ストレイライズ神殿へ向かう途中、森へ入ることとなった。
やはりお約束というか、ここにもモンスターがわらわらといるようだ。
「ああもうキリがないわね!」
ルーティが苛ついた様子で、モンスターが持っていたと思われるレンズを拾う。
どうも彼女はお金に目がないらしく、事あるごとにレンズを探しまくっていた。
その度にリオンと衝突してしまうので、気の休まる暇もない。
「なあスタン。ルーティっていつもああなの?」
「そうみたいだ。けどオレも最近会ったばっかりだからよく知らないけど。」
「え、そうなんだ。」
スタンの話を聞いていると、どうやら彼は乗せられやすい性格のようだ。
この間の件も全く知らなかったらしい。
「悪い人間ではないぞ。それは私が保証する。」
後ろからマリーが一応のフォローを入れる。
勿論、もルーティが悪い人間だとは思っていない。
ただ何故そこまで金に執着するのかが気になるだけ。
「フン、ただ浅ましいだけだろう。」
「うるっさいわねこのガキ!」
「騒ぐなこのヒス女!」
「なんですって!」
「ああもう止めなよ二人とも・・・。」
二人の喧嘩を止めるのは、スタンとの仕事だったりする。
このまま放っておけば電撃が待っているし、何よりうるさい。
「・・・フン。」
ダリルシェイドを出発した辺りから、どうもリオンが苛々している。
確かに苛つく理由はわかるが、普段の彼らしくない。
「なに苛ついてるんだ。」
先を歩いているリオンの隣まで来ると、は彼の顔を覗きこんでみる。
「苛つきもするだろう。あんな奴らのお守など。」
「・・・そう?私にはもっと他の理由があるように見えるけれど。」
「どういう意味だ。」
「そこまでは知らないけどさ。・・・あんまり追いつめてやるなよ。」
「奴らは罪人だぞ。」
「ああ違う違う。スタン達を追いつめるなって言ってるんじゃなくて
・・・自分を追いつめるなって言ってんの。」
「な、に・・・。」
「今の君はそんな顔をしている。」
リオンがずっと思いつめたような顔をしている理由はわからない。
打ち明けろとも言えない。
こんな時、どうすればいいのかわからないが
少しでも彼の負担を軽くしてやりたいと思う。
だが全てを拒絶するかのように、リオンは顔を背けている。
はしばらく待ってはみたのだが、やがて諦めたように肩をすくめた。
「・・・僕は・・・。」
誰にも聞こえないほどの小さな声。
「リオン?」
「・・・いや、何でもない・・・。」
「・・・そうか。」
はこれ以上は無駄なことだと思ったのだろう。
それっきり二人は黙った。
ストレイライズ神殿に到着すると、彼らは足を止める。
たくさんの神官がここにいるはずなのに全くと言っていいほど人の気配がしない。
「・・・血の匂いだ・・・。」
「ち、血ぃっ!?」
スタンの素っ頓狂な声が辺りに響き渡る。
この静けさの為、余計に大きな声に聞こえた。
「とにかく中に入るぞ。」
「あ、ああ・・・。」
血の匂いにこの静けさ。
誰もが何か嫌な予感がしていた。
この様子ではモンスターに襲われたのか、それとも盗賊等に襲われたのか。
奥へと進んでいくと、血の匂いはより一層強くなっていく。
「あっ!人が倒れてる・・・!」
スタンは倒れている人間をを見つけるや否や凄いスピードで走っていってしまった。
ルーティとマリーもそれに続く。
「・・・行きますか。」
「全く・・・。」
リオンは小さく舌打ちしてスタン達の後を追う。
辺りを見回してみると、そこら中に血の跡があった。
そして一際大きな血だまりの上に、もう動かなくなった人間のなれの果て。
「一体・・・誰がこんなことを・・・!」
ギュッと拳を握り締め、スタンはその場に立ち尽くした。
・・・初めてだったか。
スタンはだいぶ堪えているようで、は少し心配そうな表情で彼を見遣る。
「・・・スタン。とにかく人を探そう?」
「あ、ああ・・・ごめん。」
それでもその場を動こうとしないスタンの肩を押して彼らは神殿に入る。
だが、中に入っても誰も見当たらない。
は何か聞こえないかと耳を澄ます。
「静かだ・・・。」
「な、なんか不気味ねぇ・・・。」
「何をぐずぐずしている。さっさと人を探すぞ。」
「ああもうわかってるわよ。いちいちウルサイわね。」
「頭の悪いお前にはうるさく言わないと理解できないようだからな。」
「ホンットにムカつくクソガキね!もうちょっと可愛く出来ないの!?」
もう放っとこ。
面白そうに眺めているマリー達を引き摺って、は中央にある階段を上る。
ちなみに後ろはまだ喧嘩している。
「とりあえず手分けして探してみよう。えーっとスタンは右の通路を
「そこに誰かいるのですか!?」
の声は途中で誰かに遮られた。
「ここだ。この扉の奥から聞こえた。」
「ありがとマリー。・・・リオン!生存者がいる!」
「わかった、今行く。」
彼の声と同時にルーティの悲鳴が聞こえてきた。
・・・また電撃を流されたのだろう。
「鍵がかかっているな。」
「中の人、扉から少し離れて。」
「おい、何する気・・・。」
「いいから黙って。」
刀に手をかけ、静かに目を閉じる。
スタンは首を傾げじっと眺めていると、一陣の風が吹くと同時に
