RAW現像とデジカメの関係

デジタル一眼レフが普及して、高画質な画像データが得られるようになった昨今、RAWデータ なるものを良く耳にするようになりました。特に、私の主力機たるN DigitalはRAW撮影専用機 とも言われる程にJPEGの出来が悪い・・・もとい、RAWの出来が良いと言われますが、実際のところ どうなのさ? って思わなくもありません。確かに、RAWの場合だとN Digital本来の特徴たる ダイナミックレンジの広さを遺憾なく発揮できるのは、理論上間違いないので、まずは そこらへんをチェックしてみたいと思います。

それだけなら、タイトルを"RAW現像とN Digitalの関係"って事にしちゃうのですが、せっかく なので、我が家にあるもう一台のRAW現像可能なデジカメ・E-10でも撮影してみて、さらに現像ソフトも 数種類用いて多角的に検証してみてやろうというのが今回の企画です。





その1(N DigitalにおけるRAW現像の威力)
まずは、RAW専用機の誉れ高い(爆)N Digitalの潜在的なポテンシャルの高さとも言える ダイナミックレンジがどう違うのか?ハイライトとシャドウの輝度差が大きい、ひじょーに 意地悪な条件で比較してみたいと思います。

使用機材
露出モード
ISO感度
ホワイトバランス
絞り
シャッター速度
焦点距離
N DIGITAL + Vario Sonnar T* 24-85mm F3.5-4.5
絞り優先AE
50
5500KB
F8.0
1/10sec
36mm

三段峡 JPEG 滝・原寸大 ヒストグラム JPEG画像
彩度:+
輪郭強調:弱
階調:硬調
三段峡 RAW/リニア 滝・原寸大 滝・原寸大 RAW現像
彩度:0
輪郭強調:0
階調:リニア
三段峡 RAW/トーンカーブ調整 滝・原寸大 ヒストグラム RAW現像
彩度:+1
輪郭強調:0
階調:トーンカーブ調整

ぱっと見・3者の画像を比較したときに2枚目のRAWデータに何も手を加えず現像した画像は、 非常に眠い・軟調な絵になっています。これじゃ全然ダメダメじゃんっ!って素人考えには 思ってしまうところですが、トーンカーブ補正を加えた3枚目をみていただくと、充分 JPEG画像と遜色無い画像に仕上がっていると思います。って、それじゃ現像処理が必要なだけ 面倒だし、データ量は大きいし、やっぱりダメじゃん・・・って言われそうですが、ここで よく注意してもらいたいのは滝のトーンです。

ものが滝だけに、水の流れが完全に一致している訳じゃないですから、完全な比較とは なり得ないかも知れませんが、3枚を比較すると、JPEG画像だと完全にトーンが飛んでしまって、 滝が真っ白になっています。しかし、2枚目のカットでは水の陰影がきっちり残っており、 それを元に調整を行った3枚目も微妙に白飛びする程度にハイライト部をコントロールし、 シャドウ部は暗く落とす事でコントラストを出しており、結果としてハイライト部の微妙な トーンと高いコントラストの両立した画像を得る事に成功しています。これは従来N Digitalで JPEG撮影していた場合には実現不可能だった事です。

また、ヒストグラムを見た場合、JPEGでは階調幅を全て使い切っているのに対して、 RAW撮影でリニアにして現像した場合だと、シャドウ部にかなりの余裕を残している事が わかります。つまり、JPEGだと現状の露出で+補正を行うと、白飛びが激しくなり、-補正を 行うと黒潰れが生じる訳で、これ以上輝度差があるとお手上げ状態なのに対し、 RAWの場合、+補正はこれ以上無理にしても-補正はある程度行っても黒潰れを起こさず、 適切に-補正した場合、現状白飛びしているところにトーンが乗ってきますから、 現状のカットでは飛んでしまっている空の部分に色を乗せてやることも出来る様に なります。

なるほど、これがN Digitalが持つ実力なのか・・・ と、購入から2年も経って思い知る 5taroでした。(^_^;

ちなみに・・・N Digitalは一応、JPEG撮影時においても、彩度などの撮影パラメータを 調節する事が可能です。なので、撮影時に軟調にして撮影してRAW/リニアの様な画像を撮っておき、 後からPhotoShopなどで補正する事も可能ですが・・・その場合、JPEGの持つ階調幅が8bitであるという 制約故、画質劣化を伴う事になってしまいます。例えば、トーンカーブを変化させた場合、 グラデーションの繋がりが不自然になるといった具合です。

