「手を組まないかだと?」
自分のいないところで、勝手に話を進められたとあってか
リオンの機嫌は少々悪い。
彼らと一緒にいた男、の幼馴染みだというジョニー。
二手に別れた後、この男が兵士を追い払ってくれたらしい。
リオンにとっては、そんな事どうでもいい事なのだがスタンにとっては
恩人ということもあり、ジョニーの申し出を快く受け入れたいという事だ。
元々警戒心の強いせいか、この男の事をそう簡単には信用することは出来ないのだが。
「あくまで僕らの狙いはバティスタだ。それを忘れるなよ。」
もう面倒事には慣れてしまったようだ。
どうせ何を言っても、こいつらは予定外の行動を取ってしまうものなのだと
既に諦めている。
それに――――。
「あらーやけに物分りが良くなったじゃないのよ。」
「ふん、お前たちの馬鹿さ加減に呆れているだけだ。そんな事もわからないのか。」
「ア・ン・タねぇ!たまにはもうちょっと素直になれないわけ!?」
「僕は『素直』な意見を述べたまでだ。」
「この可愛げのないガキー!」
「何だこのガサツでデリカシーのないヒス女!」
この状態を面白いと思う自分もいたりするのだ。
ジョニーの親友、フェイトがモリュウ城に囚われているという。
フェイトはモリュウを治めているジノ・モリュウの息子であり次期領主である。
何とかして彼を救出しようにも、腕の立つ人間は全てバティスタに囚われていた。
スタンはこのまま強行突破しようなどと言っていたのだが
そのあまりにも無謀な意見は、当然却下。
先ほどの騒ぎでスタン達の顔を覚えられている可能性が高いため
堀から船で侵入することとなった。
「バティスタを捕まえればフェイトさんも助かる。ええと、何て言うんだっけ?」
「ここぞって時ぐらい決めなさいよ!一石二鳥よ一石二鳥!」
ルーティに蹴られているスタンは、なんとも情けない様だ。
「おいおい、こんな船の上であんまり騒いでくれるなよ。」
「そーよ。おとなしくしてなさい。」
「オレは主にお嬢さんに言ってるんだがね・・・。」
モリュウ城の堀へは、思ったよりも簡単に侵入する事が出来た。
だが、さすがに城への入り口は見当たらない。
「心配しなさんな。・・・あれだ。」
そうジョニーが指差した方向には、上階の窓から吊るされた梯子。
「モリュウの城の端だ。中に入っちまいさえすればこっちのもんよ。」
「よし、行こう!」
気合充分にスタンが上がり始める。
続いてルーティが梯子に手をかけるが、がその手を制した。
「女の子は最後。」
「そりゃないぜべいびー。」
「うるさいすけべじょにー。土左衛門になりたくなきゃさっさと行け。」
「はいはい。」
ちょっと期待したのに、といかにも残念そうな顔でジョニー上がっていく。
一体何度目の溜息だろう、とリオンは呆れつつその後に続いた。
「さん、どうして私達が最後でなくてはいけないのでしょうか?
