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鈴木バイオリン・政吉 No.W4  &  特 No.2  Dec. 2001

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◇ 鈴木ヴァイオリン 初代 鈴木政吉作 No.W4

◇ 鈴木ヴァイオリン 特 No.2

 鈴木ヴァイオリン・初代「政吉(1859-1944)作」 機種 No.W4

2001年12月のはじめ、知人からの電話。 その知人の、またその知り合いから頼まれて、古い鈴木を1台修復して欲しいとのこと。
なんでも、それは故人の遺品だったものらしく、永らく放っておかれた状態のものだが、これからは大切に保管したいからだという。

そこで、最低条件で使える状態にして欲しい、という。 ラベルは見覚えのある鈴木バイオリン、しかも初代の政吉・W4。

これと同じものを、アンサンブル仲間のS・Kさんや、教室の後輩・Gさんも愛用している。
政吉翁のものは、リメイクの最初に紹介したように、一度、経験しているので、二つ返事で承諾した。

   ◇ まずは結果から   
現状と修復後(全体) 現状と修復後(部分)

  ◇ 現状の初見  

本体
1.保存が決して悪かったというものではないが、ただ、この楽器を使っていた方が、いつも使いっぱなしのままでしまっておいたものと思われる。それは、響板表面に付着した弓から落ちるロジンの粉末をあまりふき取ることなく、そのまましまっていたためか、それが何層かに積もった状態で固まっていた。

そのために響板表面のニスの光沢を著しく悪くしていた。   とくに、指板を外した裏側には、その粉とほこりがだいぶ積もっていた。(上の写真1.2)
保存状態が悪くないという理由として、気になるようなキズそのものは全体に少なく、この古さのものとしては程度がよい方といえる。

2.何故か指板の上部、弦を導き出す「ナット」という部材がなくて、指板だけが、本来、ナットがつく位置から直接つけられていた。 (右の写真.矢印部分)

3.また、この楽器はかなり弾きこまれた様で、指板のファーストポジションに弦の摩擦による溝がついていた。(写真.丸の中)

4.気になるのが、指板の取り付け角度がかなり低く、当時の、演歌調「フィドラー」として使う分にはそれでよかったのでしょうが、 今後、使用が予想される現代音楽の楽器としては多少の問題がある。

5.もうひとつ気になることがあり、それはそれまで使っていたユーザーが、駒を正しい位置にセットしておらず、そのために、 標準より若干後ろに駒を立てていたキズが深く残っていた。

6.駒(ブリッジ)もなかったが、ペグ(糸巻き)、 テールピース(弦・緒止め)、スポアー(顎当て)など、そうした部品は問題なくそのまま使える。

7.魂柱は倒れ、中で転がっていた。


馬毛は切り取られ、スティク(棹)もロジンの影響か、ニスがところどころ変質して膨らんだり剥がれた状態。

グリップ部の化粧巻き線が半分以上ほつれ、皮(貼ってあったのは紙製)も汚くはがれかかっていたが、フロッグなど他の部分に関しては問題はなく、 毛さえ張ればそのまま使えるものだった。

 ◇ リメイク内容 

T.全体のクリーニング 指板を外して全体の汚れを落とし、磨いてきれいにした。
   その上で、アルコール系のニスを、薄く、2、3層塗って仕上げた。

U.ついていなかったナットは黒檀で新たに制作、取り付けた。

V.指板の溝をなくすために表面をごく薄く削り、平たんにした。
    指板などの、部品の制作・その詳細は、こちら →

W.やや低めの沈みがちだった指板も、指板の上、裏側とネックの上部のみ、少しすき取り、取り付け角度を若干調整。

X.響板の駒のキズは木地にまで達しており、レタッチ程度では埋まらないので、そのままニスを塗って保護幕とするだけにした。

Y.全体の部品の汚れもきれいに取り、ごく薄いニスを塗って仕上げた。

Z.既存の魂柱のは、太さが標準6mmより1mm太くて取り出しにくく、しかも長さも長い、これは標準の太さ、最適な長さに調整。
   弓も、化粧巻き線をほどこし、皮を貼り、新しく毛を張り替え、新品同様に・・。