目の前にある扉が綺麗に裂けて崩れていった。
「アンタ凄いわね・・・。」
「あ、ルーティ。なんかフラフラしてるけど大丈夫・・・?」
「行くぞ。」
ルーティに歩み寄ろうとしたを引っ張って、リオンは
扉の奥へと進んでいく。
ここは知識の塔と呼ばれるところて、部屋の中にはたくさんの本が並んでいた。
「どうやらほんの少数はここに隠れていたようだね。」
辺りを見まわしてみると、先ほどの男性が隅で震えているのを発見する。
あまりにも乱暴な扉の開け方だったので、襲われるとでも思ったのだろう。
「僕はセインガルド王からの命令でここに様子を見に来たリオン・マグナスだ。」
リオンの言葉に、男性はふっと顔を上げる。
「あ、貴方があの・・・。・・・私は司教のアイルツと申します。」
「一体何があった?」
「大司祭様が・・・大司祭グレバムが突然私達に襲いかかってきたのです。
私は数人の神官を連れてここへ逃げ込んで・・・。」
「大司教のマートンはどうした?」
「・・・マートン様は・・・、グレバムの手にかかり・・・!」
命を落とされました、とか細い声で告げた。
「・・・リオン、なんか嫌な予感がするんだけど。」
「お前もか・・・。おい、神の眼はどこにある?」
大司祭であるグレバムがこんなことをする理由を考えれば、ただ一つしか思い浮かばない。
『神の眼だと!?』
「ディムロス?」
「とにかく、神の眼がある場所に案内しろ。これはセインガルド王の命令だ。」
「は、はい・・・。」
さっと血の気が引いた顔で、アイルツはスタンに肩を貸され先を歩いていく。
この状態で案内させるのは酷なことだとは思ったが、今はそんなことを
気遣ってやれる状況ではない。
「なぁ、神の眼って何?」
「神の眼っていうのは、直径6メートルあるっていう巨大なレンズのこと。
大きいだけあってその力は世界を破滅させることが出来るっていう話だよ。」
「そんな大きいレンズ・・・一体いくらになるのかしら・・・。」
『ルーティ・・・あなたって人は・・・!』
「じょ、冗談よアトワイト。そんなに怒らなくてもいいじゃない。」
『怒りたくもなるわ。神の眼を一体なんだと・・・!』
「はいはい電撃食らわないうちにお終い。」
リオンの手にリモコンが握られているのを見て、ルーティは渋々黙った。
しばらく進んでいくと、大聖堂に出る。
アイルツは祭壇の前に立ち、何やら祈りの言葉をささげ何かのボタンを押すと
そこには隠し通路があった。
この奥に神の眼があるといいのだが。
リオンは未だに嫌な予感を拭い去ることが出来なかった。
そして、その予感は見事的中することとなる。
「そんな!神の眼が・・・!」
アイルツはその場に立ち尽くす。
部屋にあるのは、大きな穴とそして女性の石像だけ。
「女の子の石像・・・?」
「フィ、フィリア!」
「・・・パナシーアボトルを。」
「え?何に使うんだよリオン・・・。」
「いいから出せ。」
スタンからパナシーアボトルを引っ手繰ると、リオンはそれを石像に振りかけた。
すると石が溶けていき、段々と人の形になっていく。
「・・っ!・・・・・・・・・・あ・・・、・・・?」
女性はと辺りを見まわし、どうも落ちつかない。
そしてふと後ろを振り返ると悲鳴を上げた。
「たっ、大変ですわ!」
おろおろとした様子で、頭が混乱している。
「フィリア、落ちつきなさい!
「し、司教様・・・。」
アイルツの顔を見て、フィリアは泣きそうな顔になっていた。
説明してください、と彼は諭すように静かに言う。
「たっ、大変なんです、でも、大司祭様に限ってそんな・・・。」
「落ちつきなさいってば!何言ってんのかサッパリわかんないわよ!」
痺れをきらしたようにルーティが前に歩み出た。
だがそれはルーティだけでなく、リオンもフィリアの様子に苛々しているようだ。
「は、はい。私は大司祭様の下で色々な研究をしていたのですけれど・・・。
ああ、まさかこんな事になるなんて・・・。」
なかなか本題に入らない様子に、とうとうリオンがキレた。
「いい加減にしろ!お前の長話に付き合っている暇はないんだ!
いいか、要点だけを聞く。そのグレバムとかいうのが何をしでかしたんだ!」
そのキレっぷりが恐かったのか、フィリアは簡潔に言った。
「この部屋に安置されていた神の眼を持ち出したのです!」
リオンだけでなく、その場にいた全員が言葉を失う。
彼らの悪い予感は見事に的中してしまったようだ。
『神の眼を持ち去っただと!』
『そんな・・・!』
「どうしたんだよ急に?」
スタンはディムロス達がここまで慌てる理由がわからなかった。
神の眼のことは先ほど聞いたのだが、どうも信じられる話ではないからだ。
そんなレンズ一つで本当に世界が破滅するのかと。
『かつてこの世界はその神の眼の力によって滅亡の危機に直面したのだ。
この辺境の神殿の地下に封印されていたものを・・・よもや、奪われるとは・・・。』
「・・・どうやら、これでお前達が自由になれるのは随分と先になりそうだな。」
リオンはそう言うと、ダリルシェイドに戻る、と残し先に神殿を出ていった。
BACK TOP NEXT