それと、ドザエモンって・・・?」
全くわからない、という表情で首を傾げるフィリアに
二人は少々脱力しながらも、丁寧に説明しはじめる。
「フィリア、もしも途中で上を見たらどうなる?」
「ええ・・・?・・・・・・・・・・あの、その・・・ええと・・・・・・ああ!」
「・・・まぁそういうこと。それと土左衛門ってのは要は水死体。わかってくれた?」
「・・・・・・・不潔ですわ。」
天然と潔癖は恐ろしい。
街並みと同じく、モリュウの城も静かなものだった。
兵達はいないかわりに、警備ともいえないモンスターがそこらじゅうを徘徊している。
どこかの影からこちらを襲う機会でも窺っているのだろうか。
「ジョニー、どこにバティスタがいるのか分かっているんだろうな。」
全員揃ったところで、リオンが口を開く。
ここまで入れたのはいいが、これから道が分からないなどと言われては話にならない。
「だから心配しなさんなって。城の仕組みは分かってるさ。」
「大丈夫大丈夫。こいつはこう見えても物覚えだけはいいんだから。」
「つれないねぇ幼馴染み。」
「無駄に付き合いが長いわけじゃないよ幼馴染み。」
ポンポンとジョニーがの肩をたたくと、彼女はさも迷惑そうに
顔を歪ませた。
「・・・ね、あの二人なんかイイ雰囲気じゃない?」
ジョニーとの様子を眺めながら、ルーティがこそっとフィリアに
耳打ちする。
「そ、そうですか?どちらかと言うと家族のような気がしますけれど・・・。」
「幼馴染みってそこがネックなのよねー。近すぎてわかんないっていうか。」
「近すぎてわからない・・・?」
「いつも近くにいるからその大切さに中々気付けないのよ。失って初めてわかるっていう・・・。」
「まぁ・・・素敵ですね・・・。」
「・・・フィリア、あたし結構まじめな話してんのよ?」
いつのまにかフィリアがトリップしてしまったので、この話題は強制的に終了した。
モリュウ城で道に迷うことはなかった。
何故かジョニーもも、この城の見取り図が頭の中に
入っているかのようだった。
(次期領主と親友・・・幼馴染みならこの城に詳しくても不思議はないか・・・。)
ジョニーと幼馴染みであるが、フェイトと面識がないというのは考えにくい。
彼女の素性が少々気になるところだが、リオンは敢えて詮索しないことにした。
そういえば、話そうと思っていた事が先延ばしになって
結局何も話していない。
なかなか二人だけになれないから、話せないんだ。
だがどうして、あいつに聞いてほしいのかわからない。
だからと言って誰でもいいわけでもない。
多分。
多分だけれど。
あの声で・・・あの高くも低くもないあの声で、僕の名前を呼んでほしいのかもしれない。
偽りの名ではなく僕の本当の名を、あいつのあの声で。
「リオーン?」
違う。
「ん、反応なし。リオンくーん。」
そうじゃない。
「寝てんのかぃ?リオンてば。」
がっつん
反応が全くなかったので、は刀の柄でリオンの額を小突いた。
としては、いくらなんでも避けるだろうと思っていたので
まともに当たったことに驚く。
「な、いきなり何だ!」
「しょーがないでしょーが。呼んでも全然反応なかったし、絶対避けると思ったし。」
「この・・・。」
「あー怒るな怒るな怒るなシャルティエ抜くな落ち着け。」
カルシウムが足りないんじゃないの、と横からルーティの声が届いたのだが
言い返すタイミングを逃し、リオンは舌打ちする。
「あの扉の向こうにバティスタがいる。スタンと私は前衛。ルーティ、フィリア、リオンは
後衛で援護。ジョニーは・・・とりあえず後衛。」
「何故僕が後衛に入っているんだ。」
「バティスタ一人だとは限らんだろう。後衛の援護は攻守共にこなせる君の方が適任だ。」
詠唱中に襲われればひとたまりもない。
回復役のルーティが倒れてしまえば、戦況は一気にひっくり返る可能性もある。
「ジョニー、女の子を守るのは得意だろう?」
「まぁな。・・・んー、一応お前さんもその中に入ってるんだがね実は。」
「私がどれだけの修羅場を潜り抜けてきたと思ってんの。」
「・・・おにーさんは悲しいぞ。」
「うるさい黙ってろ。」
どうも自分を知っている人の前では調子が狂う。
いつどんな余計な話をしてくるかわからないからだ。
は柄にもなく苛々していた。
大事に思われているのは純粋に嬉しい。
だが、心配されればされるほど空しくなるのは何故なんだろうか。
ジョニーが悪いわけではないのに、と自分を抑えつつ彼女は大きく息を吐く。
(・・・あれ。)
カツン、と刀を収めている鞘が小さな音を立てる。
ふと隣を見ると、いつのまにやらリオンが立っていた。
彼は別の方向を向きながら、何度か鞘を当ててくる。
(・・・なんか、落ち着けって言ってるみたいだ。)
本来、鞘当てはそう縁起のいいものではないが
リオンがこのアクアヴェイル特有の風習を知っているはずもない。
その音を聞いているうちに段々と苛ついている自分が馬鹿らしくなってきて
は小さな笑みを浮かべる。
(後で鞘当ての意味、教えてやろうっと。)
一体どういう反応するのか、今から楽しみだ。
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微妙に短くて申し訳ないっス・・・。