cello_repair5 真っ二つに割れてしまったチェロの修復  July 09 HOME

メーラーさんのおひとり、古楽器のアルペジオーネを復刻製作しているO氏のチェロが、
輸送中の事故で、不幸なことに 真っ二つに割れてしまい、その修復を依頼されたのです。
キャンバスのソフトケースだったことや、混載による荷崩れが重なった、じつに不運な出来事だったのです。


じつは、O氏は4月の下旬、二日がかりで泊まりで我が工房においで頂いたのです。
自作の古楽器と、この古い鈴木のチェロふたつでは荷物がたいへんですから、
あらかじめ宅配便で送ってきました。
もちろん、彼も製作仲間ですから、弦楽器談義にはつきませんでした。

上の写真は、その際に筆者が試奏しているのが、この問題のチェロ。

古い分、枯れた音で、O氏ご自身も「拾いものをした」と喜んでいたものでした。
翌日、駅まで車で送りする際、宅配便の事務所に立ち寄り、ご自宅まで発送の手配を・・・。
ところが、先方に荷物が到着して空けてみたら何と、・・・でした。

   ◇ 持ち込まれたときの現状   
ちょうど、サドルの右端から魂柱の近くを通り、全体が無残にも大きく割れてしまっています。 サドルの左側もクラックがあるし、エンジピンの左右のリブにもクラックが入り、しかもエンドブロックから剥がれていました。
輸送中のことですから、想像するしかありませんが、荷崩れしたそのソフトケースの上に、よほど重い荷物が落ちたとしか考えられません。 ネックブロックのリブも、ご覧のように剥がれていました。
現状をチェックしたら、丁寧に表板を剥がします。
   ◇ 表板を剥がす   
エンドブロックも表板にはついていましたが、裏は半分が剥がれ、そのため裏板の中央の接ぎ合わせも下20cmほど割れています。 バッチごと、見事に割れています。
とくに、ライニングも割れたり取れたりしていましたが、チェロにギター式のライニングははじめて見ました。
ニカワの乾燥時間の関係で、全体を一気に直すというようなできませんから、やれるところから、順次、治していくしかありません。

まず、裏板の割れから接着ですが、割れてしまったパッチを丁寧に削り取り、それから貼り合わせます。


貼り合わせた後から、補強の目的で、再度、パッチを貼って補います。

この写真では、そのついでに、側板上部のライニングの剥がれを貼りなおしているところです。
   ◇ 表板・割れの接合   
いよいよ表板の接合ですが、その前に、まずサドル脇の小さなクラックから補修しなければなりません。

細かなところが不安定なままでは、正確な接合ができないからです。

できるだけ表側が段差がつかないように、前後、二カ所クランプ(締め具)し、同時にパッチも一カ所、貼りました

真ん中も、これくらいの割れだと、表板のアーチ(曲線)を正しく保持するために、特殊なギブスが必要になります。

なぜなら、表板の接合で左右から圧力を加えますから、どうしても上に盛り上がろうとするからです。
その盛り上がりは、ジョイント面にも影響し、アーチの内側はしっかりついていても、外側は、ほんの僅かでも隙間ができてしまいます。

その隙間は、あとからオーパーニスを塗っても、継ぎ目として、はっきり目立ってしまうのです。
そこで、以前、修理に使ったチェロ用のギブスを、このチェロのアーチにあわせ、修正するところから始めたのです。

ヨーロッパなどの本場では、名工作の銘器の場合、石膏の大きなギブスを作ることがあることは知っていましたが、 ここでは、単なるジョイントの補助ですから、要所要所、押さえてあれば十分、という考えから、このような簡単な手法をとっています。

この写真では、手前側の二つだけは、すでにカーブ調整を済ませています。 ですから、三番目のものと比べていただくと、左側にくりぬいてある丸が、一部、欠けた状態になっていますね。

とりわけ4番目のものは、逆光線ですから、開いた部分の隙間がはっきりお分かりいただけると思います。


中央に見られる金属は、「ハタガネ」という左右から圧力をかける治具。


これだけでは、やはりその部分だけを「盛り上がる」傾向になります。

そこで正確なジョイントをするためには、特殊なクラック・クランプも
必要になり、その製作からしなければなりません。

これには、右の写真のように、全ネジボルトと、
左右の押さえ具があれば済むから、ここは得意の木工で作りました。

6ミリの全ネジボルトだと、表板のアーチに合わせ、簡単に曲げられます。

そのボルトには、園芸用の塩ビ製の消毒ホースを利用し、
表板に接する面をカバーして養生しています。


左右の押さえには、カエデ材をご覧のように、
エッジ部分をくわえ込むような構造にすればOK。
ボルトの片側にはストップ・ナット、もう一方には蝶ナットで簡単に締め付けられるようになっています。
これなら、ただ、左右から押しつけるだけのハタガネとは違い、アーチに沿って均等に加圧することができます。

治具がそろえば、後は貼るだけ。

そのアップの写真です。
この三本のクラック・クランプのおかげで、きれいにジョイントすることができました。

ジョイントがすんだところで、パッチで補強。

しかし、場所が魂柱の延長線上に近かったので、ここではあまり
質量を増やしたくなかったから、あえて、薄いカエデ材を使った。

このパッチ・クランプも今年になってつくったもの。

ラワン材をコの字にカットしたものに、5mmボルトで締め付けます。

上に貼られている古いスプルースのパッチから比べ、ずいぶん
薄いのが分かると思います。
上から下まで、6カ所、パッチを貼り、これで表板の割れの修復が完了。

表板だけのことですが、本体に貼る前には、メタノールで汚れをきれいに
クリーニングをし(この下の写真)、薄いオーバーニスを一度、塗る。


すっかり、見違えるようにきれいになりました。
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