「おいカイル!突っ走ってんじゃねーよ!コラ!
スパイラルケイブに到着するなり、カイルはただひたすら奥を目指して進んで行く。
一体どんな罠が仕掛けられているのか、わからないというのに。
ロニはもう手慣れた感じで、カイルの腕を掴みゲンコツをお見舞いした。
「何すんだよロニー!」
「やかましい。ちったぁ頭を冷やせ!それじゃあバルバトスの思う壺だろうが!」
「でも!早くアトワイトさんを助けに行かないと!」
「いや、だからな。」
ロニが言い終わる前に、カイルはまたずんずんと前に進んで行く。
「いつもどおり、フォローに回るしかないんじゃない?」
「・・・おう。」
ポンと、ナナリーに背中を叩かれ、がっくりと肩を落とすロニ。
そろそろ成長してくれよ、というロニの祈りは届くことは当分なさそうだ。
洞窟の奥へと進んで行くと、少し開けた場所へと出る。
カイル達は警戒しながらバルバトスとアトワイトの姿を探した。
「まだ奥があるんじゃない?」
二人の姿を見つける事が出来ないと言う事は、もっと奥が続いているのかもしれない。
「・・・いや、ここで行き止まりのはずだ。・・・となると・・・。」
ジューダスは少し考え込む。
「じっとしてても仕方ないよ!探そう!」
「待てカイル、迂闊に動くんじゃな・・・!」
カイルが一歩前へ踏み出した途端、彼らを包み込むような壁がどこからともなく現れた。
「これは・・・魔法障壁!」
「大きいぞ!」
人間7人をすっぽり包んでしまう大きさな為、逃げる事も出来ない。
「ディムロスめ、臆したか・・・。まぁいい。貴様らが網にかかったのなら
それはそれで楽しめる。」
一瞬、視界が歪んだかと思うと同時に、男の姿が静かに目の前で立っていた。
「バルバトス、貴様・・・!」
バルバトスの姿を確認した途端、の身体に流れる血が沸騰するかのように
熱くなっていく。
脳裏に浮かぶ、あの惨劇。
(ダメだ、抑えろ・・・!)
戦闘に怒りは禁物だ。
はそう自分に言い聞かせ、ぎゅっと刀の柄を握り締める。
「くっ、こんなモン・・・!」
ロニが障壁を破ろうと、ハルバードを構えるが
「だめ!触れればただでは済まないわ!」
「ア、アトワイトさん!」
突然の制止の声は、捕らわれのアトワイトだった。
彼女はカイルらと同じように、障壁に閉じ込められている。
「クク、自分達の心配をした方がいい。・・・そら、もう逃げ場はないぞ?」
バルバトスの合図で障壁が段々と狭くなっていく。
文字通り、逃げ場はどこにもない。
「くそ!みんな障壁から離れろ!」
「は、離れろったって。もう限界だよ!」
「なら・・・!」
上と横が駄目なら下はどうだ。
この障壁が半球体だったとしたら・・・そう考えたが地面に刀を
突き刺そうとすると
「いけない!その障壁は球体よ!」
「なっ・・・!」
「クククッ!残念だったなァ!・・・・・・・っ!?ぐおっ!」
高らかに笑っていたバルバトスが、突然地に膝をついた。
それと同時に魔法障壁も消える。
「い、今のは・・・晶術?」
「え・・・ッ、と、いう事は・・・!」
晶術が飛んだ方向を振り返ると、少し息を切らせた彼が立っている。
「貴様の相手は私ではなかったのか、バルバトス。」
「ディムロス・・・中将・・・?」
アトワイトは信じられないというような表情で、ディムロスの姿を見つめてしまう。
まさか、彼がこんな所にまで来るなんて、・・・来てくれるなんて。
戸惑いだとか嬉しいだとか、色んな感情が一気にこみ上げてきて何も考える事が出来ない。
「はぁいアトワイト、元気ー?」
「ハロルド!」
そのディムロスの後ろからひょっこりと顔を出してきたのはハロルドだ。
相変わらず緊張感のカケラもない表情と声。
「ごめんねぇ、ちょっと遅れちゃったわー。こいつを引っ張り出すのに時間かかっちゃって。」
「まんまと騙されたよ。新兵器のテストだと言われて来てみれば・・・。」
そんな文句もハロルドの前では無意味だ。
案の定、彼女はにやりと笑い
「でも、こいつが相手なら思う存分やれるでしょ。」
「ああ。」
きっと、全てがハロルドの思う通りの結果となっているのだろう。
カイルらがアトワイトを助けに行くことも。
ディムロスが動かないことも。
だがきっかけ一つでディムロスは必ず動くという事も。
そして、バルバトスを退けアトワイトが無事に帰ってくるという事も。
「良かった・・・ディムロスさん、やっぱり来てくれたんだ。」
「カイル・・・お前、腰抜け呼ばわりしておきながら・・・。」
ディムロスとアトワイトが仲良く戻った後、少し遅れてカイル達もそれに続いた。
このままのんびりペースで進むものかと思っていたのだが。
「・・・あ、の目がハート型になってる。」
ハロルドのとんでもない言葉でその空気は砕かれた。
「え、ちょ、何?」
「なるほど。あんたは年上が好みって事ね。メモっとこー。」
「メモるな!・・・って待て!待て!何で話がそっちに行くんだ!
