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―― 東京魔人学園剣風帖 第拾参話 ――

学校帰りに、目赤不動へ寄った。
京一が数学教師に捕まって、少々遅くなってしまった為、敷地内には人気がまったく感じられなかった。

尤も、人の気配以外は微かにするが。
鬼道衆連中に、見張られているようだ。

「あった、あった。これが祠だね」
「これが目赤不動の祠か」

こじんまりとした祠に、皆で近付く。
対応する色の宝珠を取り出し、安置した。

「よし――、封印するぞ」

あっさりと、四つ目の宝珠を封印が終了する。
鬼道衆……、なんで邪魔しには来ないんだろうな。不思議だ。


「明日は、江戸川区の目黄不動か」
「かーッ、江戸川まで行くのかよッ」

「まあ、そういうな。それより飯でも食っていくか」
「そうだね」
「あの……今日はマリィと一緒に家族で外食の約束があるの。ごめんね……」

みんなが食ってく方向で話がまとまりかけた所に、葵が申し訳なさそうに言った。
それじゃしょうがないよな。提案する。

「じゃあ、俺はそこまで送ってくよ」

微妙にだが、殺気も感じる。
ひとりになるのは、流石にまずいだろ。

「でも……いいの? 龍麻くん」

もちろん。でなきゃ、危険だ。


「じゃ、ボクたちも帰ろうかッ」
「ああそうだな。また明日な、美里、龍麻」

小蒔と醍醐がまともな挨拶をするなか、京一がいきなりヘッドロックをしてきた。
何事?

「じゃあな、ひーちゃん。送り狼になるんじゃねェぞッ。……美里を危険にさらすなよ」

耳元でそう囁かれた。
これ、額面通りの意味じゃないよな。

「ならんわい。そっちは頼んだ」
「ああ」

同じく小さく返すと、京一は真剣な表情で頷いた。
やっぱ殺気に気付いてるようだ。じゃあ、そっちはよろしく。


「龍麻くん、付き合わせちゃってごめんね」

京一たちとわかれてしばらくしたら、葵が下を向きながら言った。
妙に思い詰めた声だった。
彼女は、更に小さく続ける。

「私ってだめね。いつも、みんなに護られて。ごめんね……。私、龍麻くんに迷惑ばかりかけている」

謙虚さを通り越して、卑屈とも言えるほどの態度だった。
なにかあったんだろうか。

「なんのこと? 心当たりはないよ」

つい、少し冷たい言い方になってしまった。
だが、いつもいつも、卑下ばかりしていると……

……いつもって何のことだ?

「龍麻くん……、ありがとう。あなたはいつもそうやって、私を励ましてくれるのね」

彼女は言葉を切って、やっと笑った。
そして、少し躊躇ってから、ゆっくりと口を開く。

「龍麻くん。私、あなたの事――」


「緋勇龍麻と美里葵に相違ないな」

殺気が一段と強くなり、予想していた連中がわらわらと現われる。
たしかに人気のない路地に入ってしまったけどよ……何も、こんないい所で。貴様ら……。
つーか、今、雰囲気的に、告られる寸前だったんですが。……死ね。

「……相違ないよ」

もう少し、後にして欲しかった。


問題は、予想よりも数が多かったこと。二人相手に、こんな来るな。
さて、どうするか。前後を包囲されている。

「防御をかけ、少しの間だけ耐えて。すぐに助けるから、珠とかを使ってでも近付けないように」

現時点では攻撃手段を持たない葵と舞子には、天照とかの力を封じた珠を、常にいくつか持たせてある。少しの間なら平気なはずだ。

少しの時間が稼げれば、俺には充分だ。


正面の青と黄色の集団へ、一歩踏み出して炎氣を叩きつける。
それだけで、そいつらは終わりだ。

即座に振り向いて、葵の近くまで迫っていた奴を風で吹き飛ばす。
あとは中央に飛び込んで暴れればいい。


終わった後、葵は心配そうに駆け寄ってきた。

「龍麻くん、大丈夫?」
「もち。問題――」

ないと答えようとしたら、女性の金切り声が響いた。

「きゃーッ、ケンカよーッ!!」

「……あったな。逃げよう」
「ええ」

かなり本気で、葵の手をひいて走る。
それにしても可哀相に。葵まで、騒ぎから逃げる事に慣れてきた。

 



