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文字通り「総身創痍」のチェロの修復 Y HOME



フィッティング・ブリッジ
ヴァイオリン族の楽器について、フィッティングの中でも、私は、駒はもっとも重要な部品という認識でいます。
なぜなら、それは弦の振動を響板に伝えるための途中の部品であり、
その適否により、音色まで完全に支配するものだと考えているからです。(右の写真の駒が、このチェロに付いていたもの。)

何度もリペアーした、そのどこかの国の修復師が削ったものか?
あるいは、かなり古そうだし、また、余分な肉削ぎをあまりしていないので、素人の、以前の持ち主のオーナー自身がつくったものか?
でも、これは一応、フランスの一級品・Aubert社製のものですから、
これを再利用することにしました。

以前、ヴァイオリンの駒でしたが、外国の業者からオールドといわれるものを買ったことがありますから、これはこれで価値があるものだと思う。

そのオールドは、古い民家の家具や建築材などの古材を入手し、それから、選別してつくったことがかかれていましたが・・・、真偽のほどは分かりません。
付いていた駒
駒の厚さ 左の写真、上が、そのAubert社製のもの。この社のものには、
さらに☆マークが付いていて、一つ星から三つ星まで、 まるでレストランのグレードのような階級が付いています。
でもまぁ、これは☆がありませんから、ノーマーク品になります。
真ん中はノーブランドで、これもケースの中に入っていたものです。
注目すべきは、トップの厚さが平均して分厚いのということです。
これこそ、新しいし、オーナーのS氏ご自身がつくったものか?
明らかに、上の人とは違いがあります。

ちなみに、下は、私が削ったもの。この写真では分かりませんが、 A線のトップには、小さな皮を貼ってあります。ここでも、トップの厚さを、高弦側を薄く、 低弦側を厚くしていることに注目して下さい。
それは、高弦側の弦は細く、質量も軽く、また、振動した際、 周波数は高くても、弦自体の振幅は少ないことになります。
そうした振動を伝えるためには、もし、駒が必要以上に厚かったり、
重かったとしたら、ミュート(弱音器)をつけたと同じで、
その分、エネルギーのロスになります。
一方、低弦の方は、弦が太く、質量も高く、振幅もずっと大きくなりますから、 そのもつ振動のエネルギーは大きいわけです。
それを的確に伝達するには、ある程度の厚さや質量も必要だと考えるわけで、 それで、厚くしてあるのです。
その古いAubertの目方を量ったら、ご覧のように18.5g。
左側・未加工のものだと22.0gもありました。
重い!
足の調整
ちょうど、その頃のメールのやりとりで、オーナーのS氏から、足をアーチングに対応させるにはどのようにしていますか?という質問があり、 あえて、この駒削り・ツールを使いましたが、普段は、ナイフだけで処置。
足の調整 
これは、ご覧のように、駒を挟んでまず、垂直に立ててしっかりと支え 下に敷いたペーパーの上でゴロゴロと上下に転がすと、表板のカーブに駒の足が自然と削られて合い、それでならします。
足の大きさ、太さ
上は、対比のために乗せた未加工品、下は加工済みのオールド。
ここでも高弦側の足(向かって左)は、少しだけ薄めです。ここで、最初の写真と比べて見て下さい、股下も、くり上げて削っています。
足の大きさ、太さ
未加工のものは、大きな足に、まるでどた靴を履かせたような感じ。
それから比べると、加工品はまるでバレー・シューズのようでしょ。
しかも、周囲のそれぞれの角も、丁寧に、面を取ってあります。
軽く!
この、台所用の秤では、小数点以下は0.5g単位といういい加減なもの。
でも、表示はご覧のように16.0g、まぁまぁの結果になりました。

賢明なる読者諸兄に、ぜひ、実験していただきたいのですが、
駒に、余分に2.5gの事務用のクリップか、1円玉3枚程度をセロテープで留め、弾き比べていただきたいのです。
たったの2、3gのことでも、ミュートをつけたときと同じように、
こもった、小さな音になることがお分かりいただけると思います。
そのことがお分かりいただけと、ここで私が力説している
「肉削ぎ」の必要性が認識いただけると思うのです。
それで、別の所においてある精密秤で量ってみたら、15.85gでした。
精密秤で量ってみたら・・・
たった、こんなものでも、2.5g以上もダイエットしたことになります。
その結果は、かなりレスポンスの向上につながったはずだと思います。
魂柱 (サウンド・ポスト)
魂柱
魂柱には、できるだけ目が詰んだ、かつ重くない、
組織の髄線がまっすぐに通ったスプルースが理想とされています。