わ、私はただ幸せそうでいいなぁって・・・!」
この際好みはどうでもいいとして、どうしてここまで焦らなければいけないのか。
ただ寄り添って歩く二人を見ていただけではないか。
そう反論しようと思ったのだが、あまりムキになるとそれこそハロルドの思う壺だ。
口で勝てる気は全くしない。
「へぇ、はああいう堅物が好きなんだ。」
と、ナナリーがぐいっと肘で突付いてくる。
「ほぉー、俺はてっきりその逆かと思ってたんだけどなぁ。」
と、ロニ。
「・・・略奪愛かしら。」
と、リアラ。
「え、じゃあジュ
「下らんな。」
ピシ、と頭の中で何かにヒビが入った。
「あら、固まった。」
楽しそうな顔で、ハロルドはの顔を覗きこむ。
誰のせいだと思ってる、と非難の視線を向けてもどこ吹く風だ。
やがては諦めたように溜息をつくと、自分を落ち着かせた。
「ま、年上が好みなのは間違いないけど・・・。」
「ウチの兄貴なんかどう?」
「結構です。」
理想と現実は違うしね、と呟いて小さく苦笑した。
そういう彼女の目はどこか虚ろだ。
(まぁいいけど、誤解されても。どうせ伝える気なんかないし。
真面目に取り合ってもらえないし。下らないとか言われたし。)
こんな所でムキになっても仕方がない。
だが一つ気になる事は、どうしてカイルまでもが自分の気持ちを
知っているのだろうと、は首を傾げる。
そんなにあからさまな態度だったのだろうか。
(って、待て。じゃあまさか本人にまで気付かれていたりするのか?
・・・いや、そうとも限らないな。意外に鈍いとこあるし。)
「ね、はどうだい?」
「え?」
「聞いてなかったのかい。だから、さっきのアトワイトさんみたいに
好きな人には助けに来てほしいのか、って。」
拠点に戻る途中、女の子二人に両脇を固められてしまった。
逃げ場はない。
さっきの事もあるし、しばらく逃げられそうにない。
「ああ、それか。・・・んー、どうだろうね。」
「は一度体験してるじゃないか。」
男共とハロルドは幸い離れて歩いているのが唯一の救いだろうか。
「いいじゃない、隠さなくても。皆知ってる事なんだから。」
「何を知ってるんだ・・・。」
どうして女の子はこういう話になると、目がキラキラと輝いてしまうのだろう。
他人の話には大いに興味はあるが、自分の事となると話は別だ。
「あ、そっか。あんたはいなかったから知らないんだっけ。
あの時のジューダスの焦りっぷりと言ったら・・・。」
そういえばロニもそんな事を言っていたと思いだす。
「あれだけ分かりやすい雰囲気なのに、何で何もないのかって、ちょっと不思議でさ。」
からかうようにナナリーがにやりと笑う。
しかし、そんなに妙な空気を醸し出していたのだろうか。
出来るだけ自分の気持ちは外へ出さないように努力していたつもりなのだが。
「どうして何も伝えないの?」
「リアラ?」
「・・・伝えたくても、伝えられない状況になってしまったら・・・。」
「・・・・・・。」
「そうだよ。暗い事はあんまり考えたくないけどさ。伝えられる時に
ちゃんと伝えておいた方が・・・良いと思うんだ。」
ばん、と思いっきり背中を叩かれて、ついは前へと倒れそうになる。
確かにナナリーの言う事は尤もだ。
本人は何気なく言っている事だが、このまま最後までカイルに付き合う事になるなら
確実に"伝えられない状況"へと陥る事になるのだ。
けれど。
「・・・伝える気はないよ。」
「どうして?」
「やらなければならない事があるから。」
今、の生きる理由というのは、スタンの仇であるバルバトスを討つ事だ。
同様に、ジューダスにもカイルを最後まで見守るという理由がある。
「それに・・・言っていただろう。"マリアンが全てだ"、・・・って。」
彼女の名前が胸に突き刺さる日が来るなんて、夢にも思っていなかった。
マリアンもまたにとって大切な人のうちの一人なのに。
「・・・嫌なんだ。」
「・・・・・・。」
「欲張ると、全部・・・失ってしまうから。」
そう言って苦笑するに、二人はもう何も言えなくなった。
誰かを好きになると、どうしても自分がその人の一番でありたいと思うのは当然の事だ。
だが、もしも彼に打ち明けたとして、何がどうなると言うのだろう。
彼の中心にいるのはマリアンただ一人。
それが覆されることはまず無理だ。
また、受け入れられたとしても、の中の小さな澱みはずっと彼女自身を苦しめる事になる。
(そんな理由で・・・マリアンを嫌悪したり・・・したくはないんだ。)
つい最近まではそんな事、考えた事もなかったのに。
一緒にいる時間が長くなればなるほど、醜い感情が生まれてくる。
(あーやだやだ。)
雪の中を歩きながらは人知れず溜息をついた。
リアラもナナリーも、もうその話題に触れようとはしない。
大丈夫。
打ち明けない限り、普段通り接する事は出来るはずだ。
気を付けなければならない人物が若干一名存在するが。
(出来るだけ二人きりになるのは避けよう。)
これ以上、心に澱みがたまらないように。
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だーいぶ端折ってるなぁと自分でも思います。
ゲーム中のセリフとかほとんど書きとめていたり
するのですが、使用するのはその半分以下。
いつも言ってる事ですが、文章というのは難しいです。