大通りに着くと、葵は少し上がっていた息を落ち着けてから、軽く頭を下げた。

「あ……龍麻くん。今日は送ってくれてありがとう。その角を曲がれば、もう待ち合わせの場所だから――また明日」
「ああ、気を付けてね」

歩き出す彼女の後ろ姿を眺めながら、周囲の気配を探る。

これならば、葵の方は、なんとかなるだろう。
連中の気配は、ここにほとんど残っているようだしな。

歩き出すと、気配が付いてくるのがわかった。が、今更だ。住所もバレてるんだから、別にかまわないだろう。もう襲ってこないようだし、放っておくことにした。


朝、教室に入ると、小蒔が駆け寄ってきた。

「おはよッー。ひーちゃんたちも、鬼に襲われたんだって?」

朝から元気やな。言葉の内容は、物騒だったけど。

「ああ。てことは、そっちも?」
「うん、ボクたちもなんだ。あんな場所でいきなりなんて」

「ノン気な奴だな」

ちょうどそこに入ってきた京一が、呆れたように言った。
あ、醍醐も一緒に来たのか。

「なにがノン気なんだよッ」

ムッとしたように、 小蒔が言い返す。

なんでも京一は、ひとりになった後にも、更に襲われたらしい。
不運な奴だな。
近所まで来て彷徨いてたのは、俺も同じだったが、襲われはしなかった。

「そんなッ、ボク、全然気付かなかった」
「無理ないさ。奴らは巧妙に気配を殺し、俺たちを取り囲んでいる」

醍醐がそう慰めていたが、あれって、巧妙か?
むしろ、こっちに気配を探れず殺せない人が、何人か居る事が問題な気がしてきた。
そのうち、簡単な気配の消し方講座とかやった方がいいのかもしれない。

「おはよう」
「あッ葵、おはよッ……どうしたの? 顔色が悪いよ」

小蒔の言葉に顔を上げると、確かに葵は青ざめていた。
体調が悪いらしいけど……そんな無理しなくても構わんのに。




「――それでは、今日はここまで。委員長はノートを――美里サン? どうしたの、顔色が悪いわ」
「いいえ、大丈夫です」

隣りを見ると、返答とは裏腹に、葵の顔色は朝より更に酷くなっていた。
平気だと言い張り立ち上がろうとした彼女に、マリア先生はきっぱりと告げた。

「あなたは、保健室に行きなさい」

それでも葵は、大丈夫ですと繰り返していた。
大丈夫な訳がない。
小蒔と同時に立ち上がって、半ば強制的に連れていく。



保健室は保健室で、先生が居なかった。
いいのかよ。ま、居たとしてもこの場合は、役に立たないと思うけどな。
ベットは空いていたので、とりあえず寝かせる。
あとは俺達にできることはないので、教室に戻ることにした。


