「あ、暑い・・・・!」





      スタン達は倒れこむようにカルバレイスの責任者であるバルックの屋敷へ入った。



      天地戦争で敗者となった天上人の流刑地、カルバレイス。


      長い年月の間、地上人に虐げられてきたカルバレイスの人々は

      他国からやってきた人間に対して、異常なまでに冷たい。


      「なんか・・・あんまり歓迎されてないみたいだな。」

      「そりゃそうよ。カルバレイスの人達にとって地上人ってのは

       いまだに憎い敵なんだから。」

      「・・・そうなんだ・・・。」

      「アンタってホンットに田舎者ね!歴史ぐらい覚えときなさいよ。」

      「いや、暑くって頭が・・・。」




      「その空っぽな頭は元々だろうが。」




      お約束というか、冷めた言葉が前から飛んできた。

      この暑さのせいかスタンは言い返す気力も残っていないようだ。




      屋敷の階段を下りて、地下にあるバルックの書斎へ。

      下りる途中、スタンはバルックがどういう人間なのか聞いてみることにした。

      が、無駄な話はしたくないとリオンは何も語ろうとはしない。

      仕方なくルーティが、バルック基金というものを説明しようにも

      スタンに理解できるはずもない。


      「しょーがないわね。田舎者なんだから。」

      「・・・フォローになってないような気がする・・・。」


      「スタンさん、気になさらないでください。神は田舎者にも等しく慈悲を

       お与えくださいますから。」




      「・・・フィリア・・・頼むから追い討ちをかけないでくれ・・・。」




      隣で聞いていたは思わず吹き出した。














      部屋に入ると、バルックが彼らを迎え入れる。


      「リオンか。よく来てくれたな。」


      バルックはしげしげと周りを見て笑った。

      まさかリオンがこんなに人を連れてくるとは思っていなかったからだ。

      そして、ある場所でふと目を止める。


      「初めまして、・です。」

      「ああ、そういえばお前は初対面だったな・・・。」

      「君がか。噂は兼ねがね聞いている。君もよく来てくれた。そして・・・。」


      「こいつらのことは気にするな。」


      リオンの言葉に、ついスタンが反応するが、それもまた

      冷たく返されてしまう。

      その様子を見て、バルックはまた大声で笑い出した。


      「いや失礼。君の名前は?」

      「スタン・エルロンです。よ、よろしくお願いします。」

      「ほう、なかなかいい眼をしているな。・・・リオンが認める理由もわかる。」


      「おい、何を言い出すんだ。」


      「言い方がきついのは君を認めているということだ。そうだろうリオン?」

      「冗談はそれぐらいにしてくれ。」


      本人は認めたらんがな、とバルックはまた笑った。















      そして、本題に入る。




      何か変わったことがあるとすれば、フィッツガルドのイレーヌから

      連絡があった程度だという。

      近頃、レンズ運搬船が謎の武装集団に襲われているらしいという話。


      だが、神の眼に関しての情報は何も得ることが出来なかった。

      バルック本人も、神の眼が奪われたという話は知らなかったようだ。



      そして、神の眼とは関係ない話だがマリーの記憶に関して少しだけ

      わかったような気がする。

      バルックの書斎に置いてあった、ファンダリアの郷土料理。

      マリーはそれを作ったことがあるようなのだ。

      だが、それ以上は何も思い出せないらしい。


      早く記憶が戻るといいね、とルーティは言った。










      30分後にまた港で、ということで彼らは手分けして神の眼の手がかりを探す。


      「ああよかったわ。あのクソガキと離れられて・・・。」

      「ホンットに仲が良いねぇ。」

      「あたし達のどこが仲が良いっていうのよ!」

      「そうですか?私もとても仲が良いと思いますわ。」

      「な、なによアンタ達揃って・・・!」


      そういえば、とふとは思う。

      このパーティーにはツッコミが少ないな、と。

      今頃リオンの機嫌も相当悪くなっているかもしれない。


      「ねぇ。アンタよくあのリオンと一緒に仕事してられるわよね。」

      「リオンさん、さんのことをとても信頼しているからだと思いますわ。」

      「いや信頼は・・・どうかねぇ・・・。」


      は首を傾げる。

      リオンとはまだそう長い時間付き合っているわけでもないし

      まだ信頼というところまでは行っていないと思う。

      の方は、信頼というか、いい友人だとは思っているけれど。

      それも彼女が勝手にそう思っているだけで。


      「リオンってさ、ああいうムカつく性格だから友達なんていないと思った。

       けど、何となくアンタは違うと思うのよ。あいつ、には

       何も言わないしね。」


      ルーティの瞳はどこか悲しげだ。

      あんな喧嘩をしていても、実は一番相性がいいのかもしれない。


      「まぁ、よく見てらっしゃいますねルーティさん。」

      「うんうん。それも仲が良い証拠だよねぇ。」


      「あたしはの話をしてんのよ!」


      そうやって急にキレるところはリオンと似てるな、と言ったら

      ルーティは更にキレた。








      それから30分後。








      有力な情報を掴んだのは、リオン達の方だった。

      達といえば、キレたルーティをなだめるのに時間がかかってしまい

