻の下、酒を呑み交わすふたりの男。
血のように紅い緋い満月が、彼等を照らしていた。
「藍を連れ去り、尚且つ女子供も皆殺しだ。それが、天下を治める者のやり口か?」
憎悪を搾り出すような青年の言葉に、もうひとりは苦々しげに答えた。
「ああ、それが覇王のやり口だ」
「ふん。我等は、天下を望んだ事など無い。なあ、龍斗よ……」
青年は、杯を持つ手に力を込め、乾いた声で続けた。
「鬼ヶ島の鬼は、静かに暮らしたかったと思わんか? 勝手に恐怖する者たちや、宝に目が眩んだ輩に遣わされた【正義の味方】などがやってこなければ……ただ静かにな」
剣士と拳士の互いの身体を貫く拳と剣。
血塗れの身体から、更に多くの血が流れだす。
「いやぁーー!! 龍斗!!」
藍色の着物を着た、美しい黒髪の女性が叫ぶ。
「緋勇様!!」
艶のある肩口までの黒髪を揺らし、忍び装束の女性が駆け寄る。
剣士は崩れ落ちる拳士とそれを支える忍びを見て、血を流しながらも不敵に笑った。
彼の血が止まっていく。それどころか、傷口が再生していく。
「ケリは次まで持ち越しか。普通の身体だったら、そうなるところだが、悪いな……俺にはこれがある」
言葉と共に、剣士は異形へと変生する。
彼が数多の者達に対して行った事。それが、彼自身の身に生ずる。
秀麗であった顔の面影も残さず、赤の巨大な鬼へと変じた彼は、忍びに醜悪な笑いを向ける。
「まずは貴様から喰らおうか、飛水よ? それとも、龍の躯が先か?」
「させぬ!」
臆さずに、鬼を睨み返しながら忍びは応じた。
彼女と拳士を守るように、水が陣を敷く。
「そんなものが効くかぁッ!!」
しかし鬼は、簡単にその結界を破り、腕を忍びに振り下ろす。
肉を切り裂く嫌な音が、辺りに響いた。
だが、鬼が切り裂いたものは、忍びではなかった。それは殺したはずの拳士。
そして拳士の拳は、鬼の心の臓を、その周辺もろとも吹き飛ばしていた。
「……ぬかっ……た……特異点……か」
「そう。残念だが……ここは致命傷には……ならん。
来世では、覚え……ておくのだな……天戒」
京梧、雄慶、小鈴――すまん。
絶対に藍と帰ると約束して、残る事を承諾させたのに。
俺は、総てを助けようとして、総てを傷付けた。
鬼道衆をも救おうとし、徳川側の人間をも危機に晒した。
全てが失敗した中で、それでも天戒だけでも救おうなどと
愚かな思いに固執しなければ、藍を遺して逝くこともなかった。
総てなど護りきれない。
次は、総てを護ろうなどという、傲慢な考えは絶対に持たぬ。
責任を持てぬほどの人間を抱え込まない。
そして、抱えたものは喪わない。
もう二度と……
目覚めた時、マジ吐くかと思った
うそんいやん。
俺、あんな死に方したの?
胸から腹まで裂けてたぞ、オイ。
その前も、心臓の近く、刀で貫かれてたし。
でも、アレが前に鳴瀧さんに聞いた特異点ってやつか。重要な器官の無い場所。
スペース的には、拳一個分も無いとかなんとか。
実戦で意図的にそこを貫かせるなんて……凄いよ俺、いや龍斗が。
つーか、まだそんな事、絶対にできねェ。
で、……最後の言葉は、龍斗の独白だったのか?
良い人だったんだな、昔は。
いや、だから今こうなったのかもな。
『おまえは残酷なまでに、順位付けが明確なんだろうな』
犬神先生にも、言われた。
前に、全部を護ろうとして失敗したから、駄目なもんは速攻諦めると……あんま救いになってねーな。
しかしまあ、えらく断片的だったな。ダイジェスト版かよ。
漫画だと、俺が中央に立ってて、2ページの見開きとかで、ちっこいコマに思わせぶりな台詞と絵が、たくさん描いてある感じだな。
で、次のページでは、頭を抑えながら絶叫するんだ。
ま、それはそれとして、やっと相関図が少しわかった。
納得できたことも、いくつかあるし。
姓で呼ぶのは嫌だって、言われてたんだな。
だから、今もあいつのことを、ごく自然に名前で呼んでいたのか。
不思議なもんだな。記憶なんか、全然なかったのに。
あと、翡翠は、その当時は、美人くノ一だったのか。今も細いもんな。
なんで男になったんだか。もったいない。
それにしても、葵は、全然変わってねェ。
『本心を偽り、己を殺す事が他人のためになると思っている。美里は――、見ていて危ういほどに、その傾向が強い』
犬神先生の言っていた通り、自己犠牲精神のカタマリっつーか……藍の存在が、抑止力になってたのに、出てきちゃ駄目じゃん。
……って、彼女はまたやりそうだよな。
俺たちの存在を、人質にとられたら。
というより、病院での最後の一言って、そういう事か?
ひょっとして、もうあいつの所に行く覚悟を決めてたんでは?
……朝イチで病院に行かないと、まずそうだな。
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