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知人に貸せるための 小さなヴィオラの修復 Oct.'12. HOME


つい先日のこと、仲間たちとのアンサンブルの練習で、今年の席順はT女史と並んで弾くことになった。
彼女、ときおり『腕が痛い、肩が張るゥ〜ッ!』とおっしゃりながら、顔をしかめている。

そこで、『ちょっとその楽器を見せて〜』と、手に持つと、自分の愛用品と比べてみて、本当に、重いし、大きい。
とくに、肩当ては金属が多く使ってあり、それだけでも結構な目方がありそうだった。
『軽くて、小さいので、余っている楽器が何台かあるよ』といったら、『貸してほしい』、そして『では、お貸ししましょう』ということに・・・。

お仲間に借りていただくわけですから、全体をチェックしたり、場合によっては、
少しでも弾きやすいようにフッティング等の調整も必要になります。
さて、賢明なる読者の皆さんはお分かりのように、ヴァイオリンのサイズはほぼ355mm前後、
それから数ミリしか違わないのが普通です。
ところがヴィオラは、同じフルサイズでも、380mmくらいの小型のものから、450や460なんて大きなものもあるようだ。

我々のお仲間たちは、最初からヴィオラをやる人は少なく、ヴァイオリンからの転向組が多いのです。

そのために、握ってみて、あまり抵抗なく使える小型のサイズが好まれています。
ただ、少しでも内容積の大きな方が、低弦の特性は良くなります。
ヴァイオリンのG線より、5度低いC線だと、理想の大きさとしては、計算上、450mmは欲しいと言われていますが・・・。
 

重さとサイズの検証


手持ちの楽器の中から、軽くて、小さなものをピックアップ。

    サイズ 目 方 アッパー インナー ローア

リブ巾

ドイツ製a 380mm 593.5g 192mm 126mm 236mm 38-40
チェコ製  393mm 547.5g 180mm 120mm 222mm 34
すみや製2 399mm 658.0g 192mm 128mm 236mm 32-36
ドイツ製b 393mm 610.5g 184mm 126mm 226mm 34-35
すみや製1 397mm 686.0g 194mm 127mm 244mm 36-40
リブ巾:小さい方はネック側、大きい方はエンド側。Bだけはフラット。
 サイズこそ小さいがリブ巾を広くとった設計で、さすがドイツ人!
サイズは、ドイツのものより少し大きいが、各バウツの値やリブ巾が少なく、内容積はあまり多いとはいえない。
自作のものは、大きさも少し大きいし、エッジ部がちょっと分厚すぎたため、目方も少し重い。
これも、多分、ドイツ東部のチェコに近いSaxsony地方、Markneukichenあたりのつくりでは・・・、と推測している。  
筆者が最初につくったヴィオラ。ヘンリー・A・ストローベル氏設計による。
さて、製作者の習い性で、すぐ素材の価値や価格を見てしまうのだが・・、このドイツ製aのカエデ材だが、それほど高級なものではない。(フレーム[斑]の入り方が少ない。)
ただ、それ以前に、これは弾きやすさとか、低弦の音色などは納得がいくもので、筆者のお気に入りの一台。現に、昨年の、音楽祭でのアンサンブルは、この楽器で参加した。
この楽器のラペルは、
E.R. Pfretshner Mittenwald OBB. 1967 West Germany となっている。
Dのドイツ製B もお気に入りの一台。
E: は、使えるようにするまでは、本当に手にかけたもので、入手した当初から、ひどく割れていたり、無残なものだった。詳しくは後述するが、表板は魂柱の延長で割れがあり、反対に、競争相手が少なく、とても安くゲットできたものであった。
ここで、特記しておきたいことは、このドイツ製A(下の写真)の数値。
ボディ・サイズは小さいのだが、チェコと比べて13mm少ない分、各バウツを大きめにとってあり、 さらに、リブ(側板)の巾が何ミリか広いので、全体の体積はかなり増えていることが分かる。スピーカー・ボックス同様、内容積が大きい方が低音特性はよくなるのは当たり前のこと。ヴァイオリンよりヴィオラ、ヴィオラよりはチェロの方が、低音が良く響く。

ドイツ製のヴィオラ
A: ドイツ製 a
上のドイツ製や、下のチェコ製は、いずれもアメリカのネットオークションe-Bayで落札したもの。身体が小さいボクの入札(bid)する基準は、まずは大きさ。

つねづね自分が使うことを考え、16インチ(406.4mm)以下の大きさで、そこそこの古さがあるもの。

そして、自分が愛用するのだから、全体のプロポーション(バランス)が良く、できるだけ美しい形のものを・・・というように選定している。 
その上、多少、壊れていて、普通の人がそのままでは使えないもの。
つまり素人が入札しないものは、競争率が低い、ということになる!
その反面、今度は、修理して「オールドとして売ろう」とするプロとの競合になるのだが、専門屋さんは、素人とは違い、あまり馬鹿な値段はつけません。 (素人さん、ごめんなさい!)