「それじゃあ、葵、また昼休みに来るから」
「ノートは俺がちゃんと貸すから、ゆっくりと休むんだよ」

保健室を出ようとすると、白い顔色の葵が、上半身だけを起こした。

「ええ。ありがとうふたりとも」

……寝たままでいいのに。なんでこんなに真面目なんだろう。


「葵、大丈夫かな……」

保健室から少し離れてから、小蒔がポツリと呟いた。
時期も時期だし、心配なんだろう。

「精神的な疲れみたいだから、身体の方は平気だと思うけどね」
「そっか……あーもうッ、早く全部終わんないかな」

そう言って、小蒔は軽く壁を蹴った。こらこら。
そこに背後から声を掛けられた。

「どうしたお前たち」

だーかーらー気配を……もういいや。
それは犬神先生だった。


「どうかしたのか」
「はい、どうかしました」

素直に答えてみた。聞かれた事だけをシンプルに。
おお、不機嫌になった。

「……そうか」
「ちょっと、ひーちゃん! あのー、ボクたち……」
「……美里を連れてきたんだろう」

呆れてちゃんと答えようとした小蒔を遮って、先生はそう訊いてきた。
知っているなら、わざわざ訊かないように。


先生は、真剣な表情で忠告らしきものをして、去っていった。

自己犠牲、そして、葵から目を離すな――か。
なんか、やな思い出が蘇りそうな感じがする。


放課後になっても、葵は戻ってこなかった。
昼休みに見に行ったら、疲れきった表情で寝ていたからな。

「美里は戻ってこなかったな」
「うん……今日は、これからどうするの?」

みんなの視線が集まる。俺が決めるのかよ。
……封印を遅らすわけにもいかんし、葵をあのままにしておくのも危険だ。

「二手に別れよっか。封印と、葵の付き添いで桜ヶ丘とに――」
「待って、みんな。私もちゃんと見届けたいの」

葵が教室に入ってきて、必死な表情で結論を遮った。

「身体なら大丈夫。だいぶ良くなったから。だからお願い。龍麻くん」

確かに、いくらかましな顔色にはなっているけどなあ。
嫌な言い方をすれば、葵が居なくても封印に支障はないんだが…仕方ないか。

「わかった。ただし、具合が悪くなったらすぐに言うこと。あと、帰りに桜ヶ丘に行くこと。約束できる?」
「ええ、ありがとう」

それまで黙って聞いていた京一が、宣言するように言った。

「よしッ、それじゃ行くとするか、最後の不動へよ――」



鬼道衆の気配は、ずっとついてきていたが、とくに邪魔する気もないようだ。

宝珠と祠が共鳴し、それを安置する。
既に何度か行ったことなのに、今回は、やけに違和感がある。

なんか封印の光が、今までよりも激しいし、おまけに、声が聞こえる。

『目醒めよ、菩薩眼の娘――』

この声……天童!?




「…ぁおい! 葵!?」

小蒔の悲鳴で、我に返った。
今のは、天童から葵への呼びかけか?

く……俺まで引きずられたのか、頭が痛い。俺は菩薩眼の娘じゃないだろうが。

「葵ッ!! しっかりして!!」

どうやらそんな事を考えている場合ではないな。
ぐったりした葵を、小蒔が抱えていた。完全に意識を失ってるようだ。

「美里! おいッ!」
「ど、……どうしよう、やっぱり具合が悪かったんだ!」

パニックになっているのか、葵をガクガク揺すっている。それは気を失った人には危険すぎる。

「落ちついて。桜ヶ丘に運ぶよ」


というか、俺も頭が痛くて、ろくに判断できないので、緊急手段。
救急車を呼ぶ。
桜ヶ丘の名を告げると、凄まじいまでに飛ばしてくれた。
やはりあの先生は、有名なんだろうか。


玄関口で待っていた岩山先生は、葵の様子を見て、即座に結界を張ってくれた。
それでも、何度か天童が接触をしてきたらしく、葵はうなされていた。
涙がうっすらと浮かんだ事さえあった。

なんでも、精神に直に来られると、結界では防ぎにくいそうだ。
おまけに術者と対象者に、血の繋がりがあると、余計に悪いらしい。

あいつらの血の繋がりって……無きに等しいと思うんだが。それでも?


