Guarneri_Modele_No13
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グァルネリ・モデルNo.13 の新作 May.2009 HOME

本来なら、今年からチェロをつくろうと予定はしていたのですが、諸般の都合で、今になってからヴァイオリンを・・・。
今年も、いよいよ卒業高校・第5回目の「OB美術展」の開催が迫りましたが、
もはや型から作らなければならないチェロではとても間に合わないかも・・・。
今年は、卒業高校の創立110年という、記念のイベントとしての開催にもなります。

さりとて、キャンバスの準備はできているものの、去年のように、何となく油絵を描く気にもなれず・・・、
それで、やむなく木工品としての出品を目的にして製作をはじめたわけです。

実のところ、今年になってからストラド型の図面が載っているチェロの本を買ったものの、
英文のため、まだ、そのストラド型にしようか、ヘンリー氏のチェロ・メイキングの本の通りにしようか、
製作スタート時点から、まだはっきりとは決めてはいないのです。

しかも、このヴァイオリンは、手持ちの、富士山のカエデ材、
その独特の斑模様から、工芸品として出品するにふさわしいと考えてのことと、
相変わらずの遊び心のなせること。

また、今までのページで製作過程の詳細は、何度となく説明をしていますから、
ここでは、特徴的なことを中心にしてご紹介させていただきます。

   ◇ 独特の斑模様が入る、富士山のカエデ材   
富士山のカエデ材に、この写真のようにすべてこのような斑模様が入るのかというと、そうではないのです。

銘木としての「黒柿」の場合は、一万本から数万本に一本の割合だというのですが、カエデ材でもそれほど多くはないと思います。

なおかつ、縦の髄線に対して水平のヴァイオリン杢(虎斑)もささやかですが見えているのが嬉しいところです。
こちらが、ある銘木関係のサイトにあった黒柿の製品。(花台)
巾が45センチほどですが、これで15,000円という価格です。

上のカエデ材からくらべると、グンと濃い斑模様が入っています。

柿の木のもつ、渋のようなアルカロイド(多糖類)が、土中のミネラルと反応して出るらしいのだが、カエデの場合は、きっとメープル・シロップのような糖類かも?

裏板とリブ、それにネックも合わせ、共木でとりました。
ただし、ネック材が取れるほどの木材が手持ちではもうなくて、やむなく、板状の部材を中央で接ぎ合わせて間に合わせたもの。

さらに、それでもスクロール・アイの出っ張り分の巾もなかったので、左右で2ピース、アイ部分で小さな切片を2つ、4ピースの貼り合わせで「裏板と共木」として実現したもの。

去年から今年にかけ、諸外国の古いもののリペアーをして、いわゆる「接ぎネック」などを見て、この程度ならと、安心して実行したもの。

ネック中央の接合部分の面積を考えると、それこそ、裏板中央の接ぎ目からくらべたらものすごく頑丈なはず。確信をもって、この方法を採択した次第。

冒頭の写真と同じ原木ですが、場所と位置により斑模様が異なっています。

まァ、世界広といえども、こんな斑模様が入ったカエデを使ってでヴァイオリンをつくる人はいないでしょう。

それだけに、小生の遊び心と手工芸品として出品した際に、材としての鑑賞の評価も高まるのではないかと考えたわけです。
なお、(何年か前の)前回と異なり、同じ型を使っていますが、今回はガルネリ・モデルらしく、リブ巾を、あえてネック側で29mm、エンド側が31mmと差をつけました。

そのために、内型を少し削り薄くしましたから、左側が少し白っぽくなって見えていますね。

なお、この内型はヘロン・アレンの本についていた1734年のモデルの図面から、多少、アレンジしてつくったものです。

何故、アレンジなんか?とお思いでしょうが、その図面、センター・ラインで半分に折って明かりに透かせてみたとき、その左右がミリ単位でズレがあるのです。

それらを、自分なりの好みや考えで正しく修正したりしていますから、まさに、アレンジなんです。
ネックのテンプレートは、以前、つくっておいた100円ショップの真っ赤な下敷き、今回で2回目の使用です。

プラスチック(塩ビ)製ですから、つくりやすい分、正確に切り出せるし、また、定規ではありませんが、鉛筆のすべりもよく、簡単に曲げることもできますから、とても使いやすいですよ!
表板も、ヨーロッパ材から選んだもので切り出し、パフリング材を入れ、間もなく貼り付けるところ。

すでに、ボディ本体には表板用のライニングは貼ってありますが、ライニング巾は「すみや流」で6mmの限定です。

いつものことながら、表板のアーチングは、そのフォルムの美しさにこころを弾ませながら、夜な夜な削りだしたことはいうまでもありません。
そして、エフ字孔を切り出して見ると、さらにワクワクしてくるものがあります。

それくらい、私はこのフォルムに「美」を感じているのです。

手前には、すでに成形したバスバーを置いてあります。
多くの製作者は、部材を貼ったあとから成形しますが、成形してから貼るのは「すみや流」。
その理由も、チェロの修復の際などでもすでに説明してありますから、ここでは省きます。

手前の用具は、私がエフ字孔の切り出しの際に愛用しているもの。
市販のデザインナイフ(黄色い柄のもの)などなど。とくに、右の方に置いてある、半丸の鉄工ヤスリ(オレンジ色の柄)は、こんなときの仕上げにはとても有効なものです。

