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賢明なる読者の皆さんは、ヴァイオリンのルーツをご存知でしょうか?

小学6年のリンタロウくんに、教育的配慮から作業をしながら話したのですが、

もっとも有力な説としては、セイロン(現在のスリランカ)から始まった、といわれています。

今から5,000年も昔、セイロンの王、ラヴァナが中国の二胡のような擦弦楽器をつくったというものです。

ラヴァナストロン
これは、エドワード・ヘロン・アレン著 [ Violin Making A Historica And Practical Guide ]に載っていたもの。

左がラヴァナストロン(Ravanastron)、右がインドのオメルティ(Omerti)です。

注目すべきは、このラヴァナストロンは、オオカエデの木をすっぽりとくり抜いた筒を胴にしていることです。

それがインドに渡り「オマーティ(Omerti)」になり、中国にいって「二胡」(下の写真)になったり、
蒙古では「馬頭琴」(下の写真)になったと言われています。

二胡
中国の二胡
蒙古の馬頭琴
蒙古の馬頭琴
二胡
安物は、ただの皮にプリンターでニシキヘビ模様がプリント。
二胡のうしろ
胴の素材にもこれは紅木(紫檀の仲間)、安物は南洋桜のような木。

二胡の胴にはくり抜いた堅い木の筒に、ニシキヘビの皮が張られており、
一方、馬頭琴はすべてが木で長方形の大きな胴がつくられています。
インドのオマーティにそっくりなものが現代のトルコやアラビアにもあります。
それは「ケマンゲ・ア・グウ」と呼ばれていて、ケマンゲはペルシャ語の「弓の箱」という意味があり、
ア・グウは「古い」という意味で、合わせると「古代の弓で弾く楽器」になります。

ヴァイオリンの特徴のひとつであり、他の弦楽器では見られないものとして、
サウンド・ポスト(和訳:魂柱)」の存在があげられます。
これは、響板(表板)の振動を裏板にまで伝えようとするもので、
しかも、たった6ミリしかない、ただの棒をそっと差し込み、ただ、立てるだけのもの。

イギリスのウェールズに、「クルース(crwth)」という古くからの民族楽器がありますが、
その楽器は、駒の片足が丸い音響孔の穴から下に突き抜けていて、裏板に接して立っているのです。
クルース
駒の左側の片脚が伸びていて音響孔を貫き、裏板にまで・・・。
駒のアップ
これがヒントになり、ヴァイオリン族の魂柱ができたと考えられている。


  二胡モドキ?・・・の製作

実験考古学的に、リンタロウくんのために、また、ヴァイオリンを研究している自分のためにも、
廃材を使って 「二胡モドキ」をつくろうと考えた。

音が出る仕組みをよく理解しながら、ヴァイオリンのルーツを知るためにも、ラヴァナストロンを少しヴァイオリン型に進化させたものにした。

基本的には、二胡のようなち弾き方をするものではなく、ヴァイオリン式の弾き方をするサイズや形にした。

そのため、有効弦長やストップの位置、指板の長さなどは、ほぼ4/4サイズ。

コンパネで内型をつくり、ブロックはカエデ材の板厚10mm程度の部材で、ネック側とエンド側だけに入れた。

リブ幅は、25mmにした。
リブは左右だけ、しかも板厚は2.5mmと厚め。

裏板や表板も削らず、そのまま貼るつもりだから、板厚も2.5mmほど。

箱だけなら、サンダルや草履のケースといった様子。

ともかく、当初はソーメンの「揖保乃糸」が入っている桐もどきの箱や、茶器が入っていた薄いスギ板の箱を流用して・・・と考えたのだが、
実際に弾けるサイズのことを考えると、どうしても、ネックがネックになる。