「私……どうしたの?」

数時間経ってから、葵は目を覚ました。
状態が理解できていない。――意識を急に断たれたってことだな。

それでも、意識不明のままとじゃ、安心感が違う。
ここなら安全だからと、皆帰ることになった。

また明日くるから――そう言って、皆が病室から出ていく。
心配だが、長居することさえ、葵の負担になる。


「あ……、龍麻くん…」

最後に病室を出ていこうとしたら、必死な声に呼びとめられた。
振り向くと、葵は散々逡巡したのち、一言だけ小さな声で言った。

「あの……、ありがとう」

その表情の翳りは気になったが、負担になる事もできない。
だから、気にしないで――とだけ告げて、帰った。



家に着いても、葵の沈んだ表情が気になっていた。
岩山先生も舞子もいるから、平気だろうとは思うけれど。

一旦気になると、色々連鎖的に心配になってきた。

葵のあれほどの塞ぎこみようといい、前に翡翠が言っていたことといい、
前世ってヤツか。調べてみるか、アレで。


「夢で、過去視や予知、それに遠見〜。……ひーちゃん、アカシックレコードって知ってる〜?」
「確か宇宙の全てが記されている記録だっけ? 過去も未来も――何もかもが」
「そう〜、大抵の占術士はそれのほんの端っこにアクセスして、望むものを、視ようとするわ〜
水晶珠や〜、星の運行〜、タロット〜、そして夢を媒体として〜。ひーちゃんは、多分無意識に〜、それを夢の形で視ているのよ〜」

