「あー、暇だねー。」
「ここに残ると言われたのは貴女ですぞ。」
「ま、まぁそうだけども。」
ハイデルベルグへの地下通路にある隠し部屋で、は1人暇そうにしていた。
彼女にツッコんだ男はイザーク王の忠臣、ダーゼンだ。
(まさかウッドロウが王子様だったとは・・・。)
ティルソの森で兵士に襲われていた男は、何とファンダリア国イザーク王の息子
ウッドロウ・ケルヴィンであった。
以前、スタンが乗っていた飛行竜がモンスターに襲撃され救命ポッドで
地上に落ちた時、彼を助けてくれたのはウッドロウであり
それでお互い顔を知っていたという事らしい。
ウッドロウの話によると、グレバムによってファンダリアは既に落ちていた。
彼の父であるイザーク王も命を落とし、彼は傷つきながらも
ティルソの森まで逃れてきたという。
彼は民を置いて逃げ出して来たと、自分を責めていたが
命がなければ民を守るも何もない。
(そう言ったら”ありがとう”とか言われたっけ。やっぱり美形が笑うと絵になるなぁ。)
全く緊張感のない事を考えながら、ちらりと横目で部屋の隅を見遣る。
赤くはれた目で看病しているマリー。
ハイデルベルグ城の前まで来て、突然彼女が城の前にいた警備隊長の男に捕まったのだ。
捕まった、というよりも自ら歩み寄っていったと言った方が正しい。
後でわかったことだが、あの横たわっている男、ダリス・ビンセントはマリーの夫であった。
(人妻・・・人妻かぁ・・・驚いたよなホント・・・。)
だがダリスはグレバムに記憶を操作され、マリーとの事も全く覚えていなかったのだ。
記憶が戻ったマリーが何とか説得を試みても、なかなか真実を受け入れようとはしなかった。
他のグレバムと共に斬りかかってきたダリスに応戦し、何とか退けるが
身体の傷も精神的な傷も決して浅いものではない。
それから、かなり慌しく時間が過ぎていった。
混乱したマリーをなだめ、ダリスを運びグレバムの部下から逃げ果せ
ハイデルベルグ地下通路へ逃げ込み、幽霊話を聞かされ
イザーク王の忠臣であったダーゼンと出会い、そして――――――。
「じゃあマリー、あたし達は行くわね。」
「ああ、私は大丈夫。・・・ダリスがいるからな。」
マリーの傍に横たわっているダリスの顔色は、だいぶ良くなっている。
先ほどまでルーティが晶術でずっと治療していたのだ。
ダリスの事もあるため、マリーはこの地下通路に置いていく事になった。
後はグレバムを倒せばいい事なのだが。
「・・・ここ、襲われたらひとたまりもないな。」
「え?」
この地下通路に避難しているのはハイデルベルグの街の人々
そしてダリスのような怪我人もたくさんいる。
もしこの場所がグレバムの部下達に見つかってしまえば、戦える人間もごく少数しか
いないため、簡単に潰されてしまうだろう。
「けど、そんな事言ったって戦力を分散させる事なんて出来ないわ。」
「私が残るよ。」
「だっ、だめよ!アンタ1人でこれだけの人間を守れるわけ・・・!」
「私は耳がいいんだよ。侵入される前にここから皆で脱出することだって可能だ。」
それに、戦える人間が残っている方がここにいる人たちを安心させる事が出来る。
「確かに、その方が民間人が混乱状態に陥る可能性は低い。」
「ちょっとリオン・・・アンタまで・・・!」
「安全地帯があると思うと思いっきり戦えるかもしれないしな!」
「スタン・・・君は突っ走りすぎ。」
――――――――で、今に至る。
「マリー、何か飲んだ方がいいよ。」
スタン達が城へ向かってから大体3時間が経った。
あれからずっとダリスの傍を離れないマリーに、が水を持って隣に座る。
「ああ、すまない。・・・ありがとう。」
ふわりと微笑むマリーの表情は、以前と変わらないままのように思えるが
何となくどこかが違うように見える。
記憶が戻ったという事と、今目の前に横たわっているダリスの存在が
彼女に安堵感を与えているのだろうか。
「本当に・・・大切なんだね、この人が。」