三段峡 JPEG ヒストグラム

上の画像とヒストグラムは2枚目の画像をPhotoShop上でコントラスト調整したものですが、 ぱっと見の派手さは3枚目の写真に近いものの、ヒストグラムで比較すると階調が大きく 失われていることが解ると思います。今回の被写体ではグラデーションがあまりないので さほどアラが目立ちませんが、輝度差が大きく、グラデーションの表現が重要となる 夕焼け空の様な場合には画質劣化がてきめんに現れてしまいます。一方、RAW現像時に トーンカーブ補正した3枚目は階調幅16bitの段階で補正してからJPEG変換しているので、 階調の欠落が生じていません。





その2(現像ソフトによる画質の相違)

RAW現像の面白味のひとつとして、現像アルゴリズムが異なるソフトを使用すると、 それだけでまるっきり別物のカメラに変身というのも、理論上は夢じゃありません。 ならば、実際にどの程度違いがあるのか、現在手持ちのN DigitalのRAWデータを扱える 現像ソフト3種類を用いて、画質の違いを比較してみたいと思います。

評価方法ですが、RAW現像ソフトは一般的にデジカメ本体内での画像処理とは比較にならない程 チューニング要素が多いですし、気の利いた現像ソフトなら、異なる現像ソフトであっても ぱっと見・同じになってしまう可能性もあります。なので、とりあえず純正現像ソフトのRAW DATA DEVELOPERは 彩度強調のみ実施し、他の現像ソフト(源蔵・RAWDEC)についてはデフォルトパラメータで現像 します。また、比較データとして、JPEGで撮影した画像も同時掲載します。
三段峡 部分UP×1 JPEG撮影
彩度:+
輪郭強調:弱
階調:硬調
三段峡 部分UP×1 RAW DATA DEVELOPER
三段峡 部分UP×1 源蔵 β2.20
RAWDECO氏作
三段峡 部分UP×1 RAWDEC β20
RAWDECO氏作

一番左の列の写真は全体像・中央はピクセル等倍で画面中央やや右よりを切り出したものです。

ここで登場している2つのフリーソフト・源蔵とRAWDECは、どちらもRAWDECO氏の手によるもので、源蔵は 純粋なフリーソフト・RAWDECは将来シェアウェア化を想定して作成された評価用バージョンという位置付けの ものです。このため、RAWDECは画面右上にクレジットが入っています。

ただ、現在RAWDECO氏はweb活動を休止しておられるため、現在では両者ともソフト配布やサポート等は 行われていない様です。

まず、全体画像から画面全体の雰囲気というか、色味について見てみましょう。JPEG画像と RAW DATA DEVELOPER・源蔵とRAWDECが比較的似通った雰囲気になっています。このあたりは 作り手の思想が反映されているところだと思います。どちらが良いか?という事になると、 好みの問題でしょうが、RAWの場合はここから微調整をかけて個人の好みに追い込んでいくので、 私はあまり気にしていません。

強いて印象を言うとすれば、純正のJPEGやRAW DATA DEVELOPERの方が油絵っぽい濃い色彩表現の イメージが強く、CONTAXのレンズが持つコントラストの強い絵をイメージさせる気がするのに 対し、源蔵・RAWDECはどちらかといえば、OLYMPUSなどの割合淡色系な色彩を出している様に 感じます。どれが記憶色に近いかと言えば、RAW DATA DEVELOPERとRAWDECの中間かな?と 思ったりしますが・・・ 私の色彩感覚はさほどあてにならないので(笑)、聞き流してくださいませ。(^_^;

ちなみに、源蔵とRAWDECの違いですが、源蔵は割合素直な画像処理でストレートに出力しているのに 対し、RAWDECは記憶色重視の割と濃い目の色調を出すように設計されているとの事です。実際、 銀塩(リバーサル)写真とデジカメで比較した場合、色が地味になりがちな木々の緑を鮮やかに再現 させる為の専用パラメータがあったりします。その効果は紅葉の中に点在する緑を見ていただくと 解りますが、源蔵は緑が黒っぽく沈み、RAW DATA DEVELOPERでは背景の赤茶が混ざった感じになっていますが、 RAWDECはストレートに緑が出ている感じを受けます。