ここでいう目方もまた、駒の項で説明したように、
エネルギー伝達のロスにつながるはずのものです。

たまたま、現在、同時に修復中の、
Y氏の国産・量産品には、ずっと目が粗いスプルースが使われていました。

ところが、なぜか本器には木の髄線(組織)が曲がっていて、
スプルースよりずっと赤みが強い、米ヒバかツガのような、
どうやら針葉樹には違いないのですが、別の木が使われていました。

それも、チェロだと普通なら直径が11mmにしますが、
これは10mm弱しかありません。
ガット弦時代のオールドには、バスバーも短くて細かったり、
魂柱だって細くて当たり前でしたが、このチェロは、
そんな古いままのものだったのでしょうか?
でもまぁ、魂柱も、重要なものには違いありませんが、駒から比べたら、
付いていないよりは、割り箸程度のものでもつけた方がいい、
という程度にしか私は考えていませんから、素材が違っていても、
太さが多少、細くても、それほどの影響はないとは思います。

反対の見方をすれば、自分自身の技術レベルが、
それまで達してといないこともあり、ヴァイオリンでは、
何度か取り替えたり、試したことがありましたが、
思うような結果が得られなかった・・・というのが事実です。

しかしながら、いつも考えて実行していることですが、
少しずつの、その結果の積み重ねも大切ですから、
今回も、少しでもいいだろうと思われる方法をセレクトしてはいます。

そのため、ここでも国産の量産品よりはいい素材のものを使いました。
上の写真では分かりにくいかも知れませんが、

新規のものは、Y氏のものより5割程度、年輪の目がつまっています。
駒の重心は? 本によっては、魂柱は駒の右足の真裏・・・というような
書き方をしているものもありますが、私は、実際の駒の重心は、
もっと外側にずれていると確信しています。


では、どれくらいかというと、数値では示すことは難しいのですが、
写真のように、少なくとも、駒の足の55:45程度で、外側にずらしています。

手前の白い紙は、お手製の魂柱ゲージ、簡単につくることができて、
誰でも、間違いなく正しい位置が目視・認識できる、というすぐれものです。
それか、実に簡単で・・・、まず、写真のようなボール紙の中心を半分にカットし、所定の位置に魂柱とほぼ同じ丸を描いておきます。そしてその右側の、半分だけのアール部分(写真では下)を切り抜くだけ。

それを下の写真のように、片側だけをエフ字孔から中に入れ、その切り抜いた凹みで魂柱の位置を手探りするのです。

すると、ガタンの反応があり、その円の中心が、実際に入れた魂柱の中心というわけです。
魂柱ゲージ
魂柱の位置 いろいろと音を聞きながら試した結果、今回は当初、駒の中心から19mm 後ろに魂柱の中心をもっていきました。その後、お送りする直前にもう一度調整し、20mm後ろで決定しました。

ちなみに、標準位置はチェロの場合、駒の後ろ18mmぐらいです。
もし、表板が少し厚めの場合はそれよりも後ろに、薄い場合は駒に近づけて調整します。

また、A線を、もっと華やかで明るい音色にしたい場合は駒に近づけ、キンキンというか、ギスギスしていて柔らかくしたい場合は離します。
完成
完成  

ペグ穴のブッシングも、支給品のジュジュベ(ナツメ)のペグ交換も、
ご覧のようにできました。

結構、彫りが深い表情のスクロールで、この彫り方は筆者の好み。

割れ目が目立ち、筋が目立って汚かったリブもきれいになりました。

多少の、ニスの濃淡はなかなか消えるものではありませんが、なんとかここまで修復できました。

この裏板のカエデ材も、リブ材も、特にセレクトされたものではなく、
重さや固さからすると、根っこに近いものだと推定しています。

ですから、特にきれいなフィドラー・バック模様は入っていません。
そのことから、東欧の、どこかの国の産ではないかと想像しています。
 
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