「ない!ピアスがないっ!」
朝っぱらからとんでもない事が起きてしまった。
変換装置であるピアスがどこにも見当たらないのだ。
背丈と顔の一部を変換するだけのものだが、にとっては
大切なものだったりする。
「寝る前にちゃんとテーブルに置いておいたのに・・・!」
もしかしたら、どこかへ落としてしまったのかもしれない。
は早々に着替え、部屋中、そして屋敷中を探しまわった。
リオンが訝しげに見ていたが、今はそれどころではない。
マリアンは一緒に探してくれたが。
「昨夜までずっと付けていらしたのに。」
「そうなんだよ・・・寝る前に外したのは覚えてるのに。」
「大方寝惚けて砕けたんじゃないのか。」
「リオン・・・私は夢遊病患者じゃないぞ・・・。」
「どうだかな。」
と言いつつ探してくれているのはどういうわけだろう。
どうせ、マリアンが言うから仕方なくだ!とか言うのだろうけども。
それからしばらく探していたが、結局ピアスは見つからなかった。
まぁ今は外見にこだわる理由はないので、これからの生活に
支障を来すわけでもないでもないけれど。
「ま、見つからないならそれでいいや。ごめんねマリアンさん。」
「いいえ。でも、見つかるといいですね。」
「そうだね・・・ありがと。」
「おい、僕には何の礼もないのか?」
「仕方なく探してくれたリオンクンアリガトウ。」
「・・・まぁお前にまともな礼を期待していたわけではないからな。」
なんて可愛くない16歳なんだ!
は笑っていたが、心の中では拳を握っていた。
今日の任務は最近頻繁に現れるという盗賊の退治だ。
リオンとは屋敷を出ると、情報を収集するため
盗賊が出たという商人の屋敷へ向かう。
だが既にその屋敷の高価な金品は盗まれており、もうここには盗賊は現れないと
判断したリオンは、また他の商人の屋敷へ足を運ぶことにした。
「、お前はここで待機していろ。」
「わかった。」
早く終わらせたい。
実は、近いうちにマリアンの誕生日がある。
何を贈ろうかと迷っていたところ、珍しくリオンが一緒に
街へ出ないかと提案してきたのだった。
彼が見えなくなった後、は何を贈ろうかと考えていた。
マリアンには日頃世話になっているので、何か心のこもった贈り物をしたい。
(ティーセットだとか・・・アクセサリー・・・とか・・・。)
彼女なら何を贈っても喜んでくれそうなのだけど。
どうせならとびきりの笑顔を見たいなと思う。
そしてふと、の頭にある考えが浮かんだ。
(・・・いい事思いついた。)
我ながらいい考えだと彼女は周りに気付かれないよう笑みを浮かべる。
リオンが帰ってきたら相談してみよう。
結局この日は盗賊は現れなかった。
何の手がかりもないかと思われたが、リオンが向かった屋敷に
予告状が送られてきたらしい。
今日から3週間後。
ちょうどマリアンの誕生日当日だった。
「うわっ、最悪!午前中に来てくれれば間に合うけど。」
「馬鹿なことを言ってるんじゃない。こればっかりは仕方ないだろう。」
「まぁそうだけど・・・ちゃんと祝ってあげたいんだけどな。」
「それは・・・そう、だが・・・。」
さすがにマリアンのこととなると、途端に素直な少年になる。
こういうところを他のメイドや兵士達が見たら何と言うだろう。
二人は話しながら屋敷に戻り、予告状のことをヒューゴに伝えた。
やはり思ったとおり、その日は朝から商人の屋敷の警護にあたれだそうだ。
どうやら当日に祝うことは出来そうにない。
「あ、マリアンさんだ。」
部屋に戻る途中、ちょうど廊下で掃除をしているマリアンを見つける。
だが周りに他のメイドがいるため、彼女はこちらに一礼するだけ。
「リオンリオン、ちょっと私の部屋に寄ってくれる?」
「何なんだ突然・・・。」
「マリアンさんのプレゼントについてだよ。いい考えが浮かんだんだ。」
のその言葉で、彼は仕方なく了承した。
シャルティエの笑い声が聞こえてきたが、すぐに静かになったところを
見るとリオンに怒られたのだろう。
「・・・で、いい考えというのは何だ?」
リオンの質問に、は懐からナイフと小さな丸太を取り出した。
「手作りの髪飾りってのはどう?3週間あればそれなりの物は出来るよ。」
はくるくるとナイフを回し返事を待つ。
思ってもみなかった意見にリオンは戸惑った。
そんな事を今までしたこともないし、上手く完成させられる自信もあまりない。
だが、いい考えだとは思う。
マリアンに派手なアクセサリーは似合わないと思うし
何より手作りのものであれば、彼女はきっと喜んでくれるだろう。
は本棚から取った本を開き、リオンに見せてみた。
「これは・・・凄いな。全部手作りなのか?」
本の中には色々な模様に彫られた髪飾りやブレスレット等の絵が並んでいる。
宝石も埋めこまれた高価なものから、木だけで作られた素朴なものまで。
「えーっと、初心者用のページはっと・・・。」
「駄目だ。これがいい。」
「・・・へ?」
リオンはある作品を指差し、そこから動かない。
絵の隣に書かれた説明文を読んでみると、とてつもなく難しいことがわかる。
「ちょ、ちょっと待てリオン。確かに綺麗な彫りだけどさすがにこれは・・・。」
「いいや!この模様が一番似合う!」
「そ、そうですか。」
見せるんじゃなかった・・・と今更後悔しても遅い。
リオンの気迫にすっかり負けてしまい、明日にでも材料を
買いにいくことになってしまった。