続いてピクセル等倍の画像で、シャープネス処理がどうなっているか?を見てみたいと 思います。まずはJPEGですが、撮影時のパラメータで輪郭強調を弱にしていることもあり、 まるでエッジの立ってない、解像度が低そうな絵になってます。なら、撮影パラメータの輪郭強調を強めに したら・・・という話もあるのですが、どうもN Digital本体に入っているJPEGエンコード処理には問題が あるらしく、あまりエッジを立てすぎると、8×8ピクセルの市松模様のノイズに化けるという 情けないバグがあるようなので、あまり輪郭強調がかけられません。まぁ、600万画素もあれば、 画素の力でそれなりの解像感が出るのでさほど苦にしてはいませんが・・・

次にRAW DATA DEVELOPERです。これは輪郭強調もデフォルトなので中間レベルという事になるのだと 思いますが、ピクセル等倍で見ても、エッジを強引に立てている様な不自然さはありません。 それでいて、JPEGに比べてかなりしっかりした解像感を出していると思います。個人的には非常に好みです。(^-^) ただ、この画像を試しに保存して、画像ビューアとかで2倍以上に拡大すると解るのですが、一般のデジカメが 出力するような階調で描かれた絵ではなく、点描画というか、ディザリング的な手法で階調表現 している様な感じの絵になっています。これがシャープに見せている要因なのかな?とも思ったりしますが、 拡大すると若干不自然な感じを受けます。

3番目と4番目は続けていきます。まず源蔵とRAWDEC共通ですが、どちらもぱっと見・非常にシャープな 印象を受けます。これは輪郭強調によるもので、ある意味一般的的な画像処理方法と言えますが、 下手な輪郭強調だと、エッジで縁取りされたかの様な仕上がりになるところをうまく押さえて、 解像感を出していると思います。また、源蔵は比較的淡色系になっているため、画面のコントラストが低く、 エッジ強調が目立たないのですが、RAWDECはコントラストが高い分エッジ強調が目立つきらいがあるようです。

こうしてみると、画像処理のアルゴリズムの違いが思った以上にあることを実感します。

蛇足ながら、ひとこと付け加えると、RAW DATA DEVELOPERはCCDの画素欠けを補完する 処理が入っているのに対し、源蔵・RAWDECは汎用の現像ソフトの為、画素欠け補完する 処理が入っていません。N Digitalで使用しているCCDは、35mmフルサイズという大きさ故、回路を 露光する(焼き付ける)ステッピングという製造工程において、1回ではCCD全体を露光する事が出来ず、 3回に分けて露光するという事を行っています。この3回露光処理でつなぎ目となる箇所がちょうど 画素欠けの様な状態になる事から、純正ソフトのRAW DATA DEVELOPERには画素欠け補完処理を 組み込んだとされていますが、私が使っているN Digitalの場合、3回露光のつなぎ目は 通常の撮影を現像する限り、全く見つかりません。
(ただし、長時間露光をすると補完処理の有無に関係なく、つなぎ目が写ります。)

しかし、私のN Digitalは画面中央に大きな画素欠けがあって、JPEG撮影では完全に補完されて 識別できないレベルになっているのに、RAW DATA DEVELOPERだと補完しきれずピクセル等倍〜2倍 程度でアラが見えます。そして、補完処理が無い現像・RAWDECでは画素欠けによって生じた 線に輪郭強調が入ってしまうので、画素欠けが目一杯解ってしまいます。(^_^;





その3(異種格闘技戦 E-10 VS N Digital)

話は"その2"の冒頭に戻りますが、"現像アルゴリズムが異なるソフトを使用すると、 それだけでまるっきり別物のカメラに変身"するのが事実だとしたら、仮に、Canon EOS 10DやEpson R-D1が 記録しているのと同等以上の色情報をN Digitalが記録出来ているものとして、それをDIGICやEDIARTと 同じ画像処理アルゴリズムで現像したならば、レンズの描写による相違を除いて、まったく同じに なってしまう・・・という、ある意味ひじょーに楽しい事が出来てしまいます。