さて、せっかくいいものを選んでも、中には神経質な日本人には売らない・・・という出品者もあり、 [Ships to World−wide]= 「世界中、どこにでも送る」と、書かれていないと買えませんから要注意!


A: ドイツ製 a [ After ](修復後の現在の姿)
あっちもこっちもバラバラ
こちらは、今年、アンサンブルの練習に持ち出しているもの。
やはり、お気に入りの一挺で、これも e-Bay でゲットしたドイツ製。
だが、これはひどい壊れ方をしていたので、ものすごく安く手に入れた。
割れて、割れた切片が写真のように外れてしまうほど・!の壊れ方。

しかも、その割れは、表板を全部はがしてみると、上までの全面にわたっていたし、しかも、とりわけ中央に近い割れは「魂柱の延長線」にきわめてに近く、 「魂柱パッチ」と呼ぶ、特殊な貼り方をして修復されていた。

魂柱付近の表板の割れは、ヴァイオリン族にとってはよく「致命的」のように言われてきていますが、今回のこれを実際に手にし、検証してみて、 それは、やり方や方法によっては、「一概に断定できない・・・」、
あるいは、「断定すべきできない」、ということを確信しました。

その魂柱パッチについては、リンクのページ・下部に詳しく記述。

さらに、そのパッチ痕から見ても、何度も何度も修復したことが覗えるものでした。

そのことは、とりもなおさず、この楽器の、歴代のオーナーさんたちは、この楽器に対し、大変な思い入れがあり、修理・修復の費用を惜しまずに手を入れ、大事にしていたことが覗えるもの。

それが、高いものだったからか、音色によるものか、
あるいは愛する人の遺品であったのだろうか・・・。
ともかく、それまでして大切にしてきた楽器だったのである。

・・・というわけで、以下は、その修理の痕跡です。
割れは、上まで通っていたし、
表板を外してみたところ、至る所、パッチだらけ・・・。

[ Before ]
コーナー部先端の「欠け」を補填し、「貼り付け」、「成形」。

先端の欠け 先端の欠け
コーナー先端の欠けは、爪楊枝のダボピンでしっかりと貼り付ける。
ペーパーできれいに成形して仕上げる。


着色し、ニス仕上げを・・・すると、ご覧のようになります。

たとえ、年輪、1−2本分の不足であっても、表板は人でいうなら顔!!

表板・縁の「欠け」も・・・
爪楊枝のダボピンも打てないので、洋裁のマチ針で固定してニカワづけ。

年輪1本分のことですが・・・、

ペーパーがけし、着色し、ニスを塗るとほとんど傷が分からりません。

ほらッ、ネ!!

こちらのヴィオラは、自作の作品としては2台目のもの。

当初は、(Vn)先生の、小型でもよく鳴るヴィオラをまねてつくるつもりでした。 そしてお願いして、先生の目の前で、紙を使って型を取らせていただき、とりあえずつくる準備はしたのです。

まず、全体の型紙をボール紙でしっかりとつくり、少し離れてよくよく見たのですが、どうひいき目に見ても、あまりいいプロポーションではないのです。(音はいいのにね。美人のお師匠さん、ゴメン!)

そして、あっちを足し、こっちを凹ませ、
なんとか自分の好みの形につくり変えたのです。
 
というわけで、これはまったく「すみやオリジナル」モデルになりました。

詳細はこちらの製作ページへ
 
そのページには、現物を傷にしないように、薄い紙を使って型紙をとる方法を紹介しています。 こんなテクは、普通の本などにはあまり載っていないことですから、ぜひ、参考にして下さい。

この、バックとリブ、ネックのカエデ材は米産のカーリー・メイプル製。

カエデ材の原木

ずっと以前、「丸太」、とはいっても、50cmほどの長さの端材を静岡市のある建材メーカーから買い、手持ちだったもの。
(写真 左側のものがそれ、右側はバーズ・アイ・メイプルの原木。)

この建材メーカーさんの扱うカエデ材は、北米でも五大湖のひとつスペリオル湖の湖底から引き上げられたもの。 大昔、ゴールド・ラッシュ時代に伐採され、川沿いに流され、あるいは、洪水などでスペリオル湖に運ばれて沈んだという木材。
この湖の湖底は、水温がきわめて低く、また、無菌状態に近いので、腐ることもないので、 その引き上げたものを輸入し、薄くスライスして建材にしているというメーカーなのです。

さて、こちらのスリー・サイズ、ボディ長は399mm 、。
アッパー・バウツ=192mm、インナー=126mm、ローア=226mm、
リブ巾=32-36mm

すみや製
すみや製 2

こちらは、十何年か前の作で、当ホームページ、表紙の写真に写っているもの。 アメリカのオレゴン州で製作している、ヘンリー・A・ストローベル氏の設計。氏は、MIT(マサチューセッツ工科大)卒という、秀才肌の製作者。 それだけに、氏の理詰めな考えが好きで、
最初のヴィオラの製作であったが、 迷うことなく彼の図面でつくった。

大きさは、それほど違わないが、各バウツの巾を少しずつ多く取り、さらに、リブ巾もエンド側で膨らめ、内容積を大きくしている。
さしずめ、女性なら、下半身に重量感あふれる多産系、
「ふっくら」、「ふくよか」なタイプであろう。

カエデ材は、2号と同じ北米産のカーリー・メイプル、表板は、ヴァイオリン用として買ったヨーロピアン・スプルースの少し大きなものを流用。
そのため、正面向かって右上に、ホクロのような小さな節が出てしまい、
それは、ドリルでもみ、スプルース材の爪楊枝ほどのピンを埋めて成形。

こちらも、自作の一号ですから愛用品であり、「お気に入り」のもの。

とりわけ、アンサンブル仲間のチェリスト・塩ちゃんからは、「すみやさんのそのヴィオラ、C線の響きがとてもいいね!」と褒められたことがあった。
低弦の塩ちゃんのお褒めだったので、それはとても嬉しい出来事だった。

こちらのスリー・サイズ、ボディ長は397mm 、。
アッパー・バウツ=194mm、インナー=127mm、ローア=244mm、
リブ巾=36-40mm
さてさて、いよいよ[ B: チェコ製 ] の、このページ、当初の目標だった、ほんのささやかなリペアー

裏板・中央の接ぎ合わせの剥がれ(右側)を貼り直し、パッチで補強。

表板も同様、やはり中央の接ぎ合わせの剥がれ
・・・と、まぁ、こちらの修理は本当に単純なものでした。
チェコ製:ただいまリペアー中
B: チェコ製 それぞれのひび割れを直したら、蓋を閉じます。
さて、一般論として、製作方法について、「内枠式は手工品」、「外枠式は量産向き・・・」、 というようにいわれていますが、私が所属する日本バイオリン製作研究会の、 地元の大先輩・野田氏は、手工品なのだがもっぱら外枠式でつくっている。

それは、手順や方法の違いであり、どちらがよくて、
どちらが悪いというものではない、と私は思っている。

ウナギの蒲焼きが、東では背開き、関西では腹開きなのだが、
いずれも間違いなく「蒲焼き」なのである。・・・その程度の違いと私は認識している。
たとえば、このチェコ製のように、コーナーにブロックが使われていなくても、 その部分が弱くて壊れた・・・なんてことは未だに見たことがないし、あっても極めて少ないはず。

それは、『地震の時には、トイレに逃げ込むのが安心』のように、周囲のリブが狭いところに寄せ集まり、結果として、 構造力学的には「耐久壁」の役割を果たしている・・・と、私は見ている。

そうした神話じみたことが信じられているので、この楽器のように、わざわざ「ブロックもどき」のような切片が貼られているのだろうとも思う。

しかも、エフ字孔から見える下のコーナーだけに貼られているのは、そんな卑下した考えで、蛇の絵に足を付け足して描くような、ま さに「蛇足」的な、無駄な行為である。
チェコ製・修復後
B: チェコ製・修復後
大きな傷跡もこの程度に・・

この表板には、アライグマ?に引っ掻かれたような傷があり、
まぁ、それもこの楽器の類歴のひとつだと思えばいいのだ・・・。
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