(ホンットにマリアンのこととなると目の色が違うよなぁ・・・。)
一生懸命な少年に、は思わず苦笑した。
必要な材料をそろえ、いよいよ作業開始。
リオンはいつもの朝稽古を終えると、一目散に部屋へ戻った。
何か話しかけようとしても、その暇もない。
わからないことがあれば聞いてくれと言っておいたのだけど。
あの調子ではどうだろう。
それから何日か過ぎたが、リオンは必要最低限の行動以外は
部屋から出てこようとはしなかった。
ここまで来ると、さすがにマリアンが心配そうな顔で
リオンの部屋の前に立っている。
「あの子・・・一体どうしたのかしら・・・。」
「どうかしたの?」
「エ・・・、リオン様が部屋から出てこないんです。」
「・・・書類とかまとめてるんじゃないの。」
マリアンのプレゼントを作っているとは言えないので
無難な答えを出しておいた。
「でも、深夜に通りかかっても部屋の灯りがついてるんです。」
「え。」
まさか一睡もしていないんじゃ・・・とマリアンは中に入ろうかどうか迷っている。
だが鍵がかかっているため、そう簡単には入れない。
「・・・わかった。後で私が何とかしてみるよ。」
「さん・・・。」
「大丈夫大丈夫。心配することないって。」
内心、あの馬鹿!と叫びながら、マリアンに笑いかける。
彼女にはそんな顔似合わない。
マリアンを安心させると、は屋敷の裏に回り
リオンの部屋の窓を探す。
扉から入れないのなら、窓から入るまでだ。
ひょい、と一つ一つ窓を覗いていくと、内装が一際豪華な部屋を見つける。
「・・・いた。」
そう呟くと、彼女はゆっくりと窓を開け部屋に入った。
どうやら当のリオンは居眠りをしているらしい。
片手に彫刻刀を持ったままだ。
『!も〜坊ちゃんを何とかしてよ!』
「シャルティエ・・・その様子じゃやっぱり・・・。」
『何かに取りつかれたように作業してるよ。ほとんど寝てないんだ。』
「ああもう・・・。」
リオンの手から彫刻刀を取り、作りかけの髪飾りを見てみる。
途中で苛ついたりしたのだろうか、ところどころが不自然に欠けていた。
はぁ、と溜息をつくとはリオンの身体をベッドに運ぶ。
いくら華奢な身体とはいえ、さすがに男の身体は少し重い。
『僕は何度も止めたんだよ。でもどうしても聞いてくれなくて・・・。』
「全く・・・目にクマまで作っちゃって・・・。」
手や服についた木屑を取ってやり優しく髪を撫でても
リオンは全く気付かない。
「身体を壊したら元も子もないだろうに・・・無理するんじゃないよもう・・・。」
改めて部屋の中を見回すと、床や机にもたくさんの木屑が散らばっていた。
再び深い溜息をつく。
「掃除しとこう・・・。」
が掃除をしていても、目を覚ます気配は一向にない。
余程疲れているのだろう。
軽い掃除を済ませると、は髪飾りを手に取った。
怒るかな。
怒るだろうな。
でもこれじゃあ誕生日には間に合わない。
「・・・内緒だからねシャルティエ。」
『え?何を・・・?』
「手直し。」
は気付かれない程度に手早く修正を加えていく。
リオンが目を覚ますのが少し恐いが、このままでは完成が危うい。
『うわ、すごいね。作業が早い。』
「当たり前だよ。便利屋する前はこれで食べようと思ってたぐらいなんだから。」
『へー・・・。』
「全くもう・・・ちょっとは頼ってくれてもいいのに。」
そんなに自分は頼りなく見えるのだろうか。
いや、そうではない。
変なプライドというのがあるのだろうが、何より彼は
誰かを信じるということを知らないのかもしれない。
『坊ちゃんが心配?』
「なに突然。」
『いや、聞いただけなんだけど・・・。』
「あ、そう・・・。そりゃ心配さ。友人だし。」
『友人?坊ちゃんがそんなこと言ったの?』
「いや言ってないけど・・・なんだ、お互い友人と言わなきゃ友人じゃないって?」
『そういうわけじゃないけど。』
どうも歯切れが悪い返事だ。
「まぁ確かにリオンはそう思ってないかもしれないけど・・・。」
『・・・・・。』
「誰にどう言われようと私は大事な友人だと思っているんだけどね。」
『・・・・・。』
傲慢で冷徹で偉そうで捻くれものだけど。
その奥には強さと優しさがあると知っている。
時々、腹の立つことはあるけれど。
全部をひっくるめて、それがリオン・マグナスという人間だから。
「リオンには黙っててねシャルティエ。」
『・・・自信はないけどわかったよ。』
「ありがと。・・・よし、こんなもんかな・・・。」
彫刻刀を置いて、どこか変なところはないか確認する。
リオンの目が覚めていないのも確認すると、音を立てないように
は窓を開けた。
「くれぐれも私が来たのは内密に!」
『はいはい。』
「じゃ。」
窓から外へ出ると、少し暗くなっていた。
リオンが手直ししたことに気付かなければいいのだけど。
彼は勘が鋭い方なものだからは内心とても心配だ。
「言わないだろうなシャルティエ・・・。」
が部屋から出ていった後、リオンは静かに目を開ける。
「シャル。」
『あ、坊ちゃん。目が覚めたんですか。』
「・・・あいつは馬鹿だな。」
天井を見ながら、リオンはどこか悲しそうに呟いた。
BACK TOP NEXT
――――――――――――――――――――
ゲーム通りに進んでもつまらんかなーと
思って色んなものを足してみたのですが
どうなんでしょうかね・・・。