ミサちゃんはそう言っていた。アカシックレコードか。
何年か前の、醍醐と凶津の事を、視られたんだ。
……数百年前の前世とやらも、大した違いはないだろう。


ご先祖サン
夢に見させてもらうぞ、俺の前世とやら。
見なかったら、墓を荒らすからな。

と、なんとなく気合を入れて、枕を叩いてから寝てみる。
これは、朝起きられるオマジナイだった気がするが。



一面の櫻の元で、緋色の髪を持つ青年が名乗った。

「てめェが、今の黄龍の器――緋勇 龍斗か。我が名は、九角 天戒。鬼道衆の頭目よ」


呑んでいた男が、ふと押し黙る。

「どうかしたのか? 九角」

それに気付いたもうひとりが、怪訝そうに訊ねた。
問われた方は、しばし悩んだ後に口を開いた。

「思ったのだが、姓で呼ぶのは止めぬか? 『緋勇』と『九角』は、戦わなければならない一族。だが、戦場外でまで、それに縛られるのは面倒だ」

「面白く、そして無意味なことを……。名で呼べば、その鬱陶しい宿星から、逃れられるわけでもあるまいに。まあ、お前がそう望むのなら、それで構わんが」


虚無的な瞳をした美しい女が、数人の男達に囲まれて歩いていた。
やや離れた場にいた男が、揶揄の表情を浮かべて、傍らの女に尋ねる。

「彼女が?」
「はい。菩薩眼の御方――美里 藍様です。一族の命の嘆願として、こちら側へと」

男は、表情を、わずかな揶揄から完全な侮蔑へと変えて、呆れたように呟く。

「くくく……純真だな。徳川が守るとでも信じているのか」
「緋勇様、お止め下さい。何処に”耳”があるか」
「すまぬな、涼浬」


「止める気はないのか?」
「愚問だな」

櫻の下、酒を呑み交わすふたりの男。
血のように紅い緋い満月が、彼等を照らしていた。

「藍を連れ去り、尚且つ女子供も皆殺しだ。それが、天下を治める者のやり口か?」

憎悪を搾り出すような青年の言葉に、もうひとりは苦々しげに答えた。

「ああ、それが覇王のやり口だ」
「ふん。我等は、天下を望んだ事など無い。なあ、龍斗よ……」

青年は、杯を持つ手に力を込め、乾いた声で続けた。

「鬼ヶ島の鬼は、静かに暮らしたかったと思わんか? 勝手に恐怖する者たちや、宝に目が眩んだ輩に遣わされた【正義の味方】などがやってこなければ……ただ静かにな」


剣士と拳士の互いの身体を貫く拳と剣。
血塗れの身体から、更に多くの血が流れだす。

「いやぁーー!! 龍斗!!」

藍色の着物を着た、美しい黒髪の女性が叫ぶ。

「緋勇様!!」

艶のある肩口までの黒髪を揺らし、忍び装束の女性が駆け寄る。

剣士は崩れ落ちる拳士とそれを支える忍びを見て、血を流しながらも不敵に笑った。
彼の血が止まっていく。それどころか、傷口が再生していく。

「ケリは次まで持ち越しか。普通の身体だったら、そうなるところだが、悪いな……俺にはこれがある」

言葉と共に、剣士は異形へと変生する。
彼が数多の者達に対して行った事。それが、彼自身の身に生ずる。

秀麗であった顔の面影も残さず、赤の巨大な鬼へと変じた彼は、忍びに醜悪な笑いを向ける。

「まずは貴様から喰らおうか、飛水よ? それとも、龍の躯が先か?」
「させぬ!」

臆さずに、鬼を睨み返しながら忍びは応じた。
彼女と拳士を守るように、水が陣を敷く。

「そんなものが効くかぁッ!!」

しかし鬼は、簡単にその結界を破り、腕を忍びに振り下ろす。

肉を切り裂く嫌な音が、辺りに響いた。

だが、鬼が切り裂いたものは、忍びではなかった。それは殺したはずの拳士。
そして拳士の拳は、鬼の心の臓を、その周辺もろとも吹き飛ばしていた。

「……ぬかっ……た……特異点……か」
「そう。残念だが……ここは致命傷には……ならん。
来世では、覚え……ておくのだな……天戒」


京梧、雄慶、小鈴――すまん。
絶対に藍と帰ると約束して、残る事を承諾させたのに。

俺は、総てを助けようとして、総てを傷付けた。
鬼道衆をも救おうとし、徳川側の人間をも危機に晒した。

全てが失敗した中で、それでも天戒だけでも救おうなどと
愚かな思いに固執しなければ、藍を遺して逝くこともなかった。

総てなど護りきれない。

次は、総てを護ろうなどという、傲慢な考えは絶対に持たぬ。

責任を持てぬほどの人間を抱え込まない。
そして、抱えたものは喪わない。
もう二度と……



目覚めた時、マジ吐くかと思った

うそんいやん。

俺、あんな死に方したの?
胸から腹まで裂けてたぞ、オイ。

その前も、心臓の近く、刀で貫かれてたし。
でも、アレが前に鳴瀧さんに聞いた特異点ってやつか。重要な器官の無い場所。
スペース的には、拳一個分も無いとかなんとか。

実戦で意図的にそこを貫かせるなんて……凄いよ俺、いや龍斗が。
つーか、まだそんな事、絶対にできねェ。

で、……最後の言葉は、龍斗の独白だったのか?
良い人だったんだな、昔は。

いや、だから今こうなったのかもな。

『おまえは残酷なまでに、順位付けが明確なんだろうな』

犬神先生にも、言われた。
前に、全部を護ろうとして失敗したから、駄目なもんは速攻諦めると……あんま救いになってねーな。

しかしまあ、えらく断片的だったな。ダイジェスト版かよ。
漫画だと、俺が中央に立ってて、2ページの見開きとかで、ちっこいコマに思わせぶりな台詞と絵が、たくさん描いてある感じだな。
で、次のページでは、頭を抑えながら絶叫するんだ。

ま、それはそれとして、やっと相関図が少しわかった。
納得できたことも、いくつかあるし。

姓で呼ぶのは嫌だって、言われてたんだな。
だから、今もあいつのことを、ごく自然に名前で呼んでいたのか。
不思議なもんだな。記憶なんか、全然なかったのに。

あと、翡翠は、その当時は、美人くノ一だったのか。今も細いもんな。
なんで男になったんだか。もったいない。

それにしても、葵は、全然変わってねェ。

『本心を偽り、己を殺す事が他人のためになると思っている。美里は――、見ていて危ういほどに、その傾向が強い』

犬神先生の言っていた通り、自己犠牲精神のカタマリっつーか……藍の存在が、抑止力になってたのに、出てきちゃ駄目じゃん。

……って、彼女はまたやりそうだよな。
俺たちの存在を、人質にとられたら。

というより、病院での最後の一言って、そういう事か?
ひょっとして、もうあいつの所に行く覚悟を決めてたんでは?

……朝イチで病院に行かないと、まずそうだな。

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