が何気なく呟いた言葉に、マリーはきょとんとした顔でこちらを見る。
「だって大切に思われているじゃないか。」
「んー?・・・そうだなぁ、ジョニーはそう思ってくれてるだろうなぁ。家族として。」
「それもあるが、リオンだってそう思っている。」
「・・・それはありえないと思いますが。」
はぁーと深い溜息をつくを見て、マリーは明るく笑う。
「がそう思えなくても、私はそう思うぞ。どうでもいい人間を信頼するような
人間でもないだろう、リオンは。」
「それはそうかもしれないけども・・・どうかなァ。」
一応信用はされていると思う。(なんとかギリギリで)
だが、信頼はされているのかどうかは怪しい。
(笑ってくれた事もないしなぁ・・・皮肉で嫌味な笑いはあったけど。)
ちょっとしたミスで延々とお説教と嫌味が続いた日はまだ記憶に新しい。
笑っているところを見たところがない、というわけではない。
彼にとっての特別はマリアンだけであり、彼が歳相応の少年に戻るのも
自然な笑顔を見せるのも、マリアンの前でだけだ。
「やはり心配ですか?」
「大丈夫ですよ、あいつらなら。」
刀を抱えて待機しているから少し離れたところにダーゼンが腰掛ける。
「信頼していらっしゃるようですな。」
「・・・とりあえず、何が言いたいのか聞いておきましょうか。」
どうにもダーゼンの言葉に棘があるような気がしたものだから
ついの方も嫌味ったらしい言い方になってしまう。
「ウッドロウ様はあなた方を信用していらっしゃる。
ですが、強大な力を持つという神の眼を前にして・・・冷静でいられるかどうか。」
「私たちが私利私欲のためにあれを使うと?」
「あなた方だけではありません。神の眼に関わる者全てが、あの力に
魅入られないとも限りませんからな。」
神の眼を取り戻したセインガルドが、他国を侵略しないとも限らない。
「・・・リオンはそんな事にはなりませんよ。あいつには守るものがある。
決して自分を見失ったりはしない。」
「そう言い切れますか?」
「しつこい方ですね。言い切れるに決まってるでしょう。」
いい加減腹が立ってきたので、早く話を終わらせたかった。
彼がスタン達を信用していないのは仕方がない事だと頭ではわかっていても
感情はそうもいかない。
今までずっと一緒に旅をしてきた仲間を悪く言われるというのは
とても腹が立つ事らしい。
「リオンだけじゃない。スタンもルーティもフィリアもマリーも
・・・勿論ウッドロウもそんな事は絶対にしない。」
確かに神の眼はあまりにも強大で、その力に魅入られてしまう人間も多いだろう。
だが、彼らにはそんな力は必要ないのだ。
彼らは自分の足で歩いて行くことが出来る。
仮初の力を手に入れなくとも、地に足をついて進むことが出来る。
「どうか、そのぐらいにしておいてほしい。」
両者とも退くこともなく睨み合っていたのだが、いつの間にか
マリーが間に入りにっこりと笑った。
「・・・マリー。」
「伊達に今まで一緒に旅をしてきたわけじゃない。ダーゼンの言う事もわかるが
どうかスタン達を・・・信じてやってくれ。」
「・・・・・・・。」
「ファンダリアの民は信じられないか?」
フっとマリーは苦笑するのを見て、ダーゼンは納得したのかに一礼し
元の場所へと戻った。
「きっと、ウッドロウが心配なだけなのさ。」
「・・・わかってる。」
マリーの言う事は、頭ではそうだと理解している。
だが、どうしても言い返さずにはいられなかった、それだけだ。
はふと天井を見上げた。
スタン達は無事だろうか。
誰も怪我をしたりしていないだろうか。
――――誰か欠けたりはしていないだろうか・・・。
「さっきから何を百面相しているんだ?」
「・・・百面相だった?」
「ああ。そんなに心配なら、後を追えばいいのに。」
「ソーディアンを持っていない私が行ったところで、足手まといなだけだよ。」
我ながら素直じゃないな、とは内心で溜息をついた。
変なところがリオンに似てきたのだろうか。
