「私は大司祭様を止められなかったことに責任を感じているんです。

       どうか一緒に行かせてください・・・お願いします。」








      一行はフィリアを加え、ダリルシェイドへと戻ってきた。

      リオンは敵のスパイを連れて歩く趣味はないと言っていたのだが

      グレバムの顔を知っているのはフィリアだけだという事もあり仕方なく受け入れた。



      セインガルド王への報告のため、リオン達は謁見の間は急いだ。

      本当は謁見の間という場所は苦手なだが、すぐ終わるから我慢しろ、と

      先に釘を刺されてしまったので、逃げることも出来ない。


      リオンは慣れた様子で、セインガルド王へストレイライズ神殿で

      のことを報告する。


      「報告致します。神の眼が大司祭グレバムに奪われました。」

      「奪われただと!?」


      謁見の間の空気が一気にざわめいた。

      周りにいた兵士や七将軍からどよめきの声が聞こえてくる。


      「詳しいことはこの女からお聞きください。」


      リオンはフィリアに前に出るよう目配せをする。


      「お初にお目にかかります。私はストレイライズで陰伝の司祭を務めております

       フィリア・フィリスと申します。」

      「うむ。一体何があった?」

      「神の眼は神殿の大司祭であるグレバム・バーンハルトが奪い去りました。

       その事件で大司教のマートン様も彼の手にかかり・・・。」


      「・・・何ということだ・・・。」


      信じられないという顔つきで、セインガルド王は額に手をやる。


      「一刻も早く神の眼を見つけださねばならぬ。頼んだぞリオン・マグナス。」

      「は・・・かしこまりました。」



      謁見の間を出て、次にスタン達はヒューゴにも報告をするため屋敷へ向かう。










      「リオン、私達は手がかりを探すから総帥への報告よろしく。」

      「分かった。」


      そしてコッソリとはリオンに耳打ちする。


      「・・・マリアンにも挨拶したいだろう。」

      「なっ!余計な気を遣うんじゃない!」

      「何コソコソしてるのよ二人とも。」

      「内緒話です。」

      「あやしい・・・クソガキは顔真っ赤だし。」

      「ヒス女は黙ってろ!」


      「うるさーい!リオンは総帥へ報告!私達は手がかりを探す!双方異存は!?」


      ぐいっとリオンとルーティを遠ざけて、少しキレたが叫んだ。

      どうしてこの二人はいつもこうなのか。


      「・・・ない。」

      「ありませーん。」


      よし、とが一言言うと、リオンはしかめっ面をしながら

      屋敷の方へと歩いていった。


      「よし、じゃあ手分けして・・・。」

      「待ってくださいさん。私思うんですけれど・・・あんな大きな物を

       運ぶのならそれ陸路よりも海路を使った方が運びやすいはずですわ。」

      「フィリア冴えてるぅ〜!そうね、6メートルもあれば陸路で運ぶには大きすぎるし。

       何よりも目立つから誰かが目撃しているかもしれないわ。」

      「となれば・・・船員に聞いてみよう。」


      港にいる水夫から話を聞いたところ、数日前に何か巨大な

      石像を確かに搬入したそうだ。

      それも少しでもどこかにかすったり、荷物を落としそうになったりしただけで

      即刻クビという徹底ぶりだったらしい。


      行き先は熱帯のカルバレイス。


      途中で合流したリオンによると、カルバレイスにはバルックという

      オベロン社の管理者がいるという。

      早速船を出してもらうよう船長に頼んでみたのだが、最近

      怪物が出るという話があるらしく、首を縦に振ってくれない。


      だがそのことをセインガルド王へ報告すると、船長は渋々ながら

      船を出してくれることとなった。









      「なーんか嫌な雲行きになってきわね・・・。」


      しばらく外を眺めていたルーティがそう呟いた。

      窓から覗いてみると、確かに空が暗くなってきている。


      「シケるのかな?それとも・・・水夫達が言ってた怪物とか・・・。」


      ちょっと不安そうなスタン。


      「馬鹿ねぇ。そんなもの出るわけないじゃない。アンタって結構臆病ね。」

      「もし出てきたとしても、僕らで倒せばいいだけの話だ。」


      何故こういう場合は喧嘩しないのだろう。

      は不思議に思った。


      「いや、もしかしたらホントに出たりす










      「ババッ、バケモンだー!」








      「・・・・・。」

      「・・・・・。」

      「出た・・・。」









      スタン達は大急ぎで甲板へと出る。


      甲板へ出ると、既に水夫達はパニックを起こしていた。

      人をかきわけ何とか船首に辿りつくと、大きな竜が海面から顔を出している。


      『なぜ海竜がこんなところに!』

      「俺に聞くなって!」

      『人が戦ってどうにかなる相手ではないわ。』

      「んなこと言ったって・・・!じゃあどうしろって言うのよ!」


