cello_repair7-6 Back to P5 |
文字通り「総身創痍」のチェロの修復 Y | HOME |
フィッティング・ブリッジ | |
ヴァイオリン族の楽器について、フィッティングの中でも、私は、駒はもっとも重要な部品という認識でいます。
なぜなら、それは弦の振動を響板に伝えるための途中の部品であり、 その適否により、音色まで完全に支配するものだと考えているからです。(右の写真の駒が、このチェロに付いていたもの。) 何度もリペアーした、そのどこかの国の修復師が削ったものか? あるいは、かなり古そうだし、また、余分な肉削ぎをあまりしていないので、素人の、以前の持ち主のオーナー自身がつくったものか? でも、これは一応、フランスの一級品・Aubert社製のものですから、 これを再利用することにしました。 以前、ヴァイオリンの駒でしたが、外国の業者からオールドといわれるものを買ったことがありますから、これはこれで価値があるものだと思う。 そのオールドは、古い民家の家具や建築材などの古材を入手し、それから、選別してつくったことがかかれていましたが・・・、真偽のほどは分かりません。 |
|
左の写真、上が、そのAubert社製のもの。この社のものには、
さらに☆マークが付いていて、一つ星から三つ星まで、 まるでレストランのグレードのような階級が付いています。 でもまぁ、これは☆がありませんから、ノーマーク品になります。 真ん中はノーブランドで、これもケースの中に入っていたものです。 注目すべきは、トップの厚さが平均して分厚いのということです。 これこそ、新しいし、オーナーのS氏ご自身がつくったものか? 明らかに、上の人とは違いがあります。 ちなみに、下は、私が削ったもの。この写真では分かりませんが、 A線のトップには、小さな皮を貼ってあります。ここでも、トップの厚さを、高弦側を薄く、 低弦側を厚くしていることに注目して下さい。 それは、高弦側の弦は細く、質量も軽く、また、振動した際、 周波数は高くても、弦自体の振幅は少ないことになります。 そうした振動を伝えるためには、もし、駒が必要以上に厚かったり、 重かったとしたら、ミュート(弱音器)をつけたと同じで、 その分、エネルギーのロスになります。 一方、低弦の方は、弦が太く、質量も高く、振幅もずっと大きくなりますから、 そのもつ振動のエネルギーは大きいわけです。 それを的確に伝達するには、ある程度の厚さや質量も必要だと考えるわけで、 それで、厚くしてあるのです。 |
|
その古いAubertの目方を量ったら、ご覧のように18.5g。 左側・未加工のものだと22.0gもありました。 |
|
ちょうど、その頃のメールのやりとりで、オーナーのS氏から、足をアーチングに対応させるにはどのようにしていますか?という質問があり、 あえて、この駒削り・ツールを使いましたが、普段は、ナイフだけで処置。 |
これは、ご覧のように、駒を挟んでまず、垂直に立ててしっかりと支え 下に敷いたペーパーの上でゴロゴロと上下に転がすと、表板のカーブに駒の足が自然と削られて合い、それでならします。 |
上は、対比のために乗せた未加工品、下は加工済みのオールド。 ここでも高弦側の足(向かって左)は、少しだけ薄めです。ここで、最初の写真と比べて見て下さい、股下も、くり上げて削っています。 |
未加工のものは、大きな足に、まるでどた靴を履かせたような感じ。 それから比べると、加工品はまるでバレー・シューズのようでしょ。 しかも、周囲のそれぞれの角も、丁寧に、面を取ってあります。 |
この、台所用の秤では、小数点以下は0.5g単位といういい加減なもの。 でも、表示はご覧のように16.0g、まぁまぁの結果になりました。 賢明なる読者諸兄に、ぜひ、実験していただきたいのですが、 駒に、余分に2.5gの事務用のクリップか、1円玉3枚程度をセロテープで留め、弾き比べていただきたいのです。 たったの2、3gのことでも、ミュートをつけたときと同じように、 こもった、小さな音になることがお分かりいただけると思います。 そのことがお分かりいただけと、ここで私が力説している 「肉削ぎ」の必要性が認識いただけると思うのです。 |