二胡のように棒状にすれば、箱は何でもいいのだが、二弦でもヴァイオリン同様、しっかりとアゴと肩でささえて弾くことにすると、どうしても棒ではいけない。

それで、基本的には実物のネックの型紙を参考にして長さを決定。
つまり、いい加減なつくりでも、ナットからブリッジまでの有効弦や、ストップまでの正しい駒の位置、また、操作性を考えてほどよい指板になるように設定してネックをつくった。
弦は、二弦ですから二胡と同じDとAがいいか、共鳴箱が小さい分、AとEの方がいいか、ここは迷うところ。
音響孔はリンツ2号同様、C字孔にした。
サイドのリブは、ネック側とエンド側の幅が25mm、中心部分が32mmと、中間だけをふっくらさせた。
そのため、チェロのアイロンで裏板、表板とも緩やかなカーブに曲げ、いちばん上の写真で分かるように、使うまでの間、腰枕のように板を挟んでふくらめている。

ということで、ボディができればネックの取り付け。
こちらは、二個めの二胡モドキの部材。

最初のものは、リンタロウくんの、夏休みの工作として、8月末までにつくらせ、彼に持たせた。・・ということで、こちらは自分用の、二個目の二胡モドキ。

最初のものとの違いは、表板の素材は一緒だけど、こちらは緩やかなアーチを形成させた。

最初の表板は横方向だけフラットだったから、弦を張り、駒を立てると、その圧力で表板が、若干、へこむ。

それで、ここはやはり駒の圧力に対する抗力があるべきだと考えた。

それにともない、リブは表板側だけは真っ平ら、水平に削り直している。

つまり、最初のケースでは、縦方向だけに「ドロ舟式」のアーチにして、リブのネックとエンド側が25mm、中間部が33mm、という具合に、表板、裏板とも中間部を4mmずつ、アイロンで熱して膨らめて対応。
結局、横方向だけでは、弦の圧力に多少へこんで屈してしまうことが分かったのと、やはり駒に対する抗力が声量にも影響したりするわけ。

こんなネックですが、スクロール・モドキも彫った。

汚れ防止ついでに、ラックで目止め。
そして指板も接着。



こちらも、とりあえず完成。安物のスチール弦のD線とA線を張りましたが、結構、よく鳴ります。
駒は、最低必用条件を満たすべく、簡単構造のものですが、カエデ材でつくりました。
自分で弾いてみて、意外に共鳴音がよく出ているのに驚きました。

じつは、この『なんちゃって二胡!』というべきか? 「ラバナストロンもどき」とでも呼ぶべきか?

ネーミングはともかく、9月のはじめ、用事があって、私を「日本バイオリン製作研究会」に紹介していただいた、
伊豆の国市在住の野田氏に会いに行った際、見ていただいたのです。

表板や裏板など、彼独特のたたき方でたたき、
そのタップトーンを聴き、「こんな形でも、よく鳴りそうだね」という評価をいただきました。

なお、バスバーの長さは20cm程度、魂柱は、直径5mmと、やや細めです。

知人や友人がパーティでもやるとき、また、暇を見て、特別なペッタンコ・ケースでもつくってもっていき、
ポシェット・ヴァイオリンよろしく、二弦のみで弾く曲を練習していって、隠し芸としても使えそうです。

弓も、本体に合わせて矢竹を使ってファーマーズ・ボウ
(farmer's bow = 農民の弓? あるいは貧者の弓?)もつくりました。


これに合うように、矢竹を使いファーマーズ・ボウをつくりました。英語では、こうした弓のことをfarmer's bow(農民の弓≒貧者の弓)といっていますが、これは、まさに、古代弓の原点ですね。



矢竹は、節節で若干の曲がりがありますが、アルコールランプで軽くあぶり、作業テーブルの角などを利用して、その曲がりのクセをとります。
できるだけ本当の矢がつくれるぐらいに、まっすぐに修整。
カエデ材を使って簡単なフロッグをつくり、毛束を固定しながら、アジャスター・ネジもちゃんと使えます。

これで、いちばん最初のイラスト「ラヴァナストロン」の絵にある弓のようになりました。
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