      他から見れば、一体誰と会話しているのかわからない。


      スタン達が焦っている中、何故かフィリア一人だけは静かだった。

      彼女は何を思ったかゆっくりと海竜へ近づいていく。


      「・・・私を呼んでいる声がする・・・きっと大丈夫ですわ。」

      「フィリア?」

      「何言ってんのよ!早くこっちに戻ってきなさい!」


      フィリアを連れ戻そうと、ルーティは腕を掴もうとするが

      それをマリーが止める。


      「大丈夫だ。一緒に行くぞ。」

      「行くってマリー・・・!?」


      ルーティの制止も聞かず、フィリアとマリーは海竜に乗る。

      そして続いてスタンも後を追った。


      「・・・どうする?」

      『行くしかないみたいだけど・・・どうします坊ちゃん?』


      リオンはしばらく考えて、船長に告げる。



      「1時間で戻らなければ先に行け。いいな。」





      とんだ疫病神だ、と呟きながらリオン達も海竜に乗った。



















      「うわ・・・きれい・・・。」

      「驚きだわ。こんな海の中に沈んでいくなんて・・・。」


      ゆっくりと海底へと進んでいく光景は、とても綺麗だ。

      だがその景色を楽しんでいないのが約一名。


      「ほらほら見てよリオン!青色がきれいだ!」

      「はしゃぐな馬鹿!全く・・・。」


      こんなきれいな景色を見たのは生まれて初めてなので

      は先ほどからはしゃぎっぱなしだ。


      しばらく沈んでいくと、窓の外には何か建物らしきものが見えてくる。


      ずずん、と海竜が少し揺れ海底都市への入り口が開かれた。

      恐る恐る外へ出てみるが、どうやら空気はあるようでホッとする。


      「フィリア、どこから声が聞こえるんだ?」

      「ええ、この都市の奥・・・上の方から聞こえてきます。」

      「よし、行ってみよう。」


      はしゃぎっぱなしのはずんずんと奥へ進んでいく。


      「うわー・・・海底に沈んでいる都市・・・すごいな!」






      「ね、ねぇちょっと。ったらどうしちゃったの?」


      ルーティがリオンにそっと聞いてみるが、リオンもいつもと違う

      の様子に少し驚いているようだ。


      「目がキラキラしているぞ。」

      「こういうのって何だか神秘的で・・・マリーもそう思わない?」

      「ああ、私もそう思うぞ。」


      何やら意気投合している。


      スタン達は呆気にとられながらも前に進んでいった。







      都市の中枢へ到着すると、フィリアが足を止める。

      そして、声が聞こえる方向へ近づいていくと彼女は1本の件を見つけた。


      『よく来たの、フィリア・フィリス。』


      フィリアは声の主を探してみたが、やがて何かに気付き

      今目の前にある剣を見る。


      『その声・・・!』

      『クレメンテ老じゃん。』

      『本当ですか?』


      『なんじゃおまえらか・・・ムードがぶち壊しじゃの・・・やれやれ。』


      フィリアを呼んでいたのはソーディアン・クレメンテだったのだ。

      ラヴィル・クレメンテ。

      天地戦争初期の英雄で、元地上軍最高幹部の一人である。


      『クレメンテ、神の眼が奪われた。』

      『見当はついておる。じゃからわしも目覚めたのじゃ。』


      コアクリスタルがより一層強く光り、クレメンテは続ける。


      『フィリア、お前がわしの使い手じゃよ。』

      「そ、そんな力・・・私には・・・。」


      フィリアは目を伏せた。

      自分にそんな力があるのだろうかと。

      もしあったとしても、ソーディアンを使いこなす自信はないのだ。


      「私は・・・。」

      『大丈夫じゃよ。わしの声が聞こえるじゃろう?』

      「・・・はい。」

      『それで十分じゃ。ソーディアンマスターというのはそれだけで十分なんじゃよ。』


      「・・・はい・・・。」


      ぎゅっとクレメンテを握りしめる。



      『やっぱりゴツイ男よりも若くて美人な女の子はいいのう。』



      天地戦争初期の英雄は実はただのスケベジジイだったとは誰も知らないだろう。



      『そこの黒髪の嬢ちゃんや。今何を考えたんじゃ?』

      「スケベジジイ。」

      「ぶっ!」

      「は、はっきり言っちゃだめだよルーティ・・・!」


      スタンとは我慢しきれないのか、肩が震え口元がひきつっている。

      くすくすとフィリアは笑い、そしてクレメンテを手に取った。


      神殿から出ることのなかった自分が、こんな大きな剣を持つとは思っていなかった。


      「クレメンテ、私はあなたを受け入れます。」

      『学ぶことは多いであろうが、よろしく頼むぞフィリアや。』

      「はい。」






      もうこれ以上、皆さんの足手まといになるわけにはいきません。







      フィリアはそう固く決意した。




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