      結局何の情報も得られないまま。



      リオンの話によると、町の外へ何か大きな石像が運ばれていったという

      話があったらしい。

      そしてそれは、チェリクから北にあるカルビオラの神殿へ運ばれたという話だ。












      「ああ暑い・・・ホント暑い・・・。」

      「ふん、修行が足らんな。」

      「一体何の修行だよ・・・。」



      そんなアホな会話とは裏腹に、は内心ひどく焦っていた。

      そっと肩をさする。

      鎮静剤は効いているはずなのだが、汗が傷に染みて痛い。

      アトワイトのファーストエイドで治してもらおうかとも思ったのだが

      ルーティがつい口を滑らせてしまいそうなので、どうしても頼むことが出来ない。


      「、なんか顔色悪くないか?」

      「いや暑さのせいだからさ・・・気にしないで。」


      いち早くの顔色に気付いたスタンが、心配そうに顔を覗きこんでいる。

      彼はこういうところが凄いな、と思う。

      常に仲間を思いやるところが。

      もうずっと先を歩いているリオン達から離れ、わざわざ後ろまで来てくれたのだ。


      「辛かったら言えよ。肩ぐらい貸してやるからさ。」

      「・・・ありがとスタン。」


      スタンは人の良さそうな笑みを浮かべると、そのままの隣を歩く。

      こういう何気ない優しさは、スタンだからだろうと思う。

      最近は剣の腕も上がってきているようだし、バルックの言う通り先が楽しみだ、と

      はふふっと笑った。







      前の方を歩いているルーティはどこか不機嫌そうだ。

      どうしても後ろが気になるらしく、ちらちらと振りかえっている。


      「どうかされましたか?ルーティさん・・・。」


      ルーティの様子に気付いたフィリアがふと声をかけると

      彼女はビクッと肩を震わせ、慌てて前を向いた。


      「な、何でもないわよ!ただその、が調子悪そうだな〜と思っただけよ。」

      「まぁ、そうなんですか?少し休んだ方がいいのでは・・・。」

      「スタンが気になるのか。」


      リオンのその言葉に、ルーティはあからさまに動揺した。


      「べっ、別にあたしはスカタンの事なんか気になんてしないわよ!」


      異様に焦っているルーティを鼻で笑うと、リオンはまだ続ける。


      「女の嫉妬は醜いぞ。」

      「なんですってこのクソガキ!」

      「僕は本当のことを言ったまでだ!」


      フィリアは二人の言い争いに、ただオロオロするばかりだ。

      マリーはといえば、チェリクを出てから少し考え事をしているようで

      周りの声はあまり耳に入っていないようだった。


      「何よ、今日はやけに機嫌が悪いじゃない・・・。」

      「うるさい黙れヒス女!」


      そこで、ルーティはピンと来た。

      リオンがここまで機嫌が悪くなった理由に心当たりが一つだけある。

      先ほどまで怒りの色でいっぱいだったルーティの顔に

      妙に勝ち誇ったような色が浮かぶ。

      ビシ!と指をリオンに差し、得意げに言った。





      「アンタ、スタンとが仲良くしてるのが気に入らないんでしょ。」





      さすがのリオンも、こう来るとは思っていなかったので

      すぐには言い返すことが出来ない。

      それを図星だと受け取ったのか、ルーティは鬼の首を取ったかのように笑っている。









      スタンと仲良くしているのが気に入らない?

      何故だ?

      あいつはただの同僚で、何の感情も抱いてはいない。


      違う。


      こんなに苛々するのは絶対に嫉妬なんかじゃない。








      「ふん、馬鹿も休み休み言え。何故この僕が嫉妬なんてしなければならないんだ!」

      「あらそう?その割には随分とムキになってるようだけど!」

      「僕はムキになってなんか・・・!」










      リオンがそこまで言いかけたところで、スタンとが追いついてきた。


      「な、なにどうしたの?また喧嘩?」

      「よく飽きないよなぁ二人とも・・・。」


      スタンの方は呑気なものである。

      だがはといえば、この重い空気に気がついたようで

      遠慮がちにリオンへ話しかけた。


      「・・・何かあったの?」

      「お前には関係のないことだ。」


      そう言い放つとリオンはの顔も見ずにカルビオラの方向へと歩き出す。

      だが、それで納得いく彼女でもなかった。


      「関係ないってことはないよ。君は意味もなくそんな顔をしないだろうに。」

      「どんな顔だろうが関係ない!」


      ここまで拒絶されたことはなかったし、これ以上問い詰めても

      無駄だろうと思いはもう黙る。

      ルーティも何も言おうとはしなかった。

      先ほどの説明をしようとしてしまえば、自分がスタンを気にしている

      というところから説明しなければならないし


      そして、リオンの様子がいつもと違うことが一番の理由だった。


      あんなに焦った顔を見るのは初めてだったから、ルーティも

      どうしていいかわからなかった。



      はスタンと一緒に首を傾げるばかりだ。















      ――嫉妬なんかじゃない。













      リオンはそう自分に言い聞かせる。












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      これはアレです。
      子供がおもちゃを取られたようなカンジで。
      それが友情なのか愛情なのかはまだわかりませんが。