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RepairV repairVn1 表板に魂柱が突き抜けたヴァイオリン  04-10-6

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ある日のこと、・・・。知人で、N市で教室をやっているT先生(ご婦人)からの電話。

なんでも、生徒の一人がヴァイオリンを床に落としてしまい、表板を割ってしまったので急いで直して欲しい・・とのこと。その場所はきしくも、駒が真下になる位置で落ちたものだから、駒の脚で響板を強く押しつけたようなもの。
だから反対に、中から見たら、ちょうど魂柱が表板に突き抜けるように・・・という感じ。

楽器は鈴木の量産品、パフリングでさえ描いたものだから本当に安いもの・・ということで、 あまり手間ひまをかけないで、できるだけ安く直して欲しい、という要望。

蓋を開けて、しっかり貼り付け、そして仕上げるのなら100%の修理といえるでしょうが、剥がしてから表板の「割れ」を直し、また貼って・・・では手間がかかりすぎてしまう。

そこで、そのままの状態で治すことにしたのだが・・・、始める前にいろいろ考えた。

結局、上から駒が押しつけて凹んだり、割れたところであるから、その真下に、例えば直径2センチほどの、魂柱のようなものが立てられればいちばん理想の形。
そのことで、凹みも浮き上がるはずだから、パッチ程度の当て木1枚と、直径5mm程度のスポットでいいから、均等な力で持ち上げる補助具があればいいことになる。
そして、右の写真のような修理・補助用具からつくることになった。
この、上の写真・右は、ジャンク品の中にあった4ミリボルトの長いものに、L字型の木のアームをつけただけのもの。

これをエフ字孔の間から中に突っ込み、魂柱の位置、裏板と表板との中間を突っ張らせるようにやや斜に立て、
ボルトをまわして、割れて凹んだ部分を裏から持ち上げたり、貼ったパッチを圧着させる簡易ツール。

使い方は、エフ字孔から差し入れて、まず、所定の場所のところに立てて、柄になっているボルトを回す。

ネジが締まる方向に回すとアームがもち上がってきて、その先の部分に所定のテンションを与えてくれる、という構造。

ただ、アームを固定する仕掛けがありませんから、目打ちとか竹串の先で回転するのを押さえたりして、
アーム自体が回らないようにしてテンションをかけます。
(その辺がちょっと原始的だけど、↑ サウンドポスト・セッターだってその目的に使えるよね。)

下のものは、エフ字孔の間から差し入れ、表板の裏側からニカワを塗りつけるための、専用・刷毛。

これには、園芸用の、直径2mmのアルミ針金を使った。

まず、アルミの先端を鉄の台の上で強く金槌でたたくと、たたいたところだけが楕円形のような形になる。

先をニッパーで平らにカットし、不用になった刷毛の毛を、適量、まとめて糸で縛り、アルミの平面部分に乗せて丸め込む。

さらに糸でグルグルしばり、クリアーボンドで固定すれば出来上がり。

これをエフ字孔から差し入れ、表板の裏側からニカワを塗るのだから、ほどよい曲線に曲げて使うようになる。

たたくと簡単に平らにできるということと、あとで自由に曲げやすい、なおかつ ほどよい丈夫さ」いうことからアルミ製の針金を使った。

まず割れ目に、ニカワを裏表から十分しみ込ませ、そして押したり引いたり・・・といっても、引くことはできませんけどね。

そうすることで、ニカワの成分が割れた板の中までしみ込んでいく。

割れ目の裏側からは、以前、修復したことのあるコントラバスやヴァイオリンの、割れ修理のように、パッチを貼って対応。

その場合、接ぎ目を確かなものにするために薄くスライスしたカエデ材を使い、目方向を表板や裏板の方向とは直角になるように貼る。
それぞれの小片は、正方形もしくは長方形にして、断面が平たい台形になるように大きく面をとり、それぞれの板と完全密着させる。

そのテクをそのままここでも使い、ベースの修理の際、裏板の割れを治したのが下の写真、今回もこれでいきます。

そのベースには、表板・裏板とも、中央の接ぎ合わせには写真のような、
サポート用の小片((パッチ)が貼ってありました。

こちらは、割れ」た部分をしつかり貼った後から、サポート用として
さらに、小片を貼り付けたもの。

パッチは、縦に長方形になっていても、その木目は横方向になっている。

ニカワでしっかり貼り付けても、どうしても魂柱の部分のふくらみが平らにはならず、残念ながら少し盛り上がってしまった。

ここは、やむなくペーパーで平らにするしかありません。
・・・ということで、ペーパー掛けした後。
そして、ニスのレタッチ仕上げしたのが右の写真。

反対側からはミラーを入れ、照明を当て、脳外科医にでもなったつもりで、
この用具を使って小さな補助材を貼り付けたわけです。

すでに、前の晩、一旦は割れ目を貼ってありましたし、念のために、ただ、
小片をちょっとしたテンションをかけて貼るだけのものですから、
こんな程度の道具?でも、十分な役割を果たしてくれました。


(実はこの写真、作業中は夢中でしたから、撮り忘れていたので、ニスを1、2回塗ってから写したもの。)

魂柱のあたりに貼ったこの補助材は、当初の写真でお分かりのように、かなり突き抜けた状態で盛り上がっていましたから、
ここは少し大きめの、2×3cm・厚さ1mmほどの部材を使い、カバーしました。

貼りながら、ヘロン・アレンの著書にある『魂柱の位置を1コインほど、「でべそ」のように厚く削って音量をあげる・・・』
・・・なんて話しを思い出しながら作業をしていました。

所詮、6年生の男子生徒がレッスン用に使えればいい・・という分数系だし、そのように処置をする許可をもらっていましたから、
生命線ともいえる魂柱付近の穴?でも、パッチのようなサポート部材を貼って直したのです。

さて、この業界では、ヴァイオリンに関しては、魂柱周辺部の割れは致命的、というように聞いてきました。

ところが、あちらのネットでゲットしたヴィオラで、そのように修理してある古い楽器にもふれたことがあったのです。
驚くことに、それはドイツ製の古いものだったことや、上手くやり遂げたせいか、その真意は分かりませんが、ほんとうによく響いてくれたのです。

その後、魂柱周辺部に対応させる「魂柱パッチ」という言葉もあったり、そのヴィオラの修復後の鳴りが決して悪いものではなかったことなど、
それ以来、私も一度だけですが、同様の方法で修理したことがありました。
 

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