そう思うと、自然とおかしくなってくる。
(あー・・・なんか厄介な事になりそう・・・。)
再度、今までで一番大きな溜息をつこうとした時だった。
ゴゴゴゴという轟音が辺りに響き渡る。
とダーゼンは急いでファンダリアの民がいつ部屋へ走っていく。
敵の足音らしきものは聞こえないという事は、ハイデルベルグ城で何かがあったのだ。
恐らく、グレバムとの決着がつこうとしているのだろう。
どちらが生き残るのか、とは思わない。
ここにいる全員が、スタン達が帰ってくる事を確信しているからだ。
問題は、この轟音が始まりなのか、それとも終わりなのか・・・。
必ず戻ってくると信じてはいるが、どうしても彼らが無事であることを願わずにはいられなかった。
もうどれぐらいの時間を待ったのか、あまり思い出せない。
ものすごい轟音と岩が軋むような音を聞いて、少しマズイなと思ったのは覚えている。
人生ここまでか、と思ったのも覚えている。
天井からパラパラと小さな石が落ちてくる音、恐怖で顔面が蒼白になった
ファンダリアの民達の声、色んな音が入り混じった地下室は
とても居心地が良いとは言えなかった。
スタン達がきっとグレバムから解放してくれる、とは民を励ました。
ファンダリアの人間でもない自分がなんでこんな事しなきゃならんのだウッドロウめ
と、ここにいない人間にまるで見当違いの八つ当たりをしてみる。
それからより一層音が大きくなって、いよいよ自分も終わりか・・・と
そこまでは覚えているのだが。
その後が全く思い出せない。
(・・・けどなんか大きな音は聞こえる・・・あ、もしかして恐怖のあまり失神!?
そうだとしたらあまりにも情けない・・・。)
とりあえず、目の前が真っ暗なので、目を開けてみよう。
ゆっくりと瞼を上げるのだが、光が眩しくてなかなか開く事が出来ない。
そこでふと、は不思議に思った。
自分がいた地下室にはそれほど強い光はなかったはずなのに。
今いる場所がハイデルベルグの地下ではないということに気付くと
は文字通り飛び起きた。
「きゃああっ!何でいきなり起きんのよアンタって子は!」
「え?え?あ?ル、ルーティ?・・・えーっと・・・?ってあいたっ!」
起床早々はルーティにぺしーんと軽く頬を叩かれてしまったのだった。
「な、なんでいきなりホッペ叩かれなきゃならんのですかルーティさん。」
「アンタがいきなり起きるからでしょ!あーもうホントこっちは驚いたのよ!」
ぐりぐりぐり
「あいたたたたたなんでつねるんですかルーティさーんっ!」
「何となくよ。」
「何となくでつねるってどうなんだ!?痛い痛いいたたいたい引っ張るなっつーの!」
半分涙目になりながら訴えると、ようやく気が済んだのかやっと
ホッペつねりの刑から逃れる事が出来た。
「ところで、そろそろどうなったか聞きたいところなんだけども・・・。」
「そうね・・・まぁ簡潔に話してあげるわね。」
まず、スタン達はようやくグレバムを倒す事が出来たという事。
そして神の眼を取り戻し、地下室へ戻ってくると既には倒れていたらしく
ダリスの隣に寝かされていた。
轟音が止んだ時、緊張の糸が切れてしまったのだろうということらしい。
「あーもう倒れたアンタを見つけた時のアイツの表情ったら・・・ふふっ。」
「何が?」
「何でもないわ。ただの思い出し笑いだから気にしないで。」
「あ、そう・・・。」
ルーティが1人で笑っていたものだから、どうしても気になるだったが
結局理由は教えてくれなかった。
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あ、どうも、長いことお待たせして申し訳ないです。
やっとグレバム倒しましたよー長かったー・・・いやホントに。
他サイトさんでグレバム戦を書いてらっしゃる方が
多かったので、ウチでは敢えてパーティーを離れた場面を
書かせていただきました。
うーん、なんかオリジナル部分の方が多いっては一体
どうなんでしょうかねー?
微妙だ。