それで、別の所においてある精密秤で量ってみたら、15.85gでした。 たった、こんなものでも、2.5g以上もダイエットしたことになります。 その結果は、かなりレスポンスの向上につながったはずだと思います。 |
魂柱 (サウンド・ポスト) | |
|
魂柱には、できるだけ目が詰んだ、かつ重くない、 組織の髄線がまっすぐに通ったスプルースが理想とされています。 ここでいう目方もまた、駒の項で説明したように、 エネルギー伝達のロスにつながるはずのものです。 たまたま、現在、同時に修復中の、 Y氏の国産・量産品には、ずっと目が粗いスプルースが使われていました。 ところが、なぜか本器には木の髄線(組織)が曲がっていて、 スプルースよりずっと赤みが強い、米ヒバかツガのような、 どうやら針葉樹には違いないのですが、別の木が使われていました。 それも、チェロだと普通なら直径が11mmにしますが、 これは10mm弱しかありません。 ガット弦時代のオールドには、バスバーも短くて細かったり、 魂柱だって細くて当たり前でしたが、このチェロは、 そんな古いままのものだったのでしょうか? |
でもまぁ、魂柱も、重要なものには違いありませんが、駒から比べたら、 付いていないよりは、割り箸程度のものでもつけた方がいい、 という程度にしか私は考えていませんから、素材が違っていても、 太さが多少、細くても、それほどの影響はないとは思います。 反対の見方をすれば、自分自身の技術レベルが、 それまで達してといないこともあり、ヴァイオリンでは、 何度か取り替えたり、試したことがありましたが、 思うような結果が得られなかった・・・というのが事実です。 しかしながら、いつも考えて実行していることですが、 少しずつの、その結果の積み重ねも大切ですから、 今回も、少しでもいいだろうと思われる方法をセレクトしてはいます。 そのため、ここでも国産の量産品よりはいい素材のものを使いました。 上の写真では分かりにくいかも知れませんが、 新規のものは、Y氏のものより5割程度、年輪の目がつまっています。 |
|
本によっては、魂柱は駒の右足の真裏・・・というような 書き方をしているものもありますが、私は、実際の駒の重心は、 もっと外側にずれていると確信しています。 では、どれくらいかというと、数値では示すことは難しいのですが、 写真のように、少なくとも、駒の足の55:45程度で、外側にずらしています。 手前の白い紙は、お手製の魂柱ゲージ、簡単につくることができて、 誰でも、間違いなく正しい位置が目視・認識できる、というすぐれものです。 |
|
それか、実に簡単で・・・、まず、写真のようなボール紙の中心を半分にカットし、所定の位置に魂柱とほぼ同じ丸を描いておきます。そしてその右側の、半分だけのアール部分(写真では下)を切り抜くだけ。 それを下の写真のように、片側だけをエフ字孔から中に入れ、その切り抜いた凹みで魂柱の位置を手探りするのです。 すると、ガタンの反応があり、その円の中心が、実際に入れた魂柱の中心というわけです。 |
|
いろいろと音を聞きながら試した結果、今回は当初、駒の中心から19mm 後ろに魂柱の中心をもっていきました。その後、お送りする直前にもう一度調整し、20mm後ろで決定しました。
ちなみに、標準位置はチェロの場合、駒の後ろ18mmぐらいです。 もし、表板が少し厚めの場合はそれよりも後ろに、薄い場合は駒に近づけて調整します。 また、A線を、もっと華やかで明るい音色にしたい場合は駒に近づけ、キンキンというか、ギスギスしていて柔らかくしたい場合は離します。 |
|
完成 | |
ペグ穴のブッシングも、支給品のジュジュベ(ナツメ)のペグ交換も、 ご覧のようにできました。 |
結構、彫りが深い表情のスクロールで、この彫り方は筆者の好み。 |
割れ目が目立ち、筋が目立って汚かったリブもきれいになりました。 |
多少の、ニスの濃淡はなかなか消えるものではありませんが、なんとかここまで修復できました。 |
この裏板のカエデ材も、リブ材も、特にセレクトされたものではなく、 重さや固さからすると、根っこに近いものだと推定しています。 |
ですから、特にきれいなフィドラー・バック模様は入っていません。 そのことから、東欧の、どこかの国の産ではないかと想像しています。 |
Repair-index | Back to 5P | HOME |