故人の、ただの遺品のひとつだったものが、新たに楽器としてよみがえり、
修復した私自身も嬉しかったし、それに持ち主からもたいへん喜んでいただいた。




[ Repair Report ] 鈴木ヴァイオリン特 No.2 -1966 11.Mar.2002


教室の発表会の日、ピアノ伴奏の、「譜めくり」の応援に呼ばれてきていた
アンサンブル仲間のW.Yさんから、「鈴木の古いものを一台、見て欲しい」と頼まれた。

彼女は、わたしの所属する地元アンサンブルに入っている、明るく愉快な人。
近隣の街に住み、自宅で、ピアノの教室をしている方だ。 

その楽器は、何でもピアノ教室をしている彼女のお弟子さんのものだという。
翌日、お宅の方に出向く用事もあり、早速、拝見。

三十数年の昔のものらしい、いかにも古くて安そうな卵形のハードケース入り。
でも、中の楽器は保存状態が良かったらしく、程度はいい。

それでも、持ち主は、「これ、もうダメでしょうね」と彼女にいっていたという。

確かに、弓の毛は「お岩さんの乱れ髪」状態。

少なくとも2、30本が切れてバラバラしていた。
W・Y先生へのリポート

◇ メーカー 
ラベルに記されている 1966年(昭和41年)当時、鈴木バイオリンの、この[ 特 No.2 ]という機種がどれぐらいのグレードであったか、 私には分かりません。
名古屋・鈴木バイオリンの歴史の中では、初代が政吉。

このヴァイオリンは、その長男の梅雄が代表取締であった時代のものということになります。

梅雄の弟・鈴木喜久雄は疎開先の木曽福島で「鈴木バイオリン楽器」を興し、
その弟・鈴木慎一も、やはり疎開先の信州松本で「才能教育・鈴木メソード」を創始しています。

その、木曽鈴木バイオリンが1960年頃に出していたヴァイオリンの価格表が手元にあります。

それには4/4一台が、1,800円から、2,500円、3,200円、中略、13,000円までの7つのグレードが記載。

当時、高卒の初任給が、一流企業の高い方で10,000円弱程度でしたから、
今の価値にすると、5,000円がおよそ10万円程度でしょうか。

さて、本機の、目の細かなフィドラ・バック(水平のヴァイオリン杢のこと)の裏板からすると、
量産品の中でも「上クラスのグレード」のものという感触はもてます。

もともと、この鈴木バイオリンは、世界的に見ても機械的な「量産メーカー」として成功を収めたメーカーだし、
 またその当時、経済も高度成長期にあたり、輸出においても世界最大のメーカーになっていたでしょう。

(写真は、修復後のもの)そうした時代に、この楽器は生まれたものです。
 
◇ 所 見 

◆カビの汚れ 裏・表とも、ニスの表面にロジンの粉、カビが付着。

これは、使用後にロジンや手垢などをよく拭かずにケースの中に放置して置いため、
そこに付着した有機物を餌にカビ(ほとんどが白カビ)が発生したものと推測できます。

細かなところに、2、3カ所のキズがあり、これはニス塗りのレタッチで埋まります。

◆駒は外れていましたが、そのままでも使えます。しかし、正しいフィッティング(削り)がなされていません。

下の写真は、現物をそのままスキャンしたもの。現状のものは、指板の延長線から見ても上のアーチがやや強く、
移弦には弓の移動量(角度)が大き過ぎ、演奏しにくいということになります。

また、高さも少し高過ぎます。高過ぎるということは、指で押さえる量も多くなり、
正しいポジションで正しい音程にはなりません。また、厚味も厚過ぎ。

こうした、駒の「高過ぎ」や「厚過ぎ」、それは結果として「重い」ということになり、
反応の悪い、こもりぎみの、 ミュートをかけたような音になってしまいます。

最初からついていた駒 削り直した後の駒

そのために、「厚みの調整」や「肉そぎ」といって、不要部分を削り取ることも追加して、私なりに正したものが写真の右。

全体の形、それに線のひとつひとつにも、フィット・マンの美意識があらわれるところ。

これで、繊細な弦楽器の部品にふさわしい形として生まれ変わったでしょ (^^)。

◆ペグ 永い間使われなかったため、ギシギシしたきしみがあり、
        実用にはならないので、実際に使えるような、使いやすいようにしました。

◆弦は、古くてよくありませんので、ドミナントに替えます。

  ◆弓は、毛替えするだけで、ほとんど問題はありません。

◆ケースにも、ところどころカビが生えていました。
 
金属の止め金部分に錆びがでています。また、表面に貼りつけてあるレザーのところどころに、

剥がれやほつれが見られます。これらは、体裁の良いように修復しました。

また、あご当てとテールピースの接触部分も削って調整しました。

以上が、お預かりした時点での所見と修復内容で、レポートと同じです。

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