余談ですが、今は亡き家内の写真も、100円ショップの額に入れて、しっかり工房の正面・下に・・・。
バーの接着は、これはまぁ普通の工程です。
以前のときには、なんとなくストラド・スタイルとそれほど変わらないようなエフ字孔になってしまいましたので、 同じテンプレートを使いましたが、それこそ、鉛筆の線、一本分の修正を加えて切り出しましたから、前回のものより、よりグァルネリ(デルジェフ)らしい形になりました。
とき同じ頃、ある製作仲間のメーラーさんと、バーを貼った仕上げた状態の、「表板の重さ」を論議していましたので、その確認のために量ったのがこの写真。ご覧のように75gになっています。

なお、このデジタル秤は台所用のもので、2千円以下のもの。

小型で邪魔にならない大きさですから、こんなときには便利な道具のひとつ。ただし、安物ですから小数点以下の数値が出ません。
さて、前回も裏板のボタンはそのまま仕上げましたが、今回はグァルネリ・ファミリーの作品に多く見られる「黒檀の化粧リング」に挑戦しました。

これ、正式名称は何というのでしょうか? 

もし、読者の皆様で御存じの方がいらっしゃったら、ぜひ、こちらまでご教示下さい(これは、「クラウン」と呼ぶらしい)。

初めてのことでしたから、とりあえず、標準通りの形にいったんは仕上げ、それから切り出していく、という方法をとりました。

材料は、黒檀の端材から厚さ4mmほどの部材を切り出し、コンパスを使って、まず、その外形と内径の線をとりました。

(後日、匿名の読者さんからメールがあり、このリング?の名称のことは「クラウン(王冠の意)」というそうでお知らせいただきました。 ご親切に、どうもありがとうございました。 6. August .2010)
そのままの形をミシン鋸で切り抜きますが、リングそのものはご覧のような厚さ、割らないようにしなければいけません。

なお、黒檀の目方向は、あくまで裏板と同じ、縦方向にとりました。

ここまでくると、ナイフで削るというより、ヤスリで少しずつ削り、合わせてみる。

合わせてみてから、また削っていく、という方法の繰り返しで、できるだけ接合部がぴったりするように削らなくてはなりません。

どうしても、コンマ1ミリほど空いてしまったという場合、黒檀を削った微粉末を使い、コクソ という日本の木工やウルシの世界に継承されている、パテ詰め技法が可能ですから、あきらめずに・・・。
部材を削りだしたら、あとは貼るだけです。

が、グァルネリさんたちは、いったい何のためにやったものでしょうか?

出っ張ったいちばん先端部にあたるところですから、永年の使用で、もっともすり減りやすいところでもあります。

それを、堅い黒檀で化粧カバーしたものか?

または、全体をキリッと引き締めて見せるための、女性のアイラインのように、単なる化粧だったのか?

あるいは、ここまで細密な木工工作ができるという製作者の技術レベルをアピールするつもりのものだったのか?

ニカワが乾いたら、ほどほどになるまで、やはりペーパーやヤスリを使って丁寧に成形します。

初めての体験でしたが、まぁまぁのできでしょうかネ?
なお、こちらはあちらのオークション・サイトにあったものを、こんなときのために参考資料としてダウンロードしておいた画像ですが・・・。

これでは、リングというよりはむしろ帽子。

作業上では、大きい分、折ったり、割ったりする心配はありませんが、私にとっては無骨ないものとしか見えず、もはや、余分な手をかけて悪くしているという、「美意識」の欠如にしか見えません。

なお、グァルネリのリングは、やはり、きれいな、スマートなリング状です。
表板を貼る前に、ラベルの貼り付けをしました。
エフ字孔のウィングにつける彫り込みも、イタリアン・スクールの特徴、デル・ジェスの作品群にも見られるものですが、やはり、正式名称は何と呼ぶのか、なんの目的なのか、知るよしもありません。

まっ、ただの「猿まね」ですが、このスタイルが私は好きなんです。

なお、接合前に、チャンネル彫りやエッジの厚さに対して丁寧に修正を加えましたので、精密秤で量ったら、この表板は74.18gになっていました。

台所秤には小数点以下の処理方法が書いていなかったので、四捨五入か、切り上げか、切り捨てか分かりませんが、削った本人の感覚から、きっと1gほどのダイエットになった結果だと思います。
テールピースを乗せ、指板を輪ゴムで止めてみると、もう、すっかり完成したようなもの。
ナットやサドルも削って調整。 ペグ4本も、太さ、長さもカットして調整済み。
下地の着色には、ガンボージ(黄色の天然樹脂)をアルコールで溶かしたものを一回塗った状態。
ニスは、インターナショナル・ヴァイオリン社のアンバーを4、5回。 その上から、レッド・ブラウンをさらに4、5回、塗り重ねました。
まぁまぁ、自分の好みの色に上がりました。 エッジだけは、薄い色にして立体感を出しています。
4日、卒業高校の美術展・搬入日の゛前夜、弦を張り、魂柱を立て、なんとか外見だけは完成、という状態で展示。 折角のことなので製作に使ったテンプレートや木型( 内型 )も展示。
油絵も、2号ほどの、小品の習作2点も展示。
なお、このキャンバスは変則サイズのため、市販の額がなく
一昨年同様、額までてづくり。
その、額の製作中の写真。木はタモ材です。
釘は一本も使わず、全部ボンドでの接着です。
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