って、本当にそうなのか? ものは試しにやってみました。実はこの実験・源蔵/RAWDECの作者、RAWDECO氏の HPにて検証済だったのですが、既に閉鎖されていて見ることが出来ない状況である事・RAWDECO氏のHPでは EOS 10DとD100という同クラスの機材を用いた検証でしたが、ここでは手持ち機材の関係でN DigitalとE-10という クラスが異なるデジカメで検証しています。

検証方法ですが、両者同一構図で撮影したカットを同一現像ソフト(RAWDEC β20)・同一パラメータにして 現像する手法を用いてみます。ただし、色合いに大きく影響するホワイトバランスは両者とも5500KBに合わせて現像し、 JPEG撮影も5500KB固定で撮影しています。

宮島 N Digital JPEG 宮島 E-10 JPEG JPEG撮影
宮島 N Digital RAW 宮島 E-10 RAW RAWDECにてRAW現像
(N Digitalデフォルト設定値)
宮島 N Digital RAW 宮島 E-10 RAW RAWDECにてRAW現像
(E-10デフォルト設定値)

と、ここまで試して気が付きました。両者の相違点は単純に画素数とかCCDの差だけじゃなくて、 露出計の精度がどうか?という部分もあって、大体にしてE-10はオーバー気味・N Digitalはアンダー気味に なるのですが、撮影時に補正するのを忘れておりました。(爆)

それはさておき、上の写真を見ていただくと判ると思いますが、N Digital/E-10両者の設定で現像して みたところ、確かに色味は微妙に変化していますが、基本的にベースとなっているJPEG画像の雰囲気を 残しています。単純に現像アルゴリズムだけで同じ雰囲気の写真になる訳ではなさそうです。

では、どこを調整すればそれらしくなるのか?と思案したところ、カラーバランスの基準になる ホワイトバランスが合致していないのでは?と思い当たり、露出補正とホワイトバランスを目視で確認しつつ 追い込んでみたのが次の画像です。

宮島 N Digital RAW 宮島 E-10 JPEG RAWDECにてRAW現像
(E-10デフォルト設定値を元にEV補正)
宮島 N Digital RAW 宮島 E-10 JPEG RAWDECにてRAW現像
(E-10デフォルト設定値を元にEV,WB補正)

上段は露出のみ補正し、さらにホワイトバランスを補正してみたのが下段の写真です。 いかがでしょう? 少しはN Digitalの写真がE-10っぽくなったでしょうか?(笑) 子細に見てみると 石灯籠や石橋・石垣・木の幹などは結構それらしく仕上がっていて、赤や黄色の部分についても 横に並べて比較しなければ判らないレベルにまでは追い込めていると思います。しかし、露出補正の 影響もあるのかも知れませんが、グリーン系の発色においてE-10の方が彩度が高いという点は、 JPEG画像の時の傾向を引きずったままとなっています。もっと他のパラメータを追い込めば もう少し似せる事も可能でしょうが、そこまでやってしまうと、"同一アルゴリズムで現像 すれば同一の写真になる"という実験の目的を逸脱してしまうので、このあたりが落としどころ だと思われます。





まとめ

今回のテストの元ネタは既に"デジタルフォト専科"や、RAWDECO氏のHPで検証されていた事の 焼き直しで、新しい要素があるとしたら、同一データを複数の現像ソフトで現像して傾向の違いを 検証している程度なのですが、改めて自分の手で検証してみて感じたのは、デジカメの画質・特に 色調については3番目のテストにある通り、同一アルゴリズムのプログラムで、現像パラメータを 追い込んでいけば、かなりのところまで調整可能で、こうなってくると、従来の様にレンズを変えると カラーバランスが変化する・つまりレンズの味という要素はかなり薄れてしまっているという事です。

とは言え、CCDの持つ特性差・披写界深度・レンズだけではなく、光学ローパスフィルターを含めた光学系の 解像度・さらにはボケ味といった部分についてはレンズ/カメラの個性が強く出る部分で、現像ソフトでの 後処理では差が埋まりきるものではないという事も再認識した次第です。

また、実験3におけるE-10とN Digitalの露出差ですが、E-10は-0.15EV、N Digitalは+7.5EV補正しました。 両者の開きはほとんど1EVあろうかという勢いです。(>_<) カメラの癖と言えば癖なんでしょうけど、 露出の傾向については、また別の機会を設けてベンチマークを取る必要がありそうです。




〜 End of text 〜




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