特別コラム 男の仕事って何なのよ |
とまァそういうフリードキンの思う壺でも何か悔しいので、バカ100連発的にはこの映画の違うところを見るけれども。たびたび個人的な話をするのも何だが、あるときどうして今の仕事をしてるの、と聞かれたことがあった。どうしても何もたまたまですよ、とオレは答えたが、するとじゃあ好きだからやってるんじゃないの?と言う。別に好きだからってこたァないですね、むしろ嫌いなほうじゃねえかな、とまァ正直に答えすぎるオレもオレだが、そしたら私はこの仕事が好きだから!ここの人たちはみんなそうだから!好きじゃなかったら勤まらないよ!考えたほうがいいよ!などといきなり捲し立てられたのである。いやもう絶句しましたよ。ちょっと待て、今どきそんな奴いるか?と思うでしょうが、いるんだよ結構!大した仕事してるんでもないくせに、いつまでも「好きだからやってる」とか言ってる奴らが!
何で自分はこの仕事をするのか、と考えたとき、または聞かれたときにあれやこれや理由を並べ立てるのは素人のすることじゃないか。好きだからやってる?じゃあ魚屋は三度のメシが魚でも文句がないほど魚好きなのか?汲み取りの人はうんこを汲み取る作業が好きだから汲み取りの人なのか?風呂屋の番台の人は裸が好きだから……やめよう。 好きだからやってるの〜、とか言えばまァ話はそこで終われるだろう。自分の人生について、あれこれつまらんことを考えなくて済むし。でもそれは理由にもならない理由をでっち上げて、手前のつまらん人生を正当化してるだけの話だ。 汲み取りの人はどうなるよという話をしたが、オレが中学のときに道を歩いてたら激烈なうんこの匂いがしたので反射的に「く、くさい!」と叫んだら、向こうに停まってたバキュームカーの後ろから汲み取りのオッサンがこっちに歩いてきて「何がくさいんだお前、もう1回言ってみろ」と怒鳴られ、ブン殴られたことがある。 ここで聞くが、好きで汲み取りやってる人がそんな反応するか?汲み取りが好きでうんこが好きで、それでバキュームカーに乗ってるんなら「臭いだろう?よくわかってるねえ」とか満面の笑みを浮かべてオレの頭を撫でたんじゃないか?そういうことを踏まえて、まだ好きじゃなきゃ仕事する権利はないとか言えるか?それとも結構な仕事を好きでやれてる自分は特別で、生活のために汲み取りに従事してる奴は負け犬なのか? 結局男の仕事って何なのよ、いや最近政治的に正しいオレとしては男女を問わず、まァ大人の仕事って何なのよ、という話になれば。 つまり仕事、または自分のすることに対してご大層な能書きをたれるのは大人じゃねえよ、ということをオレは『フレンチ・コネクション』という映画から学んだのである。好きだから、という以外の理由でどうしてオレがわざわざこのバカ100連発に『フレンチ・コネクション』を加えるかといえば、それはたとえばド夜中まで残業した帰り道にひとり歩く新橋。飲んでたら朝の7時になってしまった新宿3丁目。そうした死にたさ200%な空気がこの映画に充満しているからだ。NY86か所オールロケが切り取ってきたそんな風景こそが、この映画の真の見どころだと言っても間違いはあるまい。つまり「あっ…もう7時になってしまった!」どうしよう、と言っても何ら手の打ちようがないという。もはやセンチメンタルな感情すら持てないような。ただそこにいること以外は何もできないというような。もっと言えば何かもう疲れて疲れて、口を開けば「………」という言葉しか出てこないような。
そんなどうしようもない空気の中で、2人の男がとにかく地味に地味に仕事をする。べつだん楽しそうでもないし、むしろイライラしっぱなしだが、かと言って不平不満をたれながらというわけでもない。とにかく仕事をする。何だかんだこの映画のキモはそこなんじゃないか、とオレは思うのである。いやフリードキン的にはいろいろ言いたいこともあっただろう。しかしオレことホークがどうして何度も何度も、それこそビデオテープがラーメン状になるまでこの映画を見たのかと言ったら、それはこの『フレンチ・コネクション」が、黙って働くオッサンたちの映画だったからだ。 だけどまァ、汲み取りのオヤジに殴られましたけれども、オレはそのとき別に腹も立たなかったですよ。今思い出したって全然。しかし例の、仕事が好きじゃないなら勤まらないから云々、なんて言われたときは物凄い腹が立った。お前が自分自身を納得させるために自分に言い聞かせるならまだしも、それをなんでオレに言う権利があるんだよお前。だいたい好きだからやる、自分にしかできないことをやる、そんなこといつまでも言ってるのはいくらなんでも子供っぽくねえか。 もはや理由なんか忘れた、というかもうこれしか知らんから、いま自分の手元にあることしかできないからやってる、というのが大人の態度というもんじゃないのか。 ポパイ刑事が「どうして俺はこんなに頑張るんだろう…」なんてヌルイことを言うか? ラッソ刑事が「僕の本当にやりたいことって、何なんだろう…」とか考えるだけ無駄なことを考えるか? 答えはノーだ。断じて!彼らのすることといったら、何の理由もなくただ闇雲に働くことだけだ。 とにかくそういう理由のなさ、この際だからもうそれをヤケクソと呼ぶけれども。そりゃバキュームカーに乗っててくさ〜いとか言われたら中学生だってブン殴りますよ。だけど中学生を殴ってもやることはやらなきゃいかん、だってメシが食えなくなったら困るから。ていうか理由なんて最初はあったかもしれんがもう忘れたわ、そんなことより今はこれをしなきゃならんのだから黙っとけ!というそんなヤケクソさにのみ、人は心を激しく動かされるんじゃないのか。少なくともオレは心を動かされますよ。 ヤケクソ。無理矢理『フレンチ・コネクション』に話を戻せば、それこそが最後の最後に、ポパイ刑事があっち側へ行ってしまったことの説明になるんじゃないだろうか。ヤケクソの果てにあっち側へ消えた男。そこにはもう理由など何もないのだ。 というわけでもう何の話だかサッパリだが、とにかく『フレンチ・コネクション』、これはなぜ自分はこんなことやってるんだろう毎日毎日、とかそんなことを意味もなく考えがちな現代人が、常に思い出すべき映画なのである。ていうかなあ、いちいち理由がないと何もできねえ奴は寝てろ! |